講演情報
[15-O-L014-01]言語聴覚士が老健に介入する意義についての検討
*長澤 主紀1 (1. 東京都 公益社団法人地域医療振興協会 東京北医療センター・介護老人保健施設さくらの杜)
STが週1.5~2日老健に介入することで誤嚥性肺炎の予防に貢献できているかを確認する.老健へのST介入あり・なしの2群に分け,誤嚥性肺炎の発生割合を比較検討した.その結果ST介入あり群が,なし群と比較し有意に誤嚥性肺炎の発症を抑制することが明らかとなった.常勤ではなく週2日老健に携わるSTがいれば,誤嚥性肺炎の発症予防に寄与することができると考える.
【目的】
介護老人保健施設(以下老健)の利用者は基礎疾患や老衰、嚥下障害の影響により、たびたび誤嚥性肺炎を発症することがある。老健に言語聴覚士(以下ST)を配属している施設は近年増加してきているが、まだ十分というわけではなく、食事形態の選定や嚥下機能の評価に特化した職員は少ない。
地域医療振興協会(以下当協会)内には8つの老健があるがSTの配属割合は50%未満となっている。そのため当協会では協会内STが非常勤として協会内老健に在籍出向する人材支援システムがある。
STが非常勤にて週1.5~2日老健に介入し、嚥下機能評価や個別訓練、他職種と協働して嚥下機能に則した食事形態を選定すること、摂食環境を調整することで誤嚥性肺炎の予防に貢献できているかを確認することを目的に今回の検討を行った。
【方法】
期間:2016年4月~2023年5月に当協会所属の老健「さくらの杜」と老健「市川ゆうゆう」に入所していた延べ3812名を対象とし、老健へのST介入あり群(以下A群)・介入なし群(以下B群)の2群に分け、誤嚥性肺炎の発生割合を比較検討した。
ST介入内容については、ミールラウンドでの摂食環境評価、個別訓練が必要と判断された方への嚥下機能評価・訓練を実施した。統計解析は、カテゴリー変数の統計分析にフィッシャー正確確率検定を用いp<0.05を統計学的に有意とした。
【結果】
期間中入所者延べ3812名のうち、誤嚥性肺炎を発症した者は203名(5.3%)であった。それぞれの群で発症人数・割合をみてみると、A群では延べ1837名中の誤嚥性肺炎発症者は63人(3.42%)であった。B群では延べ1975名中の誤嚥性肺炎発症者は140人(7.08%)であった。
両群の誤嚥性肺炎発症の年間平均はA群10.5件、B群19.5件であり群間差9件であった。
両群をフィッシャー正確確立検定にて統計分析し、有意差あり(p<0.05) オッズ比0.48(95%信頼区間: 0.33~0.80) であった。A群の方が,B群と比較し有意に誤嚥性肺炎の発症を抑制することが明らかとなった。
【考察】
今回の検討では常勤のSTではなく「週1.5~2日の非常勤体制」と、勤務日数が少なくても誤嚥性肺炎の発症を予防できることが確認できた。
当検討と似た鈴木らの先行論文ではSTの介入方法を3つに大別し、1)食形態調整、2)食事介助方法、3)知識・技術について周知と啓発、を行うことで誤嚥性肺炎の発症が減少したとある。当検討も摂食嚥下の環境調整を行うことや、管理栄養士や施設職員と協働し、一緒に食事評価を行うミールラウンドを実施したことで得られた結果ではないかと考える。
経済的な視点の考察は、肺炎を契機に入院した患者の、入院期間と費用を調査した道脇らの論文があり、その中で全肺炎患者の平均入院期間は14.6日であり、入院費用は1日に平均48,506.1円とある。当検討の誤嚥性肺炎発症の年間平均群間差はB群よりA群の方が9件(人)誤嚥性肺炎の発症が少なく、医療費に計算すると6,373,701.54円(14.6日×48,506.1円/日×9件)の年間医療費が削減されたことになる。また老健側からみた経済的効果は、誤嚥性肺炎で入院した利用者様が、もし要介護2であったことを仮定すると、14.6日間の空床であった場合、1名199,024.2円(14.6日×13,631.8円/日(内訳:介護保険分10,921.8円/日 食費・住居費2710円/日))の減収が見込まれ、その減収が抑制されたことになる。誤嚥性肺炎の治療や入院による医療費の削減効果もあるが、老健の空床・減収を抑制する経済的効果もあると考える。
鈴木らの先行論文との違いは、勤務形態にあると考える。鈴木らは「新規にSTが所属することになった」とあり、常勤なのか非常勤なのかの記述はなかった。その点に関して当検討で誤嚥性肺炎の発症を予防するSTの介入効果は常勤ではない週1.5~2日の勤務形態でも得られると考える。
しかし、市川ゆうゆうではA群(1年間)、さくらの杜ではB群(2年間)の調査期間が短く、施設間での各群の調査期間に差があることは考慮すべき点と考える。また介入効果は確認できたが、「どのような介入内容が効果に影響しているか?」にまでは至っていないため、今後の検討課題と考える。
老健にSTを配置している施設はまだ多くはない。当検討のように週に数日で良いので老健に携わるSTがいれば、誤嚥性肺炎の発症予防や安全な摂食環境の提供、医療費の削減、入院に伴う収入減少の抑制に寄与することができると考える。
介護老人保健施設(以下老健)の利用者は基礎疾患や老衰、嚥下障害の影響により、たびたび誤嚥性肺炎を発症することがある。老健に言語聴覚士(以下ST)を配属している施設は近年増加してきているが、まだ十分というわけではなく、食事形態の選定や嚥下機能の評価に特化した職員は少ない。
地域医療振興協会(以下当協会)内には8つの老健があるがSTの配属割合は50%未満となっている。そのため当協会では協会内STが非常勤として協会内老健に在籍出向する人材支援システムがある。
STが非常勤にて週1.5~2日老健に介入し、嚥下機能評価や個別訓練、他職種と協働して嚥下機能に則した食事形態を選定すること、摂食環境を調整することで誤嚥性肺炎の予防に貢献できているかを確認することを目的に今回の検討を行った。
【方法】
期間:2016年4月~2023年5月に当協会所属の老健「さくらの杜」と老健「市川ゆうゆう」に入所していた延べ3812名を対象とし、老健へのST介入あり群(以下A群)・介入なし群(以下B群)の2群に分け、誤嚥性肺炎の発生割合を比較検討した。
ST介入内容については、ミールラウンドでの摂食環境評価、個別訓練が必要と判断された方への嚥下機能評価・訓練を実施した。統計解析は、カテゴリー変数の統計分析にフィッシャー正確確率検定を用いp<0.05を統計学的に有意とした。
【結果】
期間中入所者延べ3812名のうち、誤嚥性肺炎を発症した者は203名(5.3%)であった。それぞれの群で発症人数・割合をみてみると、A群では延べ1837名中の誤嚥性肺炎発症者は63人(3.42%)であった。B群では延べ1975名中の誤嚥性肺炎発症者は140人(7.08%)であった。
両群の誤嚥性肺炎発症の年間平均はA群10.5件、B群19.5件であり群間差9件であった。
両群をフィッシャー正確確立検定にて統計分析し、有意差あり(p<0.05) オッズ比0.48(95%信頼区間: 0.33~0.80) であった。A群の方が,B群と比較し有意に誤嚥性肺炎の発症を抑制することが明らかとなった。
【考察】
今回の検討では常勤のSTではなく「週1.5~2日の非常勤体制」と、勤務日数が少なくても誤嚥性肺炎の発症を予防できることが確認できた。
当検討と似た鈴木らの先行論文ではSTの介入方法を3つに大別し、1)食形態調整、2)食事介助方法、3)知識・技術について周知と啓発、を行うことで誤嚥性肺炎の発症が減少したとある。当検討も摂食嚥下の環境調整を行うことや、管理栄養士や施設職員と協働し、一緒に食事評価を行うミールラウンドを実施したことで得られた結果ではないかと考える。
経済的な視点の考察は、肺炎を契機に入院した患者の、入院期間と費用を調査した道脇らの論文があり、その中で全肺炎患者の平均入院期間は14.6日であり、入院費用は1日に平均48,506.1円とある。当検討の誤嚥性肺炎発症の年間平均群間差はB群よりA群の方が9件(人)誤嚥性肺炎の発症が少なく、医療費に計算すると6,373,701.54円(14.6日×48,506.1円/日×9件)の年間医療費が削減されたことになる。また老健側からみた経済的効果は、誤嚥性肺炎で入院した利用者様が、もし要介護2であったことを仮定すると、14.6日間の空床であった場合、1名199,024.2円(14.6日×13,631.8円/日(内訳:介護保険分10,921.8円/日 食費・住居費2710円/日))の減収が見込まれ、その減収が抑制されたことになる。誤嚥性肺炎の治療や入院による医療費の削減効果もあるが、老健の空床・減収を抑制する経済的効果もあると考える。
鈴木らの先行論文との違いは、勤務形態にあると考える。鈴木らは「新規にSTが所属することになった」とあり、常勤なのか非常勤なのかの記述はなかった。その点に関して当検討で誤嚥性肺炎の発症を予防するSTの介入効果は常勤ではない週1.5~2日の勤務形態でも得られると考える。
しかし、市川ゆうゆうではA群(1年間)、さくらの杜ではB群(2年間)の調査期間が短く、施設間での各群の調査期間に差があることは考慮すべき点と考える。また介入効果は確認できたが、「どのような介入内容が効果に影響しているか?」にまでは至っていないため、今後の検討課題と考える。
老健にSTを配置している施設はまだ多くはない。当検討のように週に数日で良いので老健に携わるSTがいれば、誤嚥性肺炎の発症予防や安全な摂食環境の提供、医療費の削減、入院に伴う収入減少の抑制に寄与することができると考える。