講演情報

[15-O-L015-01]介護老人保健施設における自立支援への取り組み

*森 あすみ1、中條 裕介1 (1. 神奈川県 介護老人保健施設都筑シニアセンター)
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本研究は、介護老人保健施設における自立支援の取り組みを報告するものである。人材不足、感染症対応等の多忙な現場においても介護職とリハビリ職のチームケアを強化し、生活リハビリを強化するために2つの研修を実施した。研修後のアンケート結果では、全参加者が内容を理解し、実践に役立つと回答。職種間の連携強化やスキル向上まで確認された。今後も多職種が連携し、共通認識をもって自立支援を進める重要性を再認識できた。
1.はじめに
本研究は、介護老人保健施設都筑シニアセンターで実施した自立支援に関する取り組みを報告するものである。介護人員不足や昨今の新型コロナウイルス感染症の影響により介護職が多忙を極め、職種間のコミュニケーション不足や、支援計画の一貫性の欠如が生じていた。介護職とリハビリ職の業務が分断され自立支援介護に取り組みにくくなっていた状況を打開し、生活リハビリテーションを再びスタートさせるため、2つの主要な研修を実施した為報告する。

2.取り組み
本研究では、事例検討研修と自立支援研修の2つの取り組みを実施した。まず、事例検討研修について説明する。この研修は毎月1回開催し、1名のケースを選出し、60分間にわたって情報交換とケース検討を行った。通常のカンファレンスとは異なる点は、ケース検討の疑似体験を繰り返すことによる経験値の向上を目的とし、ケースの担当に限らず全フロアの全職種に参加を促したことである。ケース選出にあたっては、在宅復帰予定者や目標設定が曖昧になりやすい維持期の利用者も含めることで検討内容を広げた。幅広い視点で議論を促進し、職種間や担当フロア間の垣根を越えた協働関係の構築を図った。
次に、自立支援研修について説明する。この研修では、個々のスキルアップと生活リハビリテーションに関する共通認識の強化を目的とした。研修の講師は理学療法士が担当し、1.老健の役割と自立支援の必要性を再確認2.ICFの概念を用いた生活像の捉え方3.リハビリテーションはチーム全員で取り組む、の3つのテーマを主軸とした。この研修も全職種の出席を促し、異なる時間帯に全6回に分けて行った。これによりシフト制や変則勤務の壁を乗り越え、常勤職員の全員出席を達成することができた。研修の演出は新人職員や特定技能実習の外国人職員にも伝わりやすいよう、イラストやアニメーションを用いた可視化、実演、施設内実例を交えて構成した。また、出席者の介護職(36名)、リハビリ職(6名)、看護・歯科・栄養部門(11名)、事務・相談員(14名,※一部複数出席)を対象に研修の事後アンケートを実施し意識の変化を追った。

3.結果
研修効果を評価するための事後アンケートは、(1)「明日からの実践に役立つ内容だったか」(2)「研修内容は理解できたか」(3)自由記述及び口頭聴取に分けて行った。
(1)に対し、全参加者が「大変役に立つ」もしくは「役に立つ」と回答。特に介護職では78%が「大変役に立つ」と回答した。
(2)に対しても、全参加者が「よく理解した」もしくは「理解した」と回答した。
(3)自由記述や口頭聴取においては多くの前向きな声が寄せられた。自立支援への取り組み意識について、「忙しさを理由に自立支援の声を上げにくいと感じていた。施設を挙げて研修を行ってもらえて良かった。」「リハビリ内容には口出しをしてはいけないものだと思っていた。声を掛けやすくなって良かった。」という意見があった。また、モチベーションについては、「忙しすぎて介護がルーティーン化していたが、介助中にICFの概念図が浮かび、自分たちが行う介助1つ1つの効果を考えるようになった。介護の仕事は奥が深く、やりがいを感じられた。改めて楽しいと思った。」という声があった。さらに、多職種で自立支援介護へ取り組んだことついては、「他のフロアの視点を学ぶことができ、介助拒否傾向のあった利用者に対するアプローチを実践できた。結果的に徐々に介助量が減り車椅子が不要となり、利用者と自分自身の身体的、精神的な負担が減っていくことを体感できた。」という意見も寄せられた。

4.考察
取組対象者を全職種とした為、今回の取り組みでは異なる職種・経歴・国籍の職員が入り混じる研修となったが、全参加者の理解を促せていることがアンケート結果から確認できた。今回の取り組みが職員の意識改革と行動変容に寄与し、多職種連携と個々のスキルアップの重要性を再認識させることができた。学びを介護現場で実践して自立支援の効果を実感してもらうことができ、介護職員のモチベーションが向上している点も大きな成果であった。また、取り組み以後の変化においても、申し送りや臨時カンファレンスの増加、研修自体への出席率の向上など、実践的なチーム力強化にも繋がってきている。
今後も老健の役割を適切に認識した上で統一した方向性で多職種が連携し、モチベーションを保ちながら自立支援を進められるよう継続して取り組むことが必要だと再認識できた。

5.おわりに
本研究は、多職種連携を行うための環境作りの重要性と、共通認識を強化するための取り組みが必要であることを改めて理解させられるものとなった。また、組織を挙げて取り組んだことにより、職種間・個人間の考えが異なりながらも足並みを揃えて改革を進めることができるようになった。これにより取り組み速度と効果を更に向上できたと考えている。今後は、ア.啓発の継続に関し既存職員への継続的な研修の実施、イ.早期人材育成に関し新入職員対象研修への導入、また、ウ.現場への反映については、研修は1つの手段に過ぎないことを念頭に、取り組み内容を介護現場の末端まで浸透させる必要がある。取り組み事後アンケートや口頭聴取結果を各フロアリーダーと共有する、各フロアミーティングでの取り組み報告と再共有を徹底する、現場レベルで自立支援ケアのリーダー人材を育成する等、取り組み効果を最大化できるよう関わり続けていきたい。
人材不足、感染症対応など、社会的困難は今後も予想され、その都度適切な対応が求められる。それらを理由に諦めることなく、利用者のためになる介護老人保健施設であり続けられるよう、組織的な取り組みを継続し多職種連携による支援計画一貫性の強化、在宅復帰・療養支援に取り組んでいく。