講演情報
[15-O-L014-05]在宅復帰を目指して~セラピー犬との歩行練習~
*松井 美佳1 (1. 岡山県 介護老人保健施設おとなの学校岡山校)
昨年「筋力低下の予防」を目標にセラピー犬との歩行練習に取り組んだM様より、ドッグセラピーの継続希望があり、前回よりレベルアップを目指した歩行練習を実施した。今回の歩行練習では在宅復帰に必要となる「自立歩行」「小回りの方向転換」これらの2つの動きを取り入れた。その結果、セラピー犬とのより深い信頼関係を構築し、麻痺側へのアプローチにより、平衡反応の維持・向上に繋がり、目標達成した。
【はじめに】
M様は81歳男性、脳梗塞後遺症により左上下肢麻痺があり短下肢装具を着用している。施設内では車椅子を利用しているが、ご自宅では4点杖歩行、自立歩行で生活されている。入所時にM様よりドッグセラピーの継続希望があり、「自立歩行」「小回りの方向転換」を取り入れたセラピー犬との歩行練習を実施する事にした。また、おとなの学校では自律の支援の理念のもと、退所時に3か月間の生活の様子を発表する成果発表会を行っており、今回の練習の成果を披露した。
【目的】
昨年の入所時にセラピー犬「はる」と歩行練習に取り組み、今回の入所ではM様より「ドッグセラピーも引き続きお願いしたい」という継続希望があり、前回の取り組みよりレベルアップした「自立歩行」「小回りの方向転換」を取り入れた歩行練習を実施する事にした。
【方法】
セラピー犬と3つのコーンをS字に歩行する練習を2~3往復を目安に行った。セラピー犬のリードは2本付け、1本はM様もう1本はドッグセラピストが持つようにした。練習の最初は歩行の動きの確認としてリードは2本付け、練習の成果に応じてリードの本数も変更した。
【実施期間】
2024年2月25日~4月23日。計10回練習を行った。
【実施内容】
〈歩行練習1回目〉
昨年の練習から約1年経過しているため、最初は直線歩行でM様と「はる」の動きの復習と確認を行った。歩行後、右回りに方向転換し椅子に座る際にふらつきがあった。数回練習すると動きやタイミングを思い出し直線では「はる」とスムーズに歩行できていた。その後コーンを2つ置きS字歩行を行うと、M様が「はる」の尻尾を踏まないよう動きを気にかけて下さり、その際にふらつきがあった。リハビリスタッフのサポートの下すぐに姿勢を戻し歩行できていた。
〈歩行練習2回目〉
M様より「コーンは3つの方がええ」と提案があり3つに変更した。歩行は安定しており、「はる」もM様と自発的にアイコンタクトを取りペースを合わせながら歩行できていた。M様から「はる」におやつを与えて頂く際にはどちらの手におやつがあるか、麻痺側である左腕を動かし「はる」とコミュニケーションを図って下さった。
〈歩行練習3回目〉
リードを2本付けた補助有での歩行は安定しており、「はる」の集中力も良かった為、3往復目の帰りはリードを1本に減らしM様だけにリードを持って頂きS字歩行に挑戦した。M様は「はる」の動きに合わせて歩行して下さっていた。コーンを回る際に「はる」が先に進みすぎてしまい、M様が大股歩行になりふらつく場面があった。今後はリード1本でのM様と「はる」の歩行を目指した動きの練習を取り入れることとした。
〈歩行練習4回目〉
M様と「はる」のみの歩行を想定した動きを細かく確認しながら練習を行った。M様は早足、大股歩行になり姿勢崩れが多くあったがリハビリスタッフのサポートだけではなくご自身で姿勢修正、立ち直り反応の動きがみられた。1つ目のコーンはM様と「はる」は並歩で方向転換し、2つ目は「はる」が先頭を歩行、3つ目では再度並歩することで歩行スピードを調整し、スムーズに歩行出来るようにした。M様に「はる」の動き方を伝え、練習を重ねた。ドッグセラピストは遠隔で「はる」へ動きの指示を出すこととした。
〈歩行練習6回目〉
練習1回目から歩行が安定しており、姿勢良く体を起こして歩行できていた。「はる」がM様を見上げ、M様が方向転換する際には自発的に立ち止まり待つ様子が見られた。また、M様より「行こう」と声をかけて下さることが増えた。
〈歩行練習7回目〉
「はる」も動きを理解し始め集中していたためリード1本での練習を開始した。歩行中リードが張り「はる」が前に進めない様子にM様が気づきリードを緩めて下さった。M様は足元だけではなく「はる」の動きも確認して下さっていた。
〈歩行練習8回目〉
「はる」の視線がドッグセラピストではなくM様に向くようになり、リードを1本にした際にもドッグセラピストは遠隔での指示のみで歩行可能となった。「はる」はM様を見上げ、歩行のタイミングを自発的に合わせている様子が見られた。
〈成果発表会披露〉
本番は往路ではリード2本、復路ではリード1本での歩行練習の成果を発表した。M様は練習の時のように「はる」とタイミングを合わせ、安定した歩行であった。「はる」も自発的にM様とアイコンタクトを取りながら行えていた。発表後にはM様の奥様より「はるちゃんいつもありがとう」とのお言葉を戴いた。
【結果と考察】
当初の歩行は、小回りの方向転換の際に姿勢崩れや横へのふらつきが見られていた。練習開始時の歩行は自身の足元のみに集中し「はる」が居ることで「はる」の動きも確認しなければならない状況であった。しかし、練習を重ねてきた事で姿勢を自己修正する様子や立ち直り反応が見られ、バランスの安定性が向上していった。最終的に周りの状況や環境を確認しながら歩行が出来るようになり自信と余裕が見られるようになった。そして、M様と「はる」がお互いの動きを確認し合う様子が増えたことで、「はる」はM様のペースに合わせて歩く、方向転換の際には立ち止まり顔を見上げて待つ様子が見られ、より深い信頼関係が構築できたことで安定した歩行に繋がった。前回よりレベルアップした歩行に挑戦したことで、麻痺側へのアプローチ、平衡反応の維持・向上に繋がる練習となったと考えられる。
【終わりに】
今回のセラピー犬との歩行練習は、自宅を想定した動作練習、体調に合わせた運動負荷量、麻痺側へのアプローチ、応用となる歩行練習をリハビリスタッフと協力し継続して行ったことで在宅復帰を目指した自律の支援を行うことが出来た。今後も利用者様が自分らしく生活出来るようセラピー犬とリハビリ介入を行っていきたい。
M様は81歳男性、脳梗塞後遺症により左上下肢麻痺があり短下肢装具を着用している。施設内では車椅子を利用しているが、ご自宅では4点杖歩行、自立歩行で生活されている。入所時にM様よりドッグセラピーの継続希望があり、「自立歩行」「小回りの方向転換」を取り入れたセラピー犬との歩行練習を実施する事にした。また、おとなの学校では自律の支援の理念のもと、退所時に3か月間の生活の様子を発表する成果発表会を行っており、今回の練習の成果を披露した。
【目的】
昨年の入所時にセラピー犬「はる」と歩行練習に取り組み、今回の入所ではM様より「ドッグセラピーも引き続きお願いしたい」という継続希望があり、前回の取り組みよりレベルアップした「自立歩行」「小回りの方向転換」を取り入れた歩行練習を実施する事にした。
【方法】
セラピー犬と3つのコーンをS字に歩行する練習を2~3往復を目安に行った。セラピー犬のリードは2本付け、1本はM様もう1本はドッグセラピストが持つようにした。練習の最初は歩行の動きの確認としてリードは2本付け、練習の成果に応じてリードの本数も変更した。
【実施期間】
2024年2月25日~4月23日。計10回練習を行った。
【実施内容】
〈歩行練習1回目〉
昨年の練習から約1年経過しているため、最初は直線歩行でM様と「はる」の動きの復習と確認を行った。歩行後、右回りに方向転換し椅子に座る際にふらつきがあった。数回練習すると動きやタイミングを思い出し直線では「はる」とスムーズに歩行できていた。その後コーンを2つ置きS字歩行を行うと、M様が「はる」の尻尾を踏まないよう動きを気にかけて下さり、その際にふらつきがあった。リハビリスタッフのサポートの下すぐに姿勢を戻し歩行できていた。
〈歩行練習2回目〉
M様より「コーンは3つの方がええ」と提案があり3つに変更した。歩行は安定しており、「はる」もM様と自発的にアイコンタクトを取りペースを合わせながら歩行できていた。M様から「はる」におやつを与えて頂く際にはどちらの手におやつがあるか、麻痺側である左腕を動かし「はる」とコミュニケーションを図って下さった。
〈歩行練習3回目〉
リードを2本付けた補助有での歩行は安定しており、「はる」の集中力も良かった為、3往復目の帰りはリードを1本に減らしM様だけにリードを持って頂きS字歩行に挑戦した。M様は「はる」の動きに合わせて歩行して下さっていた。コーンを回る際に「はる」が先に進みすぎてしまい、M様が大股歩行になりふらつく場面があった。今後はリード1本でのM様と「はる」の歩行を目指した動きの練習を取り入れることとした。
〈歩行練習4回目〉
M様と「はる」のみの歩行を想定した動きを細かく確認しながら練習を行った。M様は早足、大股歩行になり姿勢崩れが多くあったがリハビリスタッフのサポートだけではなくご自身で姿勢修正、立ち直り反応の動きがみられた。1つ目のコーンはM様と「はる」は並歩で方向転換し、2つ目は「はる」が先頭を歩行、3つ目では再度並歩することで歩行スピードを調整し、スムーズに歩行出来るようにした。M様に「はる」の動き方を伝え、練習を重ねた。ドッグセラピストは遠隔で「はる」へ動きの指示を出すこととした。
〈歩行練習6回目〉
練習1回目から歩行が安定しており、姿勢良く体を起こして歩行できていた。「はる」がM様を見上げ、M様が方向転換する際には自発的に立ち止まり待つ様子が見られた。また、M様より「行こう」と声をかけて下さることが増えた。
〈歩行練習7回目〉
「はる」も動きを理解し始め集中していたためリード1本での練習を開始した。歩行中リードが張り「はる」が前に進めない様子にM様が気づきリードを緩めて下さった。M様は足元だけではなく「はる」の動きも確認して下さっていた。
〈歩行練習8回目〉
「はる」の視線がドッグセラピストではなくM様に向くようになり、リードを1本にした際にもドッグセラピストは遠隔での指示のみで歩行可能となった。「はる」はM様を見上げ、歩行のタイミングを自発的に合わせている様子が見られた。
〈成果発表会披露〉
本番は往路ではリード2本、復路ではリード1本での歩行練習の成果を発表した。M様は練習の時のように「はる」とタイミングを合わせ、安定した歩行であった。「はる」も自発的にM様とアイコンタクトを取りながら行えていた。発表後にはM様の奥様より「はるちゃんいつもありがとう」とのお言葉を戴いた。
【結果と考察】
当初の歩行は、小回りの方向転換の際に姿勢崩れや横へのふらつきが見られていた。練習開始時の歩行は自身の足元のみに集中し「はる」が居ることで「はる」の動きも確認しなければならない状況であった。しかし、練習を重ねてきた事で姿勢を自己修正する様子や立ち直り反応が見られ、バランスの安定性が向上していった。最終的に周りの状況や環境を確認しながら歩行が出来るようになり自信と余裕が見られるようになった。そして、M様と「はる」がお互いの動きを確認し合う様子が増えたことで、「はる」はM様のペースに合わせて歩く、方向転換の際には立ち止まり顔を見上げて待つ様子が見られ、より深い信頼関係が構築できたことで安定した歩行に繋がった。前回よりレベルアップした歩行に挑戦したことで、麻痺側へのアプローチ、平衡反応の維持・向上に繋がる練習となったと考えられる。
【終わりに】
今回のセラピー犬との歩行練習は、自宅を想定した動作練習、体調に合わせた運動負荷量、麻痺側へのアプローチ、応用となる歩行練習をリハビリスタッフと協力し継続して行ったことで在宅復帰を目指した自律の支援を行うことが出来た。今後も利用者様が自分らしく生活出来るようセラピー犬とリハビリ介入を行っていきたい。