講演情報

[15-O-L016-06]AIの歩行分析を活用した歩行評価

*田中 陽人1、清水 陽平2、山本 周平3、杉田 遼1、清水 空2、田中 美有2 (1. 山梨県 介護老人保健施設フルリール甲府、2. 介護老人保健施設フルリールむかわ、3. 信州大学医学部附属病院)
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当施設はAIによる歩行分析ツールを導入している。今回、老健利用中の高齢者を対象にAIによる歩行分析を実施した。また従来実施しているSPPB、TUGといった評価スケールも実施し、AIによる歩行分析が従来の評価と比較して妥当性があるかを検証した。その結果、AI歩行分析の総合得点と評価スケールの相関は認めなかったが、細項目である歩行項目との相関が認められた。以上から、AI歩行分析は歩行評価の一助となることが示唆される。
【はじめに】
高齢者の歩行について、老健施設利用中の利用者は施設のリハビリスタッフによる評価を受け、歩行補助具の使用の有無や、移動の自立や非自立が判断される。その過程において、自立と非自立のボーダーライン上に存在する高齢者は安全を考慮し、非自立となることを目にする。また、評価結果はリハビリスタッフによって差があり、評価結果にばらつきが存在する。したがって、リハビリスタッフごとに歩行評価が異なることで、利用者の日常生活上の移動形態が左右される。そういった問題を解決するために、当施設ではAIによる歩行分析ツールを導入している。ただし、そのツールの妥当性は検証されているものもあるが、老健施設の利用者を対象としたAIによる歩行分析の妥当性は検証されているものは散見されない。
【目的】
老健利用中の高齢者に対してAIによる歩行分析が、従来の身体評価スケールと比較して妥当性のあるものかを検証する。
【方法】
対象は老健施設を利用している高齢者30名(男性5名、女性25名、平均年齢86.1±6.54歳)とした。被験者の選定基準として、歩行の自立度や歩行補助具の使用の有無は問わないが、歩行可能な者とした。
測定方法として、AIによる歩行分析ツール(CareWizトルト、株式会社エクサホームケア:以下AI分析ツール)を使用し、5m歩行をタブレットを使用して撮影し、分析ツールへアップロードすることで、分析結果を得た。AI分析ツールは、歩行速度、リズム、ふらつきおよび左右差の4項目で構成されており合計得点が自動算出される。動画撮影に際し、撮影の目的と趣旨、プライバシーの保護について十分に説明を行い、同意を得た上で動画撮影を行い分析ツールへアップロードを行った。なお、動画の撮影について、前方もしくは後方からの撮影とした。
次に、Short Physical Performance Battery(以下SPPB)とTimed Up and Go Test(以下TUG)を測定した。SPPBはタンデム立位、4m歩行テストおよび5回立ち座りテストの3項目からなる検査で、各項目が4点満点で合計12点となる。TUGは椅子からの立ち上がり後、3m先の目標物を往復し椅子に着席するよう指示し実施した。データの収集については、前述した評価結果をカルテから収集し、データシートへ転記した。
統計解析は、pearsonの積率相関係数を算出し各指標の相関を比較検討した。統計ソフトはSTATA version 18.0とR version 4.0.3を使用し、統計学的有意水準を5%未満とした。
なお、研究の開始にあたり、対象者には本研究の趣旨、目的を十分に説明し同意を得た。また収集したデータは個人が特定されないよう匿名化して保存した。
【結果】
各相関を調査した結果、AI分析ツールの総合点、SPPB、TUGとの間には有意な相関関係は認められなかった。しかしながら、AI分析ツールの下位項目である歩行得点とTUG(r=-0.374, p=0.042)については有意な負の相関が認められた。
【考察】
本研究では、AIを用いた歩行分析の妥当性について、従来の評価スケールと比較することで検証を行った。本研究の結果から、AI分析ツールの総合得点とSPPBとTUGの間に相関が認められなかった。しかし、下位項目の歩行速度とTUGに有意な相関が認められたことから、老健施設利用中の高齢者に対して歩行能評価を行う際に、AI分析ツールが評価の一助になることが示唆される。先行研究では、健常な高齢者を対象に、研究施設での歩行分析システムによる歩行解析と、AI分析ツールの歩行評価を比較検証しており、その評価の精度は同等レベルであることが示されている。今回の研究では、評価対象の数が先行研究の半分程度であることや、歩行能力が同じレベルである利用者が多くいたことでこのような結果となったことが考えられる。しかし、このAI分析ツールが従来実施されている評価スケールと相関関係にある項目があることが示されたため、リハビリスタッフによる歩行評価のばらつきの是正や妥当性が担保されることが期待される。今後の研究課題として、データ収集人数を増やし、様々な歩行状況の利用者データを収集し、AI分析ツールの妥当性をさらに検証していく必要がある。