講演情報

[15-O-L015-07]STAD、CBAを使用した言語障害者の評価

*鷹嘴 健1 (1. 東京都 南池袋介護老人保健施設アバンセ)
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言語障害者の認知機能や言語能力の評価を行い、ご家族へ共有を実施し、入所者本人への接し方の理解へ繋げられる可能性が示唆されたので報告をする。HDS-R、MMSEで5点未満の利用者本人に対し、STAD、CBAを用いて評価を行い、その結果を共有することにより、ご家族との信頼関係を強化されたと考えられたので報告した。今後は他部門スタッフも評価を実践し、共有することで多職種連携の促進に繋げていきたい。
「はじめに」
失語症状や構音障害等の言語障害の影響で、話の理解や、発話が困難なことにより、HDS-RやMMSEでは極端に低い点数となり、認知機能の評価が十分にできていない現状がある。言語障害あるからといって認知機能が著しく低下しているとは限らない。そのための検査として、言語、構音、非言語の3領域をスクリーニングすることができる言語障害スクリーニングテスト(以下STAD)と、簡便に高次脳機能障害を評価するために用いることができる高次脳機能障害の行動評価である認知関連行動アセスメント(以下CBA)を採択し、評価を開始した。
「目的」
言語障害のある利用者の家族からの入所時の要望の多くはコミュニケーションを上手くとることができず、「話せるようにして欲しい」「少しでも良くなって欲しい」とやや曖昧さのある内容が多く、また、「何かをしてあげたい」という気持ちばかりが強くなっている印象がある。
言語障害へのアプローチには身近な存在であり、利用者本人が落ち着いて存在することができる利用者家族からの協力は不可欠である。
昨今では施設の面会制限も緩和され、利用者と利用者家族が接する機会も格段に増加した。その中で、現在の機能をしっかりと把握し、その特性にあった接し方をすることにより、利用者本人の尊厳を保ちながら、より良い効果をもたらすことができる可能性がある。そのためにも現状でできることとできないことの把握は利用者本人と家族に安心感を与えることができるだろうと考える。
「方法」
HDS-R、MMSEを使用し、その点数が5点以下の認知症短期集中リハビリテーション算定非対象者に対し、
1. 初回時にSTADを実施し、言語能力の評価を実施。
2. 日頃の行動観察を行い、CBAに則り、高次脳機能の評価を実施。
3. ケアプラン時に上記の結果と現時点での接し方について利用者家族へ共有を行う。
4. 3ヶ月後に再度検査、評価を実施し、家族へ結果の共有を行った。
「症例」
1. A様 男性 70代 要介護3 失語症、発語失行、注意障害、右半側空間無視
HDS-Rは6点。「はい」「いいえ」の発語のみの返事、復唱は可能も表出は少なく、注意散漫さあり。アイコンタクトは合いづらく、右側では注意は顕著に低下。オープンクエスチョンでは発語に戸惑う場面あり。家族からも失語症に対するリハビリの強い希望あり。
2. B様 女性 80代 要介護5 運動麻痺なし COVID-19感染後
HDS-Rは0点。アイコンタクト可、発話は流暢ながらも辻褄の合わない発話が多く、会話の成立難しい。やや意識もぼーっとし、表出も乏しくうす暗い印象。
3. C様 男性 80代 要介護5 右片麻痺、失語症、発語失行、注意障害、軽度右半側空間無視
HDS-Rは0点。計3回の脳梗塞の発症。アイコンタクトは可。発語は乏しく、頷き、首振りでの表出がメインだが、曖昧さあり。家では単語カードを使用しての意思表出をしていたが、使わなくなってしまっていた。
「結果」
1. A様
発語失行は概ね改善が見られ、自発話が増加。それに伴うように笑顔の表出も増加した。歌詞を見ながらの歌唱も少しずつできるようになり、施設内を大きな声で歌いながら散歩をできるまでになった。当初のご家族は本人になんとか話させようと必死だったが、面会時には、本人に合わせた話し掛けをし、得意な歌を本人と家族で歌う様子が見られた。「入所時よりも格段に良くなっていると感じました」とのお言葉を頂いた。
2. B様
  初回評価時、言語能力は検査の半分程の点数だったが、3ヶ月後にはほぼ満点をとるまでに改善が見られた。声にも抑揚が出現し、気持ちを積極的に表出することができるようになった。ご家族はその変化を大変喜ばれ、面会時に「お母さんこういうこともできたんだね」と利用者本人とご家族で、笑顔で団欒することができていた。
3. C様
利用者家族に対しては利用者本人の自尊心保護の観点から無理に発語を促さず、病前と変わらない対応の依頼を行った。依然、頷きや首振りでの表出がメインだが、挨拶に対して、発話での返答も可能になった。理解面も正答が増え、自身の名前を漢字で書くことができ、好みの曲を、歌詞を見ながら、口ずさむことも可能になった。
「考察」
目の前の利用者の方とのコミュニケーション方法は多岐にわたり、これが正解というものはないと考えます。そのため、その方が、何ができ、何ができないのかをはっきりと確認をし、しっかりと利用者本人とその取り巻く周りの方に共有をしていくことが大切と考えます。
リハビリテーションを行うにあたり、重要なことは「させられている」のではなく、自ら「する」リハビリに繋げていくことです。できないことを無理にさせることは意欲の低下につながります。そういう意欲低下をもたらす因子は日常の中にある可能性が高く、注意をして確認をしていくことが必要です。中でも、利用者家族は「何とか良くなって欲しい」という思いが強いケースが多く、その意欲が逆効果になってしまっていることも少なくはありません。
「できない」ことに目を向けるのではなく、「できる」ことに目を向けられるように、家族への細かい共有というのは必要になってくるものと考えます。
今回の時点では、リハビリ職員が先駆けとなって、検査、評価、利用者家族への共有を行なって参りました。また、老健での生活の中で、日々関わる機会が多い職員にも同じ事が当てはまります。今後は多様性を包摂する老健のさらなる共進のため、日常の行動観察評価を他部署職員も実践し、CBAでの評価をより深めていき、多職種協働の拡充に繋げていきたいと思います。