講演情報
[15-O-L017-07]行動変容により元の生活を取り戻した事例
*竹歳 紀子1、名倉 和幸1 (1. 大阪府 介護老人保健施設ハーモニィー)
介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)の通所型サービス(短期集中)を3カ月利用し,理学療法士(以下PT)の提案や指導を受け利用者自身が行動を変える取り組みを行い,自宅での入浴・バスの利用が再開,介護サービス卒業となった事例を報告する.利用者の発言,行動の変化,体力測定値,活動量計の変化から,介護サービス卒業に至った要因を検討した.
【はじめに】
ハーモニィー・ワンセルフ(以下ワンセルフ)は大阪府寝屋川市の通所型サービス(短期集中)の事業所である.利用対象者は要支援認定を受けた者で,サービスの目的は生活課題を解決し元の生活を取り戻すことである.要支援認定者の多くは,転倒や骨折,入院,環境の変化などで体を動かす機会が減ってしまうことがある.体を動かす機会が減り,生活不活発となることで筋肉が衰えたり骨がもろくなったりする.このように体を動かさない状態が続くことによって生じる心身の機能の低下を「廃用症候群」という(厚生労働省 2009).
【目的】3か月の関わりで,体力測定による客観的な機能評価,活動量計による運動強度評価と利用者の言葉・活動内容,基本チェックリストの経時的な変化を追い,介護サービス卒業に至った要因を検討したので報告する.
【方法】週1回,合計12回(約3カ月)利用.利用時PTが面談でセルフマネジメントシートを使用して1週間の振り返りや翌一週間の生活の提案を行った.セルフマネジメントシートとは,体調や家事の実施状況,ひとこと日記などの日々の様子を利用者自身が記録する用紙である.課題解決に対する取り組みを「宿題」とし,宿題の実施状況もセルフマネジメントシートに記録してもらった.体力測定を1か月に1回実施しTimed Up&Go test(以下TUG),5回立ち座りテスト(以下SS5),開眼片足立ちを測定した.体力測定と同時期に基本チェックリストを実施.活動量計(オムロン製)は6回目と12回目にそれぞれ1週間装着し計測した.活動量計は傾きで体の動き判断することができ,上下の動きは歩行,前後左右の傾きは生活活動ととらえることで,歩行とそれ以外の生活活動時間や運動強度を知ることができる.身体機能,生活状況,利用者の発言内容(体調・意欲など)の経時的な変化について考察した.
【事例紹介】 85歳女性.要支援1.長男と二人暮らし.5年前に右大腿骨頚部骨折で手術の既往あり.手術直後はバスに乗って外出していたが,コロナ禍による外出制限のため家に閉じこもることが多くなり,生活不活発による廃用のため臀部・下肢筋力低下をきたした.この半年余りで右股関節の痛みも強くなり,自宅内の移動に時間がかかるようになった.バス停まで歩いて行けず,バスが乗れないため外出機会が減った.痛みにより浴槽の跨ぎができず自宅での入浴が困難となったため,ワンセルフ利用開始と同時に通所型サービス(基準緩和)を併用することとなった.ワンセルフ利用前に,事例とPT,担当ケアマネジャーで利用目的の確認・目標設定を行った.以前の生活に比べて活動範囲が狭くなったこと,家でじっとしていることが多くなったこと,そのため臀部・下肢筋力の低下,痛みの増強がみられていることを共有した.解決するためには,少しずつ体を動かし,元の活動的な生活に戻すことが必要であることを3者で合意.3か月で達成したい目標は「自宅で入浴をしたい,バスに乗れるようになりたい」となった.
【経過】 初回利用時に体力測定を実施しTUGは19.2秒,SS5は18.3秒,開眼片足立ちは右1.45秒・左1.35秒であった.右股関節屈曲時に痛みがみられ,右股関節を動かすことに抵抗感が強かった.3回目にはセルフマネジメントシートに「少し足が上がるようになってきた」との記録を確認した.4回目からは目標であるバスに乗ることや浴槽の跨ぎに必要な股関節屈曲の運動を宿題に追加した.8回目の面談で浴槽に入りたいとの意思を確認し,PTが自宅での入浴を提案した.また,マンション内の散歩を宿題として追加し毎日30分から1時間の実施状況がセルフマネジメントシートで確認できた.9回目以降,セルフマネジメントシートに痛みの記録がなくなり「家でお風呂に入ってみた」,「バスに乗ってみた」との記録を確認できた.
【結果】セルフマネジメントシートに痛みの記録がみられなくなったころから,運動や活動(外出)の頻度が増えた.利用9回目の体力測定でTUGは11.5秒,SS5は14.0秒,開眼片足立ち右5.1秒と改善がみられ,片足立ち左は1.37秒で維持がみられた.基本チェックリストは初回8点から9回目で6点となり,変化があった項目は「買い物をしている」「15分続けて歩いている」であった.活動量計は6回目と12回目の比較で3Mets以上の歩行時間が増え,座位時間が減った.目標である「自宅で入浴をしたい,バスに乗れるようになりたい」を達成し,自宅での入浴が可能となったため,併用していた通所型サービス(基準緩和)は利用終了となった.
【考察】 生活不活発により廃用をきたした事例に対し,PTが利用時の面談で体や痛みの状態,自宅での活動状況を聞き取り,事例の取り組みを認め賞賛することを繰り返したことで,取り組みに自信持ち運動や活動が積極的になったと考えた.また, 生活課題を改善するための取り組みとして設定した宿題は,決して運動負荷が高いものではなく,今できていることの回数を増やす,時間を延ばすというものであり,その取り組みやすさも「自分でできる」という自信につながったと考えた.事例が痛みの原因や対処方法を理解して体を動かす機会を増やし痛みの軽減を実感したころからは,PTの提案がなくても事例自身ができることを見つけて,やってみるという好循環が生まれてきた. PTとのやり取りを通して,事例自身が「体を動かさなかったことがダメだったのね」と生活不活発だったころを振り返り,自分がやるべきことに気づくことができ,気づきによってもたらされた行動変容が,成功体験の積み重ねや自信につながり,介護サービス卒業に至った要因と考えた.
【おわりに】 今後もワンセルフの関わりの中で,利用者の気づきをいかに引き出せるかということに重点を置き,声掛けや働きかけに努めていきたい.
ハーモニィー・ワンセルフ(以下ワンセルフ)は大阪府寝屋川市の通所型サービス(短期集中)の事業所である.利用対象者は要支援認定を受けた者で,サービスの目的は生活課題を解決し元の生活を取り戻すことである.要支援認定者の多くは,転倒や骨折,入院,環境の変化などで体を動かす機会が減ってしまうことがある.体を動かす機会が減り,生活不活発となることで筋肉が衰えたり骨がもろくなったりする.このように体を動かさない状態が続くことによって生じる心身の機能の低下を「廃用症候群」という(厚生労働省 2009).
【目的】3か月の関わりで,体力測定による客観的な機能評価,活動量計による運動強度評価と利用者の言葉・活動内容,基本チェックリストの経時的な変化を追い,介護サービス卒業に至った要因を検討したので報告する.
【方法】週1回,合計12回(約3カ月)利用.利用時PTが面談でセルフマネジメントシートを使用して1週間の振り返りや翌一週間の生活の提案を行った.セルフマネジメントシートとは,体調や家事の実施状況,ひとこと日記などの日々の様子を利用者自身が記録する用紙である.課題解決に対する取り組みを「宿題」とし,宿題の実施状況もセルフマネジメントシートに記録してもらった.体力測定を1か月に1回実施しTimed Up&Go test(以下TUG),5回立ち座りテスト(以下SS5),開眼片足立ちを測定した.体力測定と同時期に基本チェックリストを実施.活動量計(オムロン製)は6回目と12回目にそれぞれ1週間装着し計測した.活動量計は傾きで体の動き判断することができ,上下の動きは歩行,前後左右の傾きは生活活動ととらえることで,歩行とそれ以外の生活活動時間や運動強度を知ることができる.身体機能,生活状況,利用者の発言内容(体調・意欲など)の経時的な変化について考察した.
【事例紹介】 85歳女性.要支援1.長男と二人暮らし.5年前に右大腿骨頚部骨折で手術の既往あり.手術直後はバスに乗って外出していたが,コロナ禍による外出制限のため家に閉じこもることが多くなり,生活不活発による廃用のため臀部・下肢筋力低下をきたした.この半年余りで右股関節の痛みも強くなり,自宅内の移動に時間がかかるようになった.バス停まで歩いて行けず,バスが乗れないため外出機会が減った.痛みにより浴槽の跨ぎができず自宅での入浴が困難となったため,ワンセルフ利用開始と同時に通所型サービス(基準緩和)を併用することとなった.ワンセルフ利用前に,事例とPT,担当ケアマネジャーで利用目的の確認・目標設定を行った.以前の生活に比べて活動範囲が狭くなったこと,家でじっとしていることが多くなったこと,そのため臀部・下肢筋力の低下,痛みの増強がみられていることを共有した.解決するためには,少しずつ体を動かし,元の活動的な生活に戻すことが必要であることを3者で合意.3か月で達成したい目標は「自宅で入浴をしたい,バスに乗れるようになりたい」となった.
【経過】 初回利用時に体力測定を実施しTUGは19.2秒,SS5は18.3秒,開眼片足立ちは右1.45秒・左1.35秒であった.右股関節屈曲時に痛みがみられ,右股関節を動かすことに抵抗感が強かった.3回目にはセルフマネジメントシートに「少し足が上がるようになってきた」との記録を確認した.4回目からは目標であるバスに乗ることや浴槽の跨ぎに必要な股関節屈曲の運動を宿題に追加した.8回目の面談で浴槽に入りたいとの意思を確認し,PTが自宅での入浴を提案した.また,マンション内の散歩を宿題として追加し毎日30分から1時間の実施状況がセルフマネジメントシートで確認できた.9回目以降,セルフマネジメントシートに痛みの記録がなくなり「家でお風呂に入ってみた」,「バスに乗ってみた」との記録を確認できた.
【結果】セルフマネジメントシートに痛みの記録がみられなくなったころから,運動や活動(外出)の頻度が増えた.利用9回目の体力測定でTUGは11.5秒,SS5は14.0秒,開眼片足立ち右5.1秒と改善がみられ,片足立ち左は1.37秒で維持がみられた.基本チェックリストは初回8点から9回目で6点となり,変化があった項目は「買い物をしている」「15分続けて歩いている」であった.活動量計は6回目と12回目の比較で3Mets以上の歩行時間が増え,座位時間が減った.目標である「自宅で入浴をしたい,バスに乗れるようになりたい」を達成し,自宅での入浴が可能となったため,併用していた通所型サービス(基準緩和)は利用終了となった.
【考察】 生活不活発により廃用をきたした事例に対し,PTが利用時の面談で体や痛みの状態,自宅での活動状況を聞き取り,事例の取り組みを認め賞賛することを繰り返したことで,取り組みに自信持ち運動や活動が積極的になったと考えた.また, 生活課題を改善するための取り組みとして設定した宿題は,決して運動負荷が高いものではなく,今できていることの回数を増やす,時間を延ばすというものであり,その取り組みやすさも「自分でできる」という自信につながったと考えた.事例が痛みの原因や対処方法を理解して体を動かす機会を増やし痛みの軽減を実感したころからは,PTの提案がなくても事例自身ができることを見つけて,やってみるという好循環が生まれてきた. PTとのやり取りを通して,事例自身が「体を動かさなかったことがダメだったのね」と生活不活発だったころを振り返り,自分がやるべきことに気づくことができ,気づきによってもたらされた行動変容が,成功体験の積み重ねや自信につながり,介護サービス卒業に至った要因と考えた.
【おわりに】 今後もワンセルフの関わりの中で,利用者の気づきをいかに引き出せるかということに重点を置き,声掛けや働きかけに努めていきたい.