講演情報

[15-O-L013-08]活動・運動量の底上げによるデイケア卒業への取り組み

*土田 健太郎1、黒澤 圭佑1 (1. 茨城県 介護老人保健施設ナーシングホームかたくり)
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当通所リハビリテーションは在宅強化型の老健の通所部門として利用者様の在宅生活の維持・向上を目的に活動・運動量の底上げに取り組んでいる。頸椎脊柱管拡大術後のA様は痛みや痺れから手に力が入らず、リハビリや活動に消極的であった。無理のない運動の提供から開始し、回復の指標として定期的に握力を測定していった。握力の改善に伴い自信を取り戻し、目標を達成することが出来、半年後にデイケア卒業に至ることが出来た。
【はじめに】
かたくり通所リハビリテーション(以下かたくり通リハ)では「セラピストが1対1で関わるリハビリ」を特徴として、プラットホーム上で徒手的なアプローチを主としてリハビリを提供していた。プログラムも場合によってはいわゆるマッサージ中心ということもまれではなかった。かたくり通リハの母体である介護老人保健施設かたくりは2021年10月から在宅強化型の機能を備えている。在宅復帰された方の生活を支援していくのが在宅強化型の施設の通リハの役割ではないかと考えるようになった。受け身のリハビリから利用者様の活動・運動量の底上げ在宅生活の維持・向上を目的にリハビリ内容を改革していく必要があると職場やスタッフからも声が上がり、プログラムの変更をした。その中で令和5年12月~令和6年6月までのご利用で活動量や運動量を強化して、かたくり通リハを卒業されたケースの経過を報告する。
【事例紹介】
対象者:A様 80歳代 女性
介護度:要支援1 利用回数は週1回。
病歴:頚椎症性脊髄症(R5年10月 同年11月に頸椎脊柱管拡大術実施)
高血圧症、白内障、緑内症、腰部脊柱管狭窄症、腎機能障害
生活歴:長男、長女との3人暮らし。畑仕事や家事、シルバー人材の仕事をしていたが、令和5年9月頃より両手・足の痺れと上肢や頚部に痛みが出現、症状が悪化。術後は手・足の痺れや痛みの緩和が見られているが、術創部の痛みや手指の巧緻性低下、力の入りにくさがあり、退院後もベッドで横になったり、家事動作は娘さんにお願いすることが続いていた。かたくり通リハ利用当初、「包丁など物が握れて、庭の草取りや畑仕事をしたい」という希望があった為、目標設定をした。
【経過と取り組み】
R5.12月:痺れと痛みがあり、訓練では受け身的な様子で、リハビリ以外の時間は本を読むことで過ごされる。リハビリでは関節可動域訓練やストレッチを中心にリハビリ実施。介護職員との連携としては、洗濯物をたたむことを実施して頂くようにした。
R6.1月:寒さの影響で痛みと痺れが強くなるが、タオルをたたむことで手の動きが良くなってきたことを感じるようになる。リハビリ以外の時間で握る力を鍛えるため、ハンドグリップの指導を行い、購入して自宅でも実施する。手の動きが良くなったことで介護職員も、創作活動で作品の色塗りや紙を切る作業を提供。
3月:右手の握力の向上がみられて、「リハビリを実施していくことや身体を動かすことが大事」とやる気がでるようになる。足の力もつけていきたいと希望が出て、エルゴメーターを実施する。歩く時に力が入る感じになると言われて、自宅でもやりたいという事で椅子に座って実施するエルゴメーターを購入する。握力が向上することに喜びを感じて、おやつ作りやレクに積極的に参加するようになる。
4月:痺れと痛みはあるが、利用当初に比べると手や手指に力が入るようになり、塗り絵や手芸を行うようになる。リハビリでも、体力がついてきて屋外を歩くことを実施。自宅でも無理のない範囲で散歩を開始する。施設の花壇の手入れをスタッフと実施する。痺れや痛みはあったが作業出来た事で「目標に近づけた気がする」とまたやりたいという気持ちになる。
5月:リハビリで自ら積極的にプーリーを実施することが見られるようになる。ご友人と一緒に草取りと畑の作業を行い活動への自信がつき、一人でも草取りを行うなど自宅での活動量が増えてくる。デイケアでは介護職員から創作活動を提供される前に、「何かあったら持ってきて」と、自ら行うようになる。
6月:希望していた庭や畑の草取りが行えるようになり、在宅生活に自信がつき卒業となる。
【結果】握力の変化
利用当初R5.12(左:8.6kg・右:6.1kg)、R6.3(左:8.8kg・右:8.6kg)
R6.4(左:10.1kg・右:9.4kg)、R6.5(左:10.9kg・右:10.0kg)
R6.6(左:11.1kg・右:10.1kg)、R6.6.28(左:11.0kg・右:10.4kg)
【考察】
A様はデイケアご利用当初は痺れと痛みにより不安が強く身の回り動作以外の活動やリハビリに消極的であった。手や手指の痺れにより細かな動作が難しく、しっかりと物が握れなかった為、回復の指標に握力測定を実施していった。ご利用3カ月経った所で握力の再評価を行った所、左手の握力の大きな変化はなったが、痺れと痛みが強かった右手の握力が向上してきたことでA様もリハビリや自主トレの効果を感じる事が出来たのではないかと思う。この頃からA様の運動やレクリエーション、ご自宅での活動への意欲の変化が見られ、自主トレも積極的に取り組まれるようになり機能向上や活動・運動量の向上が見られるようになった。デイケアでの創作活動も介護職員と連携し取り組んでもらう事でA様の自信の回復にも繋げる事が出来たのではないかと考える。R6年4月以降は左右の握力とも10kg以上にとなり、5月には草取りや畑仕事に取り組む事が出来ている。全身の筋力や体力の指標に握力の向上が関与しているといった学説があるが、A様も握力の向上を示す通り体力、筋力が向上していたため草取りや畑仕事などの活動が行えるようになったのではないだろうかと考える。
また、当初のA様の希望に沿った目標が達成できたことが6月のデイケア卒業に結びついたと思われる。
【今後の課題】
今回希望であった草取りや畑の作業が行えるようになり、自信がついた事で卒業できた事は相互とも達成感があった。一方、リハビリの中で草取りや畑の作業確認や評価ができなかった事は課題と実感した。また、娘さんと一緒に料理やご友人と草取りや農作業ができるように指導をして情報を共有する事も必要だったと感じた。