講演情報

[15-O-L015-05]何を診る?居宅訪問でのリハビリ職の役割

*小宮 悠一郎1 (1. 三重県 介護老人保健施設つつじの里)
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居宅訪問でどのように専門性を発揮していくかの検討を行った.診てくる内容に関しては、環境面だけでなく、ご利用者様の生活背景や気持ちの変化等を評価する必要があると感じ、ご利用者様らしさが分かる情報を引き出し、得てくることができるのがリハビリ職の強みとしていければと考える.リハビリ職として「人」と「環境」と「生活」を結び付けた評価を行い他職種との協働にて在宅復帰を現実的なものとして取り組んでいきたい.
【はじめに】 介護老人保健施設においては、介護を必要とする高齢者の自立を支援し、家庭への復帰を目指すために、医師による医学的管理の下、看護・介護といったケアはもとより、作業療法士や理学療法士等によるリハビリテーション、また、栄養管理・食事・入浴などの日常サービスまで併せて提供する施設である.在宅復帰を目指すうえで、支援を行う多職種が実際のご自宅でのご利用者様の様子を把握することは、入所後のサービスの質に大きく影響し、具体的な支援を行う為に居宅訪問は有効な手段と言える.最近の介護報酬改定においては、認知症短期集中リハビリテーション加算iの要件に「入所者が退所後生活する居宅又は社会福祉施設等を訪問し、当該訪問により把握した生活環境を踏まえたリハビリテーション計画を作成していること.」という文言も明記されており、より一層、居宅訪問による情報収集の必要性を強く感じる.しかしながら、居宅訪問の実施においては業務の都合上、全ての職種が同行することは難しく、同行した職員からの情報を頼りにすることが多い現状がある.また、同行する職種や経験によって情報の内容も変わり、十分に現場に伝えることができているかは今後も課題として検討していく必要があると考える.今回、リハビリ職員として入所におけるサービスの質の向上が行えるよう部署内での取り組みを行った為、以下に報告する.
【取り組み】課題として、1)居宅訪問の同行頻度の増加2)情報の質の向上3)サービス内容への反映の3つを挙げそれぞれに対して取り組みを行った.1)居宅訪問の同行頻度の増加に関して、当施設においては、支援相談員が家族様との窓口となり、居宅訪問の日程調整を行っている.まずは、安定した居宅訪問への同行ができるよう、リハビリ職員の予定を事前に配布し、ご家族様との調整の際にリハビリ職員が同行しやすいよう配慮していただくとともに支援相談員との日程共有フォルダを作成し、普段から居宅訪問の調整のやりとりを行うようにした.2)情報の質の向上に関しては、居宅訪問報告書の項目を統一化し、その流れに沿えば必要な情報が揃い、経験年数による差も、ある程度埋めることができるのではと考えた.項目としては、ニーズ(本人・家族様)、環境(家屋情報や福祉用具の有無など)、生活状況(ADLやIADL、趣味や今までの役割など)、課題(在宅復帰をする為の具体的な課題)、改善目標の5項目である.3)サービス内容への反映に関しては、カンファレンス場面でサービス内容の検討を行ったり、日常的なエリアリハに趣味や役割を組み込んでもらうことでリハビリ以外の時間においてもその人らしく過ごせる時間や環境を作ることを意識した.
【結果】 1)居宅訪問の同行頻度の増加に関しては、ご家族様の都合やご利用者様の心身の状態により、必ずしもリハビリ職員が同行できる日程で行けるわけではないものの、支援相談員との共有フォルダでやりとりを行うことで、他職種協働や業務管理能力の向上が自然に行え、取り組み前よりも同行数は増えている.2)情報の質の向上に関しては、最低限の情報収集は可能であるものの、経験の差や他者に分かりやすく伝える工夫には個人差があり、部署内での教育を併せて行うことで今後更に改善が見込まれると感じる.しかし、成功例もあり、居宅訪問で得た情報により在宅復帰に向けご利用者様と具体的な話し合いが行なえたことで、ご利用者様の在宅復帰へのモチベーションを維持しながら施設生活が送れているケースもある.そういった成功例を他部署と共有し増やしていくことで職員の自信にも繋がると感じた.3)サービス内容への反映に関して、実際の環境を真似、ベッドの向きや高さ、トイレの配置など環境面での反映は行いやすいものの、趣味や役割などの実際の活動支援においては、入所の原因となった疾患の影響や自信の喪失により介入が行いにくい印象があった.
【考察】 今回、リハビリ職として居宅訪問でどのように専門性を発揮していくかの検討を行った.求められる知識や提案力を向上させる為にはある程度の経験は必要であり、今後も同行頻度を増やし、経験を積みつつ知識を深めていきたい.また、実際に診てくる内容に関しては、段差の高さや廊下の幅を測るなどの環境面だけでなく、ご利用者様の生活背景や気持ちの変化などを評価する必要があると感じ、そういったご利用者様らしさが分かる情報を引き出し、得てくることができるのがリハビリ職の強みとしていければと考える.ご利用者様の個性が具体的に把握できれば、施設でのサービスへの反映も行いやすく、在宅復帰をより意識した取り組みが行えるのではないかと考える.
【まとめ】 介護老人保健施設において、漫然としたサービスの提供ではなく、在宅復帰を目標とした具体的な支援が求められている.しかし、それは施設内の生活だけでは把握できず、居宅訪問を通じて情報を得る必要がある.その情報の質を上げる為、今後もリハビリ職として「人」と「環境」と「生活」を結び付けた評価が重要であり、他職種との協働にて在宅復帰を現実的なものとして取り組んでいく必要がある.今回の取り組みはリハビリ部署内で行ったが、先でも述べたように成功例を多く作り、他職種と共有することで施設全体の意識や自信の向上につなげていきたい.