講演情報
[15-O-L016-01]ニーズに応じた歩行器を探して当施設ご利用者の歩行能力の現状と歩行器の提供状況
*三井田 知佳1、諸澤 直也1 (1. 神奈川県 グリーンワーフ東戸塚)
当施設は平成30年から在宅復帰超強化型施設として稼働してきた。歩行器を必要に応じ更新をしてきたが、それらの大半はご利用者様が使っている状況で、訓練での使用には調整が必要な状態が続いている。現在のご利用者様に必要な歩行器は何か、歩行訓練や歩行器使用の現状を分析し、必要な歩行器を調達した。そこで得られたご利用者様の歩行器の提供状況と歩行能力の現状について報告する。
【はじめに】
当施設は一般棟・認知症専門棟合わせて120床を有する施設である。理学療法士4人、作業療法士5人、言語聴覚士1人の合計10人の職員で業務を行っている。
平成26年の老健大会において「家に帰りたい!それが帰る時!」という演題で、手探りのなか在宅復帰を進めたケースについて発表をした。その当時、貸し出しできる歩行器が少なかったため、当施設では10台の歩行器を新調して在宅復帰に取り組んできた。平成26年8月に在宅復帰・在宅療養支援機能加算の算定を開始し、平成30年から在宅復帰超強化型施設として稼働してきた。歩行器を必要に応じ更新をしてきたが、それらの大半はご利用者が使っている状況である。そこで、現在のご利用者に必要な歩行器は何か、歩行訓練や歩行器使用の現状を分析し、必要な歩行器を調達した。そこで得られたご利用者の歩行器の提供状況と歩行能力の現状について報告する。
【現状】令和6年4月現在
施設の歩行器
ウォーカータイプ:(固定式)3台 (キャスター付)6台・歩行車タイプ:(普通型)9台 (速度制御付)3台・サークル型歩行器:1台 合計 22台
【集計期間】令和5年5月~令和6年4月の1年間
【集計内容】
1.歩行と歩行訓練の状況
以下の項目について、各月の月末時点で入所しているご利用者を対象として集計し、一か月の平均人数を算出。対象利用者のパーセンテージを計算する。1.歩行訓練を実施している 2.1.のうち歩行器を使用して訓練を実施している 3.施設内歩行が自立している 4.3.のうち歩行器を使用して移動している 5.自宅へ退所 6.5.のうち施設内の歩行が自立している
2.歩行介助量別に分類した歩行器の使用状況
歩行介助量別に歩行器を以下の3つに分類し使用人数を集計、保有台数から使用率を計算する。
◇歩行介助が重度(体幹や下肢筋が弱く歩行器への荷重依存が強い)ウォーカータイプ固定式、サークル型 計4台 ◇歩行介助量は中等度(バランスが不安定でつかまらないと歩けない)ウォーカータイプキャスター付、歩行車タイプ速度制御 計9台 ◇歩行介助量が軽度(短距離であれば独歩や杖歩行が可能) 歩行車タイプ普通型 計9台
【結果】
1.歩行と歩行訓練の状況 月末時点でのご利用者様人数…月平均109.2人
1. 歩行訓練を実施している…86.4人
2. 1.のうち歩行器を使用して訓練を実施している…33.5人
3. 施設内歩行が自立している…23.6人
4. 3.のうち歩行器を使用して移動している…18.7人
5. 自宅へ退所…6.8人
6. 5.のうち施設内の歩行が自立している…1.8人
・ご利用者全体(月平均109.2人)のうち歩行訓練を実施している…79.1%
・歩行訓練実施者(86.4人)のうち歩行器を使用している…38.8%
・ご利用者全体(109.2人)のうち施設内歩行が自立している…21.6%
・施設内歩行が自立しているご利用者(23.6人)のうち歩行器を使用して移動している…79.2%
・自宅へ退所したご利用者(6.8人)のうち施設内の歩行が自立している…26.5%
2.歩行介助量別に分類した歩行器の使用状況
◇重度(4台)…14.92人【使用率373%】◇中等度(9台)…7.25人【使用率81%】◇軽度(9台)…11.33人【使用率126%】
【考察】
ご利用者全体の約80%が歩行訓練を実施していた。歩行訓練には、平行棒歩行、手引き歩行、短距離歩行、長距離歩行、屋外歩行など様々な訓練内容があるが、38.8%が歩行器を使用して訓練をしている。施設内歩行の自立者は全利用者の21.6%で、独歩や杖歩行での自立は少なく大半が歩行器を使用していた。入所用の歩行器は22台あるが、歩行器を使用し歩行が自立している利用者が多いため、訓練で使える歩行器が4台程しかないという現状が見えてきた。
施設保有の歩行器は大まかに5種類で、ウォーカータイプ固定式・ウォーカータイプキャスター付き・歩行車タイプ普通型・歩行車タイプ速度制御・サークル型である。自宅や居室での歩行は伝い歩きや独歩が可能でも、施設内は距離が長いため歩行車タイプ普通型を貸し出し、骨折による術後の利用者は荷重をしっかりと支えるウォーカータイプ固定式を使用するなど、身体機能に合わせ選定している。歩行の介助量別に分類した歩行器の使用状況をみると、その使用率は重度が373%、中等度が81%、軽度が126%となっており、歩行介助量が重度なご利用者様に対応できる歩行器が圧倒的に足りないことが分かった。
自宅に帰るご利用者のうち、施設内歩行が自立しているご利用者は26.5%と少ない。半数以上が車椅子ベースで生活しており、訓練として歩行を行いながら自宅に戻っている。歩行訓練は歩行の練習だけではなく体幹・下肢筋力や立位バランスの維持向上の目的がある。当施設の現状としては、自立に向けた歩行器ではなく、練習段階のサポートができる歩行補助具が必要なことが見えてきた。
【まとめ】
分析結果から、歩行介助量が重度な利用者に対応できる歩行器を選定。ピックアップ歩行器2台、サークル型歩行器1台、前腕支持歩行車各1台の合計5台の歩行器を購入した。5台の歩行器の導入後、手引きや平行棒歩行訓練のみだったご利用者5名が歩行器での練習が可能になり、さらに1名が車椅子から離脱しサークル歩行器でのフロア移動が可能となった。
【おわりに】
10年前は、歩行器を使って施設内歩行の自立を目指し、在宅復帰に繋げるケースを主としていた。しかし、在宅強化型の施設としては様々なレベルのご利用者が自宅に帰れるよう支援していく必要性が高くなっている。リハビリの実施により日常歩行の自立に繋げられるご利用者がいる一方で、施設内歩行の自立には歩行補助具が欠かせない。10年前と比べると歩行器のバリエーションや機能も多様になっており、福祉用具の導入次第で在宅復帰につながることも多いため、様々なニーズに対応できるよう施設の環境を整えていきたい。
当施設は一般棟・認知症専門棟合わせて120床を有する施設である。理学療法士4人、作業療法士5人、言語聴覚士1人の合計10人の職員で業務を行っている。
平成26年の老健大会において「家に帰りたい!それが帰る時!」という演題で、手探りのなか在宅復帰を進めたケースについて発表をした。その当時、貸し出しできる歩行器が少なかったため、当施設では10台の歩行器を新調して在宅復帰に取り組んできた。平成26年8月に在宅復帰・在宅療養支援機能加算の算定を開始し、平成30年から在宅復帰超強化型施設として稼働してきた。歩行器を必要に応じ更新をしてきたが、それらの大半はご利用者が使っている状況である。そこで、現在のご利用者に必要な歩行器は何か、歩行訓練や歩行器使用の現状を分析し、必要な歩行器を調達した。そこで得られたご利用者の歩行器の提供状況と歩行能力の現状について報告する。
【現状】令和6年4月現在
施設の歩行器
ウォーカータイプ:(固定式)3台 (キャスター付)6台・歩行車タイプ:(普通型)9台 (速度制御付)3台・サークル型歩行器:1台 合計 22台
【集計期間】令和5年5月~令和6年4月の1年間
【集計内容】
1.歩行と歩行訓練の状況
以下の項目について、各月の月末時点で入所しているご利用者を対象として集計し、一か月の平均人数を算出。対象利用者のパーセンテージを計算する。1.歩行訓練を実施している 2.1.のうち歩行器を使用して訓練を実施している 3.施設内歩行が自立している 4.3.のうち歩行器を使用して移動している 5.自宅へ退所 6.5.のうち施設内の歩行が自立している
2.歩行介助量別に分類した歩行器の使用状況
歩行介助量別に歩行器を以下の3つに分類し使用人数を集計、保有台数から使用率を計算する。
◇歩行介助が重度(体幹や下肢筋が弱く歩行器への荷重依存が強い)ウォーカータイプ固定式、サークル型 計4台 ◇歩行介助量は中等度(バランスが不安定でつかまらないと歩けない)ウォーカータイプキャスター付、歩行車タイプ速度制御 計9台 ◇歩行介助量が軽度(短距離であれば独歩や杖歩行が可能) 歩行車タイプ普通型 計9台
【結果】
1.歩行と歩行訓練の状況 月末時点でのご利用者様人数…月平均109.2人
1. 歩行訓練を実施している…86.4人
2. 1.のうち歩行器を使用して訓練を実施している…33.5人
3. 施設内歩行が自立している…23.6人
4. 3.のうち歩行器を使用して移動している…18.7人
5. 自宅へ退所…6.8人
6. 5.のうち施設内の歩行が自立している…1.8人
・ご利用者全体(月平均109.2人)のうち歩行訓練を実施している…79.1%
・歩行訓練実施者(86.4人)のうち歩行器を使用している…38.8%
・ご利用者全体(109.2人)のうち施設内歩行が自立している…21.6%
・施設内歩行が自立しているご利用者(23.6人)のうち歩行器を使用して移動している…79.2%
・自宅へ退所したご利用者(6.8人)のうち施設内の歩行が自立している…26.5%
2.歩行介助量別に分類した歩行器の使用状況
◇重度(4台)…14.92人【使用率373%】◇中等度(9台)…7.25人【使用率81%】◇軽度(9台)…11.33人【使用率126%】
【考察】
ご利用者全体の約80%が歩行訓練を実施していた。歩行訓練には、平行棒歩行、手引き歩行、短距離歩行、長距離歩行、屋外歩行など様々な訓練内容があるが、38.8%が歩行器を使用して訓練をしている。施設内歩行の自立者は全利用者の21.6%で、独歩や杖歩行での自立は少なく大半が歩行器を使用していた。入所用の歩行器は22台あるが、歩行器を使用し歩行が自立している利用者が多いため、訓練で使える歩行器が4台程しかないという現状が見えてきた。
施設保有の歩行器は大まかに5種類で、ウォーカータイプ固定式・ウォーカータイプキャスター付き・歩行車タイプ普通型・歩行車タイプ速度制御・サークル型である。自宅や居室での歩行は伝い歩きや独歩が可能でも、施設内は距離が長いため歩行車タイプ普通型を貸し出し、骨折による術後の利用者は荷重をしっかりと支えるウォーカータイプ固定式を使用するなど、身体機能に合わせ選定している。歩行の介助量別に分類した歩行器の使用状況をみると、その使用率は重度が373%、中等度が81%、軽度が126%となっており、歩行介助量が重度なご利用者様に対応できる歩行器が圧倒的に足りないことが分かった。
自宅に帰るご利用者のうち、施設内歩行が自立しているご利用者は26.5%と少ない。半数以上が車椅子ベースで生活しており、訓練として歩行を行いながら自宅に戻っている。歩行訓練は歩行の練習だけではなく体幹・下肢筋力や立位バランスの維持向上の目的がある。当施設の現状としては、自立に向けた歩行器ではなく、練習段階のサポートができる歩行補助具が必要なことが見えてきた。
【まとめ】
分析結果から、歩行介助量が重度な利用者に対応できる歩行器を選定。ピックアップ歩行器2台、サークル型歩行器1台、前腕支持歩行車各1台の合計5台の歩行器を購入した。5台の歩行器の導入後、手引きや平行棒歩行訓練のみだったご利用者5名が歩行器での練習が可能になり、さらに1名が車椅子から離脱しサークル歩行器でのフロア移動が可能となった。
【おわりに】
10年前は、歩行器を使って施設内歩行の自立を目指し、在宅復帰に繋げるケースを主としていた。しかし、在宅強化型の施設としては様々なレベルのご利用者が自宅に帰れるよう支援していく必要性が高くなっている。リハビリの実施により日常歩行の自立に繋げられるご利用者がいる一方で、施設内歩行の自立には歩行補助具が欠かせない。10年前と比べると歩行器のバリエーションや機能も多様になっており、福祉用具の導入次第で在宅復帰につながることも多いため、様々なニーズに対応できるよう施設の環境を整えていきたい。