講演情報
[15-O-L017-04]介護老人保健施設における科学的評価の重要性について咬合計を用いた食形態(咀嚼能)の検討
*渡邊 光一1、渡邊 美穂1、高橋 香里1、年盛 満恵1、戸谷 修二1、牧野 日和2 (1. 広島県 介護老人保健施設愛生苑、2. 愛知学院大学 健康科学部)
はじめに:咬合計を用いた咀嚼評価から、介護施設における科学的評価の重要性について検討した。方法:当苑の利用者に無歯顎および義歯装着時の咬合力を測定し、統計学的検討を行った。結果:咬合力は無歯顎時は平均34.3N、総義歯装着時は平均181.8Nであった。考察:無歯顎および総義歯装着ともに、常食摂取には注意が必要であり、医療施設だけでなく福祉施設においても適宜科学的評価行う必要があることが示唆された。
【はじめに】
当施設では、これまで食形態の設定を行う際、入所前の病院や施設、在宅等からの食形態情報や、当施設内における食事場面の観察、ならびに摂食嚥下のスクリーニング検査結果等をもとに判定しており、いずれも主観的な評価が中心であった。2019年、厚生労働省は福祉施設における科学的介護の導入を推進、われわれは、まず客観的評価の第一歩として食形態設定のなかでもとくに咀嚼機能に着目し、それまでの主観的評価に加え、咬合計による数値化を試みた。その結果をもとに、科学的評価の重要性について検討を行った。
【方法】
対象:当介護老人保健施設の利用者のうち、A)無歯顎(ND)で、かつB)歯科が適正と判断した総義歯(FD)を有している方とした。そのうち身体麻痺があり、検査指示の従命が困難な方、調査協力が得られない方は除外した。方法:咬合計(口腔機能モニター Oramo-bf)を用いて、A)NDにおける咬合力、B)FD装着下の咬合力をそれぞれ測定し、エクセルに入力した。A)およびB)の平均値を算出し、統計処理ソフトSPSS Ver.26(IBM社製)を用いて「対応のあるt検定」を行って分析した。本調査は「愛知学院大学健康科学部ヒトを対象とする研究審査委員会」の承認を得て実施した(承認番号2314-B)。この度の調査報告にCOIはない。
【結果】
1)対象者の属性等:男性3名、女性7名の、合計10名であった。年齢は、75-100歳であった(平均89.9歳、中央値91.5歳)。
2)咬合計測定結果: NDは、平均34.3N(咬合値27-68N、中央値31.5N)であった。FDは、平均181.8N(最咬合値64-285N、中央値185N)であった。
*単位はN(ニュートン)。
3)NDとFDのそれぞれの平均値を比較したところ、両群の差に有意差が認められた(p<.0001)。
【考察】
咀嚼研究の先行研究では、自歯よりFDの方が咬合力が弱いとされ、咀嚼に必要とされる咬合力(カットオフ値)は350Nとされている。これについてはまだ知見が少なく、常食の食品物性および対象者の属性との関連などはわかっていないが、今回われわれはこの350Nを指標として考察を行った。今回の結果ではND、FDともに350Nより低値を示した。これによりNDは、常食の咀嚼が難しい可能性があることが示唆された。施設利用者の中には「私の歯ぐきは固いから常食を食べさせてほしい」との要望をしばしば耳にするが、臨床上は咬合力の数値化など科学的分析の上で、適宜施設利用者本人や家族と話し合う必要があると思われた。さらにFDは常食摂取に注意を要すると思われた。歯科での義歯調整は重要である。しかし実際に常食のなかでも硬くて食べにくい食物が食べられるようになるかどうかについては、より慎重な精査や対応が要ると思われた。
食形態設定が誤った場合、誤嚥や窒息を招きかねない。食形態は利用者側の訴えやこれまでの評価法だけで設定するのではなく、科学的に検討する必要があるのではないかと考えられた。
【まとめ】
1)NDは常食摂取が難しく、FDにおいても常食摂取には注意を要することが示唆された。
2)食形態設定の際、従来の主観的評価に加え、適宜、科学的評価行う必要があると考えられた。
当施設では、これまで食形態の設定を行う際、入所前の病院や施設、在宅等からの食形態情報や、当施設内における食事場面の観察、ならびに摂食嚥下のスクリーニング検査結果等をもとに判定しており、いずれも主観的な評価が中心であった。2019年、厚生労働省は福祉施設における科学的介護の導入を推進、われわれは、まず客観的評価の第一歩として食形態設定のなかでもとくに咀嚼機能に着目し、それまでの主観的評価に加え、咬合計による数値化を試みた。その結果をもとに、科学的評価の重要性について検討を行った。
【方法】
対象:当介護老人保健施設の利用者のうち、A)無歯顎(ND)で、かつB)歯科が適正と判断した総義歯(FD)を有している方とした。そのうち身体麻痺があり、検査指示の従命が困難な方、調査協力が得られない方は除外した。方法:咬合計(口腔機能モニター Oramo-bf)を用いて、A)NDにおける咬合力、B)FD装着下の咬合力をそれぞれ測定し、エクセルに入力した。A)およびB)の平均値を算出し、統計処理ソフトSPSS Ver.26(IBM社製)を用いて「対応のあるt検定」を行って分析した。本調査は「愛知学院大学健康科学部ヒトを対象とする研究審査委員会」の承認を得て実施した(承認番号2314-B)。この度の調査報告にCOIはない。
【結果】
1)対象者の属性等:男性3名、女性7名の、合計10名であった。年齢は、75-100歳であった(平均89.9歳、中央値91.5歳)。
2)咬合計測定結果: NDは、平均34.3N(咬合値27-68N、中央値31.5N)であった。FDは、平均181.8N(最咬合値64-285N、中央値185N)であった。
*単位はN(ニュートン)。
3)NDとFDのそれぞれの平均値を比較したところ、両群の差に有意差が認められた(p<.0001)。
【考察】
咀嚼研究の先行研究では、自歯よりFDの方が咬合力が弱いとされ、咀嚼に必要とされる咬合力(カットオフ値)は350Nとされている。これについてはまだ知見が少なく、常食の食品物性および対象者の属性との関連などはわかっていないが、今回われわれはこの350Nを指標として考察を行った。今回の結果ではND、FDともに350Nより低値を示した。これによりNDは、常食の咀嚼が難しい可能性があることが示唆された。施設利用者の中には「私の歯ぐきは固いから常食を食べさせてほしい」との要望をしばしば耳にするが、臨床上は咬合力の数値化など科学的分析の上で、適宜施設利用者本人や家族と話し合う必要があると思われた。さらにFDは常食摂取に注意を要すると思われた。歯科での義歯調整は重要である。しかし実際に常食のなかでも硬くて食べにくい食物が食べられるようになるかどうかについては、より慎重な精査や対応が要ると思われた。
食形態設定が誤った場合、誤嚥や窒息を招きかねない。食形態は利用者側の訴えやこれまでの評価法だけで設定するのではなく、科学的に検討する必要があるのではないかと考えられた。
【まとめ】
1)NDは常食摂取が難しく、FDにおいても常食摂取には注意を要することが示唆された。
2)食形態設定の際、従来の主観的評価に加え、適宜、科学的評価行う必要があると考えられた。