講演情報

[15-O-L015-06]多職種連携と意欲の向上

*石井 静香1、下御領 侑椰1、大田 和樹1、竹村 周記1、立津 梨恵1、山田 祐歌2 (1. 熊本県 介護老人保健施設リバーサイド御薬園、2. 人吉リハビリテーション病院)
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高次脳機能障害があり、在宅復帰に向けての目標共有が難しい利用者に対して、施設内の多職種連携のみならず、紹介元の回復期リハビリテーション病院(リハビリテーション専門医)との密な連携やの協力を得ることで、本人の意欲向上と、ADL改善を認め、在宅復帰が現実的になった事例について報告する。
【はじめに】
 当施設は超強化型老健として、リハビリテーション専門職(以下、リハ職)を多数配置し、多職種協働による生活リハビリテーション(以下、生活リハ)にも力を入れている。加えて、定期的に関連法人の回復期リハビリテーション病院のリハビリテーション専門医(以下、リハ医)の助言も受けながら、リハビリテーションの質向上に日々努めている。その中で家に帰りたいという希望は強いが、高次脳機能障害による病識低下や強いこだわりから、本人、職員、家族の目標の共有ができず、在宅復帰実現が困難であった利用者に対して、施設内の職員はもちろん、リハ医を含めた定期的なアプローチで状況が好転した例について報告する。
【対象者の入所時状況】
 70代の女性。右頭頂葉皮質下出血にて回復期リハビリテーションを4ヶ月実施後、在宅復帰に向けたリハビリテーション継続のため入所。要介護3、障害高齢者の日常生活自立度B2、認知症高齢者の日常生活自立度2a。日常会話に大きな問題はなく、MMSE/HDS-Rはともに26点。認知機能は比較的保たれているが注意障害や危険認知力低下、左半側空間無視といった高次脳機能障害の影響でADLに介助を要し、能力以上のことをしようとする発言や行動がみられ、転倒やけがの危険性が極めて高い状況であった。左麻痺(BRS上肢2・下肢2)、AFO装具着用。FIM(更衣・トイレ動作・移乗・移動は一部介助~全介助)。移動は自走式車椅子使用するが、壁に衝突し数mが上限であった。歩行は、足の振り出し・重心移動において介助が必要で軽介助~中等度介助で10m程度の訓練レベルの歩行。ご本人は、歩行へのこだわりが強く、歩行訓練の意欲や希望は高い一方で、在宅復帰に必須であるトイレ動作訓練への意欲は乏しく、ほぼ全介助状態であった。
【家族や家屋の状況】
 夫、長男との三人暮らしで日中は夫と二人。持ち家で車椅子が通れる幅はあるため、在宅復帰時は車椅子の自走を想定。屋外と玄関の段差は昇降機のレンタルを検討。トイレに入るには数mの歩行が必要なため、ポータブルトイレの使用を検討している。危険認知面の低下から、一人でポータブルトイレに移乗する危険性があり、夫の介護負担を軽減するためにもトイレの自立が望ましい。
【在宅復帰の目安(≒生活リハでの目標)】
1.車椅子自走が一人で安全に行える(周囲に気を遣いながら安全操作の抜けなく自走ができる)
2.自宅ではポータブルトイレを使用し、安全に移乗、トイレ動作が行える。
【アプローチ(初期)】
 1.当施設ではリハ職がまとめ役として、多職種も交えて、利用者其々の生活リハ目標を設定し取り組んでいる。その中でも、本事例は在宅復帰実現のため、集中的に取り組む利用者として対象とした。2.施設内の移動は車椅子自走を行い、ホールから居室までの短距離移動から開始した。動線を確認しながら壁にぶつかりそうな時には近くの見守り職員が声をかけ、方向転換や自走方法の修正を行った。3.トイレ動作は、足の踏みかえ・立位保持・下衣の上げ下げに協力動作の促しを行い、できる限りの自立を目指した。
【結果と変更点】
 アプローチ2は、本人の「自分で好きなところに動きたい」との意欲、看護職・介護職の積極的な協力もあって、車椅子自走が安全にできるようになった。しかし、アプローチ3のトイレ動作については、本人のトイレ動作訓練への意欲が乏しく、依存的であり、介助量は多いまま改善が乏しかった。また回復期病棟入院中と比べると、リハ提供時間が短いこと、特に歩行訓練が短くなることに対しての不満も募る状況だった。そのことをリハ医に相談。直接利用者に、在宅復帰を実現するためには、トイレ動作の獲得が必須であること、移動に関しては(歩行訓練は続けながらも)日常生活では車いすでの移動が現実的であることを説明してもらったところ、ご本人も納得し、以前よりも意欲的に取り組み、能力の向上がみられた。リハ医の診察は一度のみならず定期的に行い、ADL状況の診察ならびに都度本人に対して在宅復帰に向けての目標確認を行いながら、意欲維持に努めている。家族に対しても適宜状況を説明し、必要な介護指導等を定期的に行っている。
【考察】
 回復期病棟から脳血管障害や大腿骨骨折後で老健に入所される利用者の方は、比較的認知面も保たれた若い方も多い。病態や障害受容ができておらず、機能回復が横ばいとなり、老健でのリハ提供時間が回復期と比べると短くなってしまうことから、本人の意欲の低下、不満から、思うようにリハビリテーションが進まず、在宅復帰が困難となる例をこれまでも経験した。加えて今回は、本人の病態認識が乏しく、こだわりも強い症例であったが、施設内の多職種はもちろん、紹介元のリハ医の協力もあり、在宅復帰に対しての目標を明確にし、本人の意欲向上に努めることができた。今回、効果的なリハビリテーションには本人の意欲が不可欠であることを再認識した。今後も本人・家族を含めた関係者全員で協力しあってリハビリテーションを進めていけるよう、リハ職としての専門性を発揮することはもちろん人と人との間を繋ぐことがきるように努めていく。