講演情報

[15-O-L017-02]高齢者の運動機能における重心動揺評価の意義について

*瀬口 増美1、浜崎 満治1、高椋 清1 (1. 大分県 老人保健施設 創生園)
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高齢者の運動機能評価と静的バランス評価の代表である重心動揺評価との関係を調べたいと考え、外来リハ利用者21名に対し、概況調査、運動機能評価、GDS5の聞き取りと、バランス測定評価項目として、TUG、片足立ち、重心動揺検査を行った。運動機能項目の中で「階段を昇る」は、高いバランス能力が要求される項目と考えるが、TUGとの関係を認めるのみだった。高齢者の運動機能項目と重心動揺評価との間に直接の関係は表せなかった。
【はじめに】
 現在、重心動揺検査は平衡機能検査として診療報酬を請求することが可能であり、疾患の鑑別のみならず、高齢者や障がい者のバランス評価に用いられている。加齢が進むにつれ姿勢制御システム機能が低下し、重心動揺が大きくなり転倒のリスクも高くなると想像される。しかし、その重心動揺検査も高齢者においては測定値にバラツキが多く、客観性も統一性も不十分とされている。
 バランス能力の評価には動的バランス評価と静的バランス評価とがあるが、日常の動作や生活には動的バランスの関与が大きいと感じられる。そこで今回、高齢者の運動機能評価と静的バランス評価の代表である重心動揺評価との関係を調べたいと考えた。
 本研究の目的は、高齢者の運動機能に重心動揺がどのように関与しているのかを調べ、高齢者医療・介護およびリハビリテーションの現場にて重心動揺を評価する意義を検討するものである。
【対象と方法】
 当法人外来リハ利用者(運動器不安定症にてリハビリを開始し、5か月以上経過しているもの)で調査が可能だった23名のうち、高次脳機能障害および明らかな認知症がない者で、本研究に同意をいただいた21名(調査期間中、介護予防サロンと外来リハ併用となった者4名、要支援認定1により通所サービス利用となった者3名を含む)に対し、概況調査(年齢、性別、疾患)、基本チェックリストの運動機能項目(以下、運動機能項目)、高齢者抑うつ尺度短縮版(以下、GDS5)の聞き取り調査と、バランス測定評価項目として、TUGおよび片足立ち(運動器不安定症の測定項目)、そして重心動揺検査を行った。
 疾患については、高次脳機能障害ならびに認知症の確認を行い、特に脳血管障害の有無を抽出し比較検討に用いた。
 運動機能項目は、階段を手すりや壁をつたわらずに昇っていますか(以下、階段を昇る)、椅子に座った状態から何もつかまらずに立ちあがっていますか(以下、椅子から立ち上がる)、15分くらい続けて歩いていますか(以下、15分続けて歩く)、この1年間に転んだことがありますか(以下、1年間の転倒経験)、転倒に対する不安は大きいですか(以下、転倒に対する不安)の5項目で、評定は「はい・いいえ」であり、項目ごとに比較検討を行った。
 GDS5については2点以上を「抑うつ傾向あり」とし比較検討を行った。
 バランス測定評価項目の片足立ちは、開眼で左右の片足立ちを計測し、値の低い数値を採用した。重心動揺検査はGRAVICORDER GS-31P(アニマ社製)を用い、開眼総軌跡長、開眼外周面積、閉眼総軌跡長、閉眼外周面積を比較検討に用いた。分析については、概況項目および運動機能項目とGDS5およびバランス測定評価項目の比較(Wilcoxon順位和検定)を行い、有意水準はp<0.05とした。またバランス測定評価項目間の相関(Spearman順位相関係数)を調べた(表)。
 次に、バランス測定評価項目について、リハビリ開始時と現時点(令和6年5月~6月)での変化を向上と低下の2群にまとめ、TUGおよび片足立ちの変化と重心動揺評価の変化について比較検討を試みた。
【結果】
 調査対象者21名の概要は女性17名、男性4名、平均年齢82.8歳、疾患にて脳血管障害を有する者は5名であった。
 概況調査項目ならびに運動機能項目とバランス測定評価項目との比較では、年齢とTUG、「階段を昇る」とTUG、脳血管障害の有無と片足立ちおよび閉眼総軌跡長との間に有意な関係を認めた。また運動機能項目とGDS5との比較では「転倒に対する不安」との間に有意な関係を認めた。バランス測定評価項目間の相関では、TUGと片足立ち間、片足立ちと開眼重心動揺評価間はやや相関がある程度だったが、片足立ちと閉眼重心動揺評価間にはかなりの相関が認められた。
 リハビリ開始時と現時点でのバランス測定評価項目変化の比較では、片足立ち変化と外周面積変化との間で有意な関係を認めた。
 調査期間中、脳血管障害や骨折等のイベントにより通所サービス利用となった者は、バランス測定評価項目のすべてにおいて低下していた。
【考察】
 今回、研究の対象者数が少なく、結果の信頼性には問題があると思われるが、高齢者の運動機能項目と重心動揺評価との間に直接の関係は表せなかった。重心動揺評価は片足立ちと一定の関係を認めたが、動的バランスの代表であるTUGとは関係を認めなかった。TUGと片足立ち間の相関も弱い関係だった。運動機能項目の中で「階段を昇る」は、特に高いバランス能力が要求される項目と考えるが、TUGとの関係を認めるのみだった。「転倒に対する不安」についてもバランス能力との関係を考えたが、抑うつ傾向との関係を示すのみだった。上記のごとく、今回の研究でははっきりとした評価の意義を見出せなかった。しかし、重心動揺の制御も身体の器質的な機能の一つであり、動作や生活の裏付けとして総合的な安定に寄与しているものと考えられた。
 バランス能力の変化を見ていく中で、重心動揺評価は低下しているがTUGは向上しているケース、加齢を重ねても重心動揺評価が向上しているケース、身体のイベントにより重心動揺評価も低下しているケース等、様々なケースが見られた。重心動揺は一般的には加齢により低下していくものと示されているが、どのような運動や行動で重心動揺評価が向上するのか等、ケースを踏まえた研究も、今後行っていきたいと考える。