講演情報
[15-O-L016-07]風船バレーで意欲や歩行機能が向上した症例検討
*西澤 萌1 (1. 京都府 はーとふる東山)
感染対策予防期間中にリハビリ非実施となり状態が低下する利用者を目の当たりにし、容易に取り組めると言われている風船バレーという作業活動を取り組む事でどういう変化があるのか事例をもとに報告する。前方、左右側方、下方、頭上、頭上左右側方の計8方向へランダムに飛ばし20-30回を目安に反復する。変化項目を7項目あげ変化を追った。その結果、活動意欲が向上し歩行状態にも変化が見られたので報告する。
【はじめに】新型コロナウイルス感染症発生した場合、リハビリ介入が行えない期間があり状態が低下される利用者様は少なくはない。そして、風船バレーという作業活動は、知的要素があまり含まれず反射を活かし容易に取り組める活動といわれており、更に動くスピードがゆっくりであり打ち返し易い。単純な繰り返し動作であるためこころの安らぎも得られやすいとも言われている活動でもある。今回この風船バレーという活動を用いて、リハビリ中止期間中に状態が低下した利用者様の活動意欲の向上に着眼し症例検討を行った。その結果、コロナ発症(2023/08/12)され12日間のリハビリ中止期間を経て活動意欲が低下された利用者様が、意欲や活動レベルが向上され更に3ヶ月継続後には、歩行状況にも変化が現れたため報告する。【目的】感染症に罹患した利用者様や感染予防対策中リハビリ介入が行えず覚醒レベルや活動意欲が低下した利用者に、風船バレーを実施することでどの様な効果をもたらすのか検証し今後の臨床で活かす。【対象と方法】症例は、2年前にアルツハイマー型認知症と診断された90歳代女性である。入所当初に評価した認知スケールはMMSEは9点、HDS-R1点。感染対策期間後の日中の様子としては食堂で車椅子にて過ごし、閉眼時間が増えていた状態である。感染対策期間が終わりリハビリを再開した日をN日とし1回20分の個別リハビリを週3回行った。20分間のプログラム内容は、四肢のリラクゼーションと風船バレーである。計6回実施し変化が現れたので再評価を行い今回N+12日後と記載し結果にまとめた。さらに経過を追い、N日から90日後に歩行訓練での歩行状態にも変化が認められたためN+90日後の変化をまとめた。風船は前方、左右側方、頭上、左右頭上、下方の計8所を狙い、追視やリーチ動作の拡大、重心移動の誘導を促す。またご本人の疲労感を確認し回数は20回-30回往復することを目安とする。【初回評価】評価事項は次の7点とした。1)追視,注視 2)声かけに対する反応 3)歩行 4)頚部・体幹の運動 5)リーチ範囲 6)表情 7)常同行動。N日の初回評価は、頭上の注視や追視困難、会話レベルは1語文での返答が多い。歩行は平行棒両手把持し殿部の支え介助ありにて行う。歩様は股関節内転内旋し左右下肢が交差するようなはさみ足歩行である。両下肢内転傾向で頚部の伸展は0°、両上のリーチ範囲も肩関節屈曲90°上方への反応はなく前方リーチのみ。表情は険しいことが多く大腿をこする行為も認められた。【結果】N+12後の結果は、追視や注視は頭上までの追視可能。声かけに対する反応も2~3語文まで行える。歩行は、両下肢内転傾向であることは変わりないが、口頭にて1-2回は内転を修正することが可能。しかし持続はしない。頚部伸展は20°拡大可能、リーチ範囲は肩関節屈曲135°、上方リーチ可能となった。表情も明るく笑顔が増えた。大腿をこする常同行為も減少する。N+90日後の結果は、追視や注視は左右頭上150°程度まで可能。歩行も両下肢内転傾向改善、歩隔拡大可能。1歩ずつ自身の脚を確認しながら前進する。頚部左右回旋50°まで可能。リーチ範囲は水平屈曲、伸展可能。体幹回旋動作も可能。表情は明るく笑顔(+)。太ももをこする行為は見られずといった変化が認められた。【考察】今回、活動意欲低下され追視や追視が困難であった症例が、風船バレーを取り組むことで追視範囲やリーチ範囲も広がり活力向上された。Carol1)は、風船バレーはほとんどのケースに適応でき意識を集中する効果があると示唆し、重度認知症患者にも適応できる2)と述べている。重度認知症の場合は、どの作業にも楽しめなくなる可能性があるがその中でも比較的得意な楽しむことができる作業が存在する可能性も示唆されている。その作業活動として、Tessa3)は単発的な構成要素であるリズミカルで反復的な活動が心地よいであろうと示唆している。そのため、反射的に反応しながら上記の構成要素がそろっている風船バレーを行うことで活動意欲が向上されたことが考えられる。また、歩行時1歩ずつ自身の脚を確認しながら前進し歩隔拡大も認められた。今回本症例に変化が認められた要因として2点が考えられる。1)股関節の柔軟性向上。2)身体図式や自己身体への理解が深まった。ボディーイメージ(自己身体認知)の正確性は加齢と共に低下し、転倒のリスクも高まると言われている。不明確だった自身へのボディーイメージが、風船バレーで前方荷重を反復したことで足底の体性感覚を刺激し、自己身体への理解が深まったと考える。【結論】 リハビリの時間は1日24時間の中の20分にしか過ぎないため、日中携わってくださるスタッフ様の関わりで向上されたことが大きいことは前提ではあるが、リハビリ非実施期間があり、意欲が低下された利用者さまの意欲向上に向けて風船バレーという作業活動は、効果をもたらした。また重心を誘導することを狙いとして持つことで身体認識の強化にもつながるとも考える。【参考文献】1)山根 寛 精神障害と作業療法 治る・治すから生きるへ.三輪書店,20132)山根 寛 ひとと作業・作業活動.三輪書店,20063)対象物と自己身体の理解につながる体性感覚野の役割.田岡 三希 心身健康科学 16巻1号.2020【引用文献】1)Carol Bowllby,竹内孝二:痴呆性老人のユースフルアクティビティ.三輪書店,東京,19992)平井俊策,江藤文夫:老年者のリハビリテーション.株式会社ワールドプランニング,東京,19973)Tessa Perrin Hazel May (白井壮一,白井はる奈,白井佐和子訳):認知症へのアプローチ. エルゼビアジャパン株式会社,東京,2007