講演情報
[15-O-L017-05]認知運動課題の違いが認知機能に与える影響について
*川上 樹香1、榎木 泰介2 (1. 奈良県 宇陀市介護老人保健施設さんとぴあ榛原、2. 大阪教育大学大学院)
後期高齢者10名を対象とし、認知運動課題の違いが認知機能に与える影響について検討した。課題は座位にて足踏み運動、足踏み+手たたき課題を採用し、各課題1か月間、週2回の頻度で実施した。介入前後には認知機能など評価したが、Single‐taskとDual‐taskの介入前後のHDS-Rの総合点数の比較では有意差を認めなかった。生活リハビリが重要であること、後期高齢者には個別的なリハビリの提供が重要であると考えた。
【背景】
我が国の高齢化率は29.0%(令和4年)から38.7%(令和52年)に上昇すると推測されている1)。その中でも総人口に占める後期高齢者の割合は上昇する見込みである。
後期高齢者は認知機能が低下し、日常生活動作が低下している場合がある。認知機能が維持向上することで、日常生活動作の維持向上に起因すると考える。
Ericksonら2)は、高齢者120人を対象に有酸素運動を週3回以上行うと海馬量が増大したと報告している。Holterら3)は、Dual-taskとSingle-taskの比較では、Dual-taskの方が前頭前野の脳血流量が増加したことを報告している。このことから、認知機能低下予防には有酸素運動やDual‐taskが効果的である。しかし、このような運動は介護老人保健施設利用中の後期高齢者には難しい現状がある。そこで、事前研究として、後期高齢者を対象にSingle‐taskとDual‐taskの前頭前野の脳血流量を検討した結果、Single‐taskの方で前頭前野の脳血流量が増加する傾向であったが、実際に介入した際の認知機能への効果はわからない現状があった4)。
そこで、介護老人保健施設利用中の後期高齢者を対象にSingle‐taskとDual‐taskを継続的に実施し、認知機能に与える影響について検討する。
【方法】
1.対象
宇陀市介護老人保健施設さんとぴあ榛原を利用中の後期高齢者10名(85.7±6.4歳)を対象とした。抽出条件は、本研究で用いる課題が実施可能な者とした。なお、本研究は当施設の倫理申請と大阪教育大学の倫理審査で承認された後、対象者とそのご家族様に研究の趣旨と内容について書面と口頭で説明し、同意を得て研究を実施した。
2.課題について
クロスオーバーデザインにて介入研究を実施した。各課題の介入期間は1か月間とし、週2回の頻度で実施した。
1)Single‐task(足踏み運動)
椅子座位にて両側股関節屈曲運動を交互に実施した。間欠的運動様式で足踏み運動と休憩時間の比率は20秒:10秒とし、3~8セット実施した。
2)Dual‐task(足踏み運動と手たたき課題)
椅子座位にて両側股関節屈曲運動と手をたたく課題を同時に行った。足踏み運動を1回行ったときに手たたき課題1回、足踏み運動を2回行ったときに手たたき課題1回、足踏み運動3回行ったときに手たたき課題1回の3課題を用意した。介入の際には3課題の中からランダムに1課題を選択し、実施した。
3)測定項目
測定および検査はSingle‐taskとDual‐taskの介入期間前後に実施した。測定は5m歩行(最大、通常)、Timed Up and Go Test、Barthel Index、握力測定、HDS-R、shortQOL-Dのうち実施可能なものを評価した。また、背景因子として、年齢、性別、要介護度を調査した。
4)統計学的解析方法
統計解析には統計解析用ソフトSPSSを用い、有意水準を5%とした。
【結果】
HDS-Rの総合得点の介入前後で比較では、Single‐task・Dual‐taskともに有意差は認められなかった(p>0.05)。HDS-Rの総合得点の前後の変化量は、Single‐taskは10人中7名、Dual‐taskは10人中5人で点数の維持向上を認めた。
【考察】
認知症低下予防のトレーニングには、有酸素運動やDual‐taskが一般的である。しかし、要支援・要介護状態にある後期高齢者にはこのような運動を取り入れることが難しい現状がある。そこで、本研究では、介護老人保健施設利用中の後期高齢者を対象にSingle‐taskとDual‐taskを継続的に実施し、認知機能に与える影響について検討した。
本研究の結果では、Single‐taskとDual‐task前後のHDS-Rの総合点数に有意差を認めず、認知機能の維持向上に効果がでなかった。また、Dual‐taskよりSingle‐taskの方で介入後の総合点数が維持向上した方が多かった。
今回の介入研究で、認知機能の維持向上に効果がでなかった原因として、介入頻度が考えられる。本研究では介護老人保健施設の加算型施設を想定した頻度を設定した。先行研究は週3回以上の介入が多く、介入頻度を上げることが認知機能の維持向上に良いと考える。よって、加算型施設のリハビリテーションの頻度は週2回であるため、認知機能維持向上のためには、生活の中でリハビリテーションができるような多職種連携した介入が必要であると考える。
Dual‐taskよりSingle‐taskの方で介入後の総合点数にて維持向上した方が多かった要因としては、Single‐taskの方が前頭前野が活性化しやすい運動であったからだと考える。以前に後期高齢者において、Dual‐taskとSingle‐taskでは、Single‐taskの方が前頭前野の脳血流量が増加しやすいと報告した4)。個人差はあるが、後期高齢者ではSingle‐taskでも前頭前野が活性化しやすいと考える。そのため、Dual‐taskよりSingle‐taskの方で介入後の総合点数が維持向上した方が多かったと考える。
今回のSingle‐taskとDual‐taskにおいて、認知機能への効果を明らかにすることはできなかった。週2回の個別リハビリテーションを実施する加算型施設では、生活リハビリテーションが重要になる。また、認知運動課題の違いでは、HDS-Rの総合得点で個人差があるものの維持改善を認めた方もいるため、複合的な疾患を持っている方が多い後期高齢者では、より個別性のあるリハビリテーションの提供が必要であると考える。
【参考文献】
1)内閣府:「令和5年度版高齢社会白書」https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/html/zenbun/s1_1_1.html(閲覧日:令和6年6月16日)
2)Erickson KI,:Exercise training increases size of hippocampus and improves memory,Proe Natl Acad Sei USA ,2011,108,3017-3022
3)Holter R,et al:fNIRS Study of Walking While Talking in Young and Old Individuals.J Gerontol ABiol Sci Med Sci:2011, 879-87.
4)川上 樹香ら:後期高齢者に対する認知運動課題の違いが脳血流反応の与える影響,総合理学療法研究,2022,23-30
我が国の高齢化率は29.0%(令和4年)から38.7%(令和52年)に上昇すると推測されている1)。その中でも総人口に占める後期高齢者の割合は上昇する見込みである。
後期高齢者は認知機能が低下し、日常生活動作が低下している場合がある。認知機能が維持向上することで、日常生活動作の維持向上に起因すると考える。
Ericksonら2)は、高齢者120人を対象に有酸素運動を週3回以上行うと海馬量が増大したと報告している。Holterら3)は、Dual-taskとSingle-taskの比較では、Dual-taskの方が前頭前野の脳血流量が増加したことを報告している。このことから、認知機能低下予防には有酸素運動やDual‐taskが効果的である。しかし、このような運動は介護老人保健施設利用中の後期高齢者には難しい現状がある。そこで、事前研究として、後期高齢者を対象にSingle‐taskとDual‐taskの前頭前野の脳血流量を検討した結果、Single‐taskの方で前頭前野の脳血流量が増加する傾向であったが、実際に介入した際の認知機能への効果はわからない現状があった4)。
そこで、介護老人保健施設利用中の後期高齢者を対象にSingle‐taskとDual‐taskを継続的に実施し、認知機能に与える影響について検討する。
【方法】
1.対象
宇陀市介護老人保健施設さんとぴあ榛原を利用中の後期高齢者10名(85.7±6.4歳)を対象とした。抽出条件は、本研究で用いる課題が実施可能な者とした。なお、本研究は当施設の倫理申請と大阪教育大学の倫理審査で承認された後、対象者とそのご家族様に研究の趣旨と内容について書面と口頭で説明し、同意を得て研究を実施した。
2.課題について
クロスオーバーデザインにて介入研究を実施した。各課題の介入期間は1か月間とし、週2回の頻度で実施した。
1)Single‐task(足踏み運動)
椅子座位にて両側股関節屈曲運動を交互に実施した。間欠的運動様式で足踏み運動と休憩時間の比率は20秒:10秒とし、3~8セット実施した。
2)Dual‐task(足踏み運動と手たたき課題)
椅子座位にて両側股関節屈曲運動と手をたたく課題を同時に行った。足踏み運動を1回行ったときに手たたき課題1回、足踏み運動を2回行ったときに手たたき課題1回、足踏み運動3回行ったときに手たたき課題1回の3課題を用意した。介入の際には3課題の中からランダムに1課題を選択し、実施した。
3)測定項目
測定および検査はSingle‐taskとDual‐taskの介入期間前後に実施した。測定は5m歩行(最大、通常)、Timed Up and Go Test、Barthel Index、握力測定、HDS-R、shortQOL-Dのうち実施可能なものを評価した。また、背景因子として、年齢、性別、要介護度を調査した。
4)統計学的解析方法
統計解析には統計解析用ソフトSPSSを用い、有意水準を5%とした。
【結果】
HDS-Rの総合得点の介入前後で比較では、Single‐task・Dual‐taskともに有意差は認められなかった(p>0.05)。HDS-Rの総合得点の前後の変化量は、Single‐taskは10人中7名、Dual‐taskは10人中5人で点数の維持向上を認めた。
【考察】
認知症低下予防のトレーニングには、有酸素運動やDual‐taskが一般的である。しかし、要支援・要介護状態にある後期高齢者にはこのような運動を取り入れることが難しい現状がある。そこで、本研究では、介護老人保健施設利用中の後期高齢者を対象にSingle‐taskとDual‐taskを継続的に実施し、認知機能に与える影響について検討した。
本研究の結果では、Single‐taskとDual‐task前後のHDS-Rの総合点数に有意差を認めず、認知機能の維持向上に効果がでなかった。また、Dual‐taskよりSingle‐taskの方で介入後の総合点数が維持向上した方が多かった。
今回の介入研究で、認知機能の維持向上に効果がでなかった原因として、介入頻度が考えられる。本研究では介護老人保健施設の加算型施設を想定した頻度を設定した。先行研究は週3回以上の介入が多く、介入頻度を上げることが認知機能の維持向上に良いと考える。よって、加算型施設のリハビリテーションの頻度は週2回であるため、認知機能維持向上のためには、生活の中でリハビリテーションができるような多職種連携した介入が必要であると考える。
Dual‐taskよりSingle‐taskの方で介入後の総合点数にて維持向上した方が多かった要因としては、Single‐taskの方が前頭前野が活性化しやすい運動であったからだと考える。以前に後期高齢者において、Dual‐taskとSingle‐taskでは、Single‐taskの方が前頭前野の脳血流量が増加しやすいと報告した4)。個人差はあるが、後期高齢者ではSingle‐taskでも前頭前野が活性化しやすいと考える。そのため、Dual‐taskよりSingle‐taskの方で介入後の総合点数が維持向上した方が多かったと考える。
今回のSingle‐taskとDual‐taskにおいて、認知機能への効果を明らかにすることはできなかった。週2回の個別リハビリテーションを実施する加算型施設では、生活リハビリテーションが重要になる。また、認知運動課題の違いでは、HDS-Rの総合得点で個人差があるものの維持改善を認めた方もいるため、複合的な疾患を持っている方が多い後期高齢者では、より個別性のあるリハビリテーションの提供が必要であると考える。
【参考文献】
1)内閣府:「令和5年度版高齢社会白書」https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/html/zenbun/s1_1_1.html(閲覧日:令和6年6月16日)
2)Erickson KI,:Exercise training increases size of hippocampus and improves memory,Proe Natl Acad Sei USA ,2011,108,3017-3022
3)Holter R,et al:fNIRS Study of Walking While Talking in Young and Old Individuals.J Gerontol ABiol Sci Med Sci:2011, 879-87.
4)川上 樹香ら:後期高齢者に対する認知運動課題の違いが脳血流反応の与える影響,総合理学療法研究,2022,23-30