講演情報
[15-O-L014-02]トイレ排泄に影響する要因の調査と排泄支援方法の検討
*西永 明人1、川原 維代1、中寺 文奈1 (1. 石川県 医療法人社団浅野川介護老人保健施設田中町温泉ケア・センター)
施設内のトイレ排泄に影響する要因を調査した。また排泄実態と排泄動作能力を比較し排泄支援方法を検討した。調査結果から離床時間の長さ、尿便意、立位保持がトイレ排泄に影響し、さらに一般棟では座位保持、認知棟では手続き記憶の影響も示唆された。排泄支援方法について一般棟では福祉用具等の活用による能力維持、認知棟では一定の周辺環境で手続き記憶を利用した排泄の習慣化を図る必要があると考えられた。
【はじめに】
当施設は入所者の在宅復帰に向けた支援に取り組み、現在は在宅超強化型を取得している。支援の過程で本人、家族より排泄面の改善を希望されることが多い。今回私たちは施設内における排泄支援の現状を把握しトイレ排泄に影響する要因を調査するため排泄の実態調査を行った。また排泄実態と排泄動作能力を比較し自立に向けた排泄支援方法について検討した。
【目的】
1.トイレ排泄に影響する要因を調査する。
2.排泄実態と排泄動作能力を比較し自立に向けた排泄支援方法を検討する。
【研究方法】
1.対象
当施設に令和5年11月1日~30日の期間入所していた122名(一般棟86名、認知棟36名)を対象とした。平均年齢は83歳であり、主な病名は認知症、脳血管疾患、整形疾患等であった。入所者の認知症度はMMSE(Mini-Mental State Examination)の得点分類で軽度が23名、中等度が45名、重度が54名であった。
2.調査内容
排泄実態調査に際し「トイレ排泄に関する調査票」を独自に作成した。調査項目は(1)トイレ排泄が可能か不可能か(2)トイレ排泄における介護負担感(3)トイレ排泄を行っていない理由(4)トイレ排泄動作能力の自立度とした。なおトイレ排泄における介護負担感とトイレ排泄を行っていない理由については複数選択可能とした。トイレ排泄動作能力は尿便意・移乗・座位保持・立ち上がり・立位保持・下衣を下げる・下衣を上げる・拭き取りの8項目とし、その自立度は尿便意3段階、それ以外の項目は4段階で判定した。
3.調査方法
理学療法士、作業療法士(以下リハビリ専門職)が各療養棟の介護責任者に聞き取りにより排泄実態調査を行った。またリハビリ専門職がトイレ排泄動作能力の自立度について評価し実態調査の結果と比較した。
【結果】
1.実態調査結果
1)トイレ排泄が可能か不可能かについて
トイレ排泄可能なものは一般棟55%、認知棟83%であった。認知症度別では一般棟が軽度40%、中等度38%、重度22%、認知棟が軽度10%、中等度57%、重度33%であった。
2)トイレ排泄における介護負担感について
一般棟は立位保持が最も多く次に尿便意であった。認知棟は尿便意が最も多かった。
3)トイレ排泄を行っていない理由について
一般棟、認知棟とも尿便意がないが最も多く次いで立位保持ができない、座位保持ができないとなった。
4)トイレ排泄動作能力の自立度について
尿便意の評価では一般棟は尿便意ありが58%、曖昧が38%、なしが4%となり、認知棟は尿便意ありが40%、曖昧が50%、なしが10%であった。他の評価項目で自立・見守りの割合が高かったのは一般棟が座位保持・立位保持であり、認知棟では下衣を上げる、下衣を下げるであった。
2.排泄実態と排泄動作能力の比較結果
排泄実態と排泄動作能力の自立度を比較した結果、尿便意を除く7項目のうち排泄実態が排泄動作能力より低くなった項目は一般棟では拭き取り、下衣を下げる、認知棟では座位保持、立位保持であった。
【考察】
トイレ排泄は一般棟で5割以上、認知棟で8割以上が可能であり、特に認知棟での割合が高かった。認知棟が高い理由として認知棟入所者は活動性が高く日中の離床時間が長いためと考えられ、離床時間の長さはトイレ排泄に影響すると推測される。今後、自立に向けたトイレ排泄支援方法として離床時間を保つために体力維持やホールでの活動を促す取り組みが必要と考えられる。
トイレ排泄における介護負担感については一般棟・認知棟ともに尿便意が多く、また一般棟では立位保持が多かった。これらの動作はトイレ排泄を行っていない理由とほぼ一致しており尿便意や立位保持はトイレ排泄に影響すると推測される。今後の支援方法として尿便意では排泄アセスメントに沿った排泄誘導が必要と考えられる。立位保持について荒井ら1)はトイレ介助が可能となる立位保持時間は30秒以上と述べていることから、今後は立位保持時間30秒以上を目標とした訓練を行う必要があると考えられる。
トイレ排泄動作の自立度について認知棟では尿便意曖昧が半数を占め、トイレ排泄が介助者の定時誘導により行われていることがわかった。一般棟はトイレ排泄者全員が座位保持は自立・見守りで可能であったことから、座位保持はトイレ排泄に影響すると推測される。また認知棟では下衣の上げ下げという複合動作において自立・見守りの割合が高かったことから手続き記憶がトイレ排泄に影響すると推測される。
排泄実態と排泄動作能力の比較結果において一般棟は拭き取り・下衣を下げる動作が排泄実態で低くなった理由として排泄動作能力以外に清潔保持や汚染予防の観点から介助量が増えたと考えられる。今後の支援方法として福祉用具の活用や下げやすい衣類・オムツ等の使用を検討し本人の能力を維持していく必要があると考えられる。また認知棟において座位保持・立位保持動作が排泄実態で低くなった理由として介助者を含めた排泄環境の違いが注意力の差につながったと考えられる。認知症高齢者の排泄介助方法として山本ら2)は介助者を含めた周辺環境を一定にし、対象者の能力を引き出すようなトイレ動作を繰り返し行うことで動作能力が向上すると述べていることから、今後は可能な限り周辺環境を一定にし手続き記憶を利用した排泄の習慣化を図る必要があると考えられる。
【参考文献】
1)荒井沙織、加藤宗規:「脳卒中片麻痺患者におけるトイレ動作介助に必要な立位保持時間―心身機能評価と立位保持時間の関係性―」.了徳寺大学研究紀要第.15:167‐174.2020.
2)山本晋史、福嶋正志、関修司、佐藤孝彦、山口晴保:認知症高齢者における排泄誘導の効果.第28回関東甲信越ブロック理学療法士会.2009.
当施設は入所者の在宅復帰に向けた支援に取り組み、現在は在宅超強化型を取得している。支援の過程で本人、家族より排泄面の改善を希望されることが多い。今回私たちは施設内における排泄支援の現状を把握しトイレ排泄に影響する要因を調査するため排泄の実態調査を行った。また排泄実態と排泄動作能力を比較し自立に向けた排泄支援方法について検討した。
【目的】
1.トイレ排泄に影響する要因を調査する。
2.排泄実態と排泄動作能力を比較し自立に向けた排泄支援方法を検討する。
【研究方法】
1.対象
当施設に令和5年11月1日~30日の期間入所していた122名(一般棟86名、認知棟36名)を対象とした。平均年齢は83歳であり、主な病名は認知症、脳血管疾患、整形疾患等であった。入所者の認知症度はMMSE(Mini-Mental State Examination)の得点分類で軽度が23名、中等度が45名、重度が54名であった。
2.調査内容
排泄実態調査に際し「トイレ排泄に関する調査票」を独自に作成した。調査項目は(1)トイレ排泄が可能か不可能か(2)トイレ排泄における介護負担感(3)トイレ排泄を行っていない理由(4)トイレ排泄動作能力の自立度とした。なおトイレ排泄における介護負担感とトイレ排泄を行っていない理由については複数選択可能とした。トイレ排泄動作能力は尿便意・移乗・座位保持・立ち上がり・立位保持・下衣を下げる・下衣を上げる・拭き取りの8項目とし、その自立度は尿便意3段階、それ以外の項目は4段階で判定した。
3.調査方法
理学療法士、作業療法士(以下リハビリ専門職)が各療養棟の介護責任者に聞き取りにより排泄実態調査を行った。またリハビリ専門職がトイレ排泄動作能力の自立度について評価し実態調査の結果と比較した。
【結果】
1.実態調査結果
1)トイレ排泄が可能か不可能かについて
トイレ排泄可能なものは一般棟55%、認知棟83%であった。認知症度別では一般棟が軽度40%、中等度38%、重度22%、認知棟が軽度10%、中等度57%、重度33%であった。
2)トイレ排泄における介護負担感について
一般棟は立位保持が最も多く次に尿便意であった。認知棟は尿便意が最も多かった。
3)トイレ排泄を行っていない理由について
一般棟、認知棟とも尿便意がないが最も多く次いで立位保持ができない、座位保持ができないとなった。
4)トイレ排泄動作能力の自立度について
尿便意の評価では一般棟は尿便意ありが58%、曖昧が38%、なしが4%となり、認知棟は尿便意ありが40%、曖昧が50%、なしが10%であった。他の評価項目で自立・見守りの割合が高かったのは一般棟が座位保持・立位保持であり、認知棟では下衣を上げる、下衣を下げるであった。
2.排泄実態と排泄動作能力の比較結果
排泄実態と排泄動作能力の自立度を比較した結果、尿便意を除く7項目のうち排泄実態が排泄動作能力より低くなった項目は一般棟では拭き取り、下衣を下げる、認知棟では座位保持、立位保持であった。
【考察】
トイレ排泄は一般棟で5割以上、認知棟で8割以上が可能であり、特に認知棟での割合が高かった。認知棟が高い理由として認知棟入所者は活動性が高く日中の離床時間が長いためと考えられ、離床時間の長さはトイレ排泄に影響すると推測される。今後、自立に向けたトイレ排泄支援方法として離床時間を保つために体力維持やホールでの活動を促す取り組みが必要と考えられる。
トイレ排泄における介護負担感については一般棟・認知棟ともに尿便意が多く、また一般棟では立位保持が多かった。これらの動作はトイレ排泄を行っていない理由とほぼ一致しており尿便意や立位保持はトイレ排泄に影響すると推測される。今後の支援方法として尿便意では排泄アセスメントに沿った排泄誘導が必要と考えられる。立位保持について荒井ら1)はトイレ介助が可能となる立位保持時間は30秒以上と述べていることから、今後は立位保持時間30秒以上を目標とした訓練を行う必要があると考えられる。
トイレ排泄動作の自立度について認知棟では尿便意曖昧が半数を占め、トイレ排泄が介助者の定時誘導により行われていることがわかった。一般棟はトイレ排泄者全員が座位保持は自立・見守りで可能であったことから、座位保持はトイレ排泄に影響すると推測される。また認知棟では下衣の上げ下げという複合動作において自立・見守りの割合が高かったことから手続き記憶がトイレ排泄に影響すると推測される。
排泄実態と排泄動作能力の比較結果において一般棟は拭き取り・下衣を下げる動作が排泄実態で低くなった理由として排泄動作能力以外に清潔保持や汚染予防の観点から介助量が増えたと考えられる。今後の支援方法として福祉用具の活用や下げやすい衣類・オムツ等の使用を検討し本人の能力を維持していく必要があると考えられる。また認知棟において座位保持・立位保持動作が排泄実態で低くなった理由として介助者を含めた排泄環境の違いが注意力の差につながったと考えられる。認知症高齢者の排泄介助方法として山本ら2)は介助者を含めた周辺環境を一定にし、対象者の能力を引き出すようなトイレ動作を繰り返し行うことで動作能力が向上すると述べていることから、今後は可能な限り周辺環境を一定にし手続き記憶を利用した排泄の習慣化を図る必要があると考えられる。
【参考文献】
1)荒井沙織、加藤宗規:「脳卒中片麻痺患者におけるトイレ動作介助に必要な立位保持時間―心身機能評価と立位保持時間の関係性―」.了徳寺大学研究紀要第.15:167‐174.2020.
2)山本晋史、福嶋正志、関修司、佐藤孝彦、山口晴保:認知症高齢者における排泄誘導の効果.第28回関東甲信越ブロック理学療法士会.2009.