講演情報
[15-O-L017-08]入所時からめまいと抑うつを認めた事例への介入報告
*秋房 寛輝1、西村 眞志保1、吉川 創2、牟田 博行1 (1. 大阪府 介護老人保健施設 竜間之郷、2. わかくさ竜間リハビリテーション病院)
80代女性、入所時より既往の左小脳梗塞のめまいと抑うつにより、意欲低下を認めていた事例に対して運動療法を実施した。結果、めまいやふらつきは軽減、訓練への意欲向上、抑うつの改善を図れた。めまいに対しては、視覚刺激を利用した運動を行う事でめまいの改善と、抑うつに対しては、週3~5回の頻度での有酸素運動や歩行練習を実施する事で抑うつの改善を図れ、在宅復帰に繋げる事が出来た為、今回報告を行う。
〔はじめに〕
近年抑うつは現代人の大きな健康問題の一つとなっており、抑うつ傾向の割合が増える事は、ADLの低下に影響がでやすいと考えられている1)。又、めまいの事例としては小脳障害や一側前庭機能が急激に低下すると、激しいめまいや平衡障害が出現すると言われている。薬物療法や認知行動療法といった治療法がある中で、抑うつやめまいの事例に対しては特に有酸素運動や歩行練習の運動療法が注目されており、治療法としても有効であると報告されている1)。当施設は、超強化型老健であり、入所日から3ヶ月以内は「短期集中リハビリテーション(以下,短期リハ)加算」を算定しており、1日20分以上のリハビリテーション(以下、リハ)を週5回実施している。入所3ヶ月以降は、「個別リハビリテーション(以下、個別リハ)」を週3回実施している。今回担当した事例は、短期リハの終了後、リハ提供回数減少に伴い身体活動量が低下する事が予測された為、短期リハの終了後も定期的な運動の促しを行った。今回介入を実施し、めまいや抑うつの訴えが軽減し、当施設を退所し、自宅への復帰が出来たので報告する。抄録作成にあたり、利用者の個人情報とプライバシーの保護に配慮し本人、家族から口頭と書面にて同意を得た。
〔事例紹介〕
80代女性。身長145cm、体重45kg、BMI21.4Kg/m2。要介護4。既往歴に左小脳梗塞と高血圧症。経過として2022年9月に左小脳梗塞を発症し、寝たきり状態であった。同年11月から訪問リハビリを開始し、2023年4月には起居自立、屋内独歩や屋外歩行可能となるも同年6月に全身倦怠感と脱水症状がみられ、在宅での生活が困難となり当施設へ入所となった。入所時から施設内移動は独歩可能もめまいの訴えやふらつきにより自室内での転倒や臥床傾向が多く、活動量低下を認めていた。
〔初回理学療法評価 介入0日〕
関節可動域(右/左)°肩関節屈曲120/110 足関節背屈5/5。GMT(右/左)上下肢4/3~4。 MMT(右/左):体幹2 大殿筋3/2 大腿四頭筋4/3。協調性検査:鼻指試験5/5。体幹失調検査:ステージ1。Vitality Index(以下VI)6点。Timed Up&Go Test(以下TUG):28秒。Berg Balance Scale(以下BBS):44/56点。Barthel Index(以下BI)80/100点、Functional Independence Measure(以下FIM)102/126点。Hasegawa Dementia Scale-Revised(以下HDS-R)17/30点。基本動作は起居から移乗、自室内独歩自立であったがめまいやバランス能力の低下を認め、入所時自室内で転倒を認めた為、見守り下へ移動の変更を行っていた。
〔理学療法 実施内容〕
入所時以降、理学療法による約20分の個別リハビリを週5回と3ヶ月以降は週3回の頻度で実施した。有酸素運動は運動時心拍数104拍/分の運動強度を目安として運動10分、機能訓練は、体幹や股関節周囲の筋力増強とバランス練習を実施した。めまいに対しての介入は、鏡や物的支持など視覚刺激を利用したバランス練習や歩行練習、抑うつに対しての介入は、歩行練習や有酸素運動を行った。
〔最終理学療法評価 介入150日,退所時〕
関節可動域(右/左)°肩関節屈曲140/120 足関節背屈10/10。GMT(右/左)上下肢4/4.MMT(右/左):体幹3 大殿筋3/3 大腿四頭筋4/4。VI9点。TUG:20秒。BBS:48/56点。6分間歩行テスト202m。BI95/100点、FIM114/126点。HDS-R24/30点。動作は独歩自立にて可能で入所時以降からの転倒はなく経過。屋外歩行は杖で10~20分程度可能となった。
〔考察〕
めまいへの介入例として、実行された運動(眼球運動)に対する誤差信号へ用いられる視覚刺激を前庭小脳へ十分に与える事が有効であると言われている。又、めまいへのリハビリテーションで十分な効果を得るには、毎日連続して正しい運動を行う事が小脳の生理学的側面から重要と考えられている2)。本事例はバランス機能低下や安静時からのめまいの訴えを認めていた事から、下肢の筋力増強運動と並行して鏡や物的支持など視覚刺激を利用したバランス練習や歩行練習を行った。約2~3ヶ月の介入で安静時からのめまいの訴えは軽減しており、施設内での生活は支障なく行えるようになった事から小脳系へ十分な視覚刺激を与える事で効果が得られたと考える。抑うつに対する介入については、運動療法が高齢者の精神、心理機能に変化をもたらす事として、運動で筋肉を動かす事により固有受容体を介するフィードバックが脳に刺激を与え、フラストレーションやストレスにさらされている状態から解放されやすい3)。運動の頻度と時間については平均的に3~5日、時間は平均20~30分の実施が望ましいとされており、有酸素運動は50~80%(最大心拍数60~90%)の運動を1回に20分程度行う事が推奨されている3)。介入から約2カ月程度でVIによる意欲向上が認められ、定期的な運動療法としてバランス練習や歩行練習、有酸素運動の効果が得られたのではないかと考える。
〔結論〕
本事例のめまいや抑うつといった症状を認める方に対しては、視覚刺激を用いた運動療法がめまいの軽減へ至った事、定期的な歩行練習や有酸素運動の実施を行う事が抑うつの軽減と意欲向上に繋がり、在宅復帰が可能となった。当施設退所から約3か月後、デイサービスや通所リハビリの様な運動を行う環境や機会がある事と、日常生活では散歩といった運動を継続して行う事が可能となっている。日常生活で支障がみられていためまいや抑うつが運動療法により改善された事で、現在も身体活動の維持に繋がっている。
〔参考文献〕
1) 認知症に対する運動療法の効果とそのメカニズム 特集「認知症とリハビリテーション医学」55巻8号p、658-663、20182)
2)肥塚 泉 めまいリハビリテーション 「第113回日本耳鼻咽頭喉科学会総会ランチョンセミナー」147-157、20133)
3)堂園浩一郎・蜂須賀研二ら 「痴呆性老人に対する理学療法の意義」 「老年精神医学雑誌」12(12):382-387、2001
近年抑うつは現代人の大きな健康問題の一つとなっており、抑うつ傾向の割合が増える事は、ADLの低下に影響がでやすいと考えられている1)。又、めまいの事例としては小脳障害や一側前庭機能が急激に低下すると、激しいめまいや平衡障害が出現すると言われている。薬物療法や認知行動療法といった治療法がある中で、抑うつやめまいの事例に対しては特に有酸素運動や歩行練習の運動療法が注目されており、治療法としても有効であると報告されている1)。当施設は、超強化型老健であり、入所日から3ヶ月以内は「短期集中リハビリテーション(以下,短期リハ)加算」を算定しており、1日20分以上のリハビリテーション(以下、リハ)を週5回実施している。入所3ヶ月以降は、「個別リハビリテーション(以下、個別リハ)」を週3回実施している。今回担当した事例は、短期リハの終了後、リハ提供回数減少に伴い身体活動量が低下する事が予測された為、短期リハの終了後も定期的な運動の促しを行った。今回介入を実施し、めまいや抑うつの訴えが軽減し、当施設を退所し、自宅への復帰が出来たので報告する。抄録作成にあたり、利用者の個人情報とプライバシーの保護に配慮し本人、家族から口頭と書面にて同意を得た。
〔事例紹介〕
80代女性。身長145cm、体重45kg、BMI21.4Kg/m2。要介護4。既往歴に左小脳梗塞と高血圧症。経過として2022年9月に左小脳梗塞を発症し、寝たきり状態であった。同年11月から訪問リハビリを開始し、2023年4月には起居自立、屋内独歩や屋外歩行可能となるも同年6月に全身倦怠感と脱水症状がみられ、在宅での生活が困難となり当施設へ入所となった。入所時から施設内移動は独歩可能もめまいの訴えやふらつきにより自室内での転倒や臥床傾向が多く、活動量低下を認めていた。
〔初回理学療法評価 介入0日〕
関節可動域(右/左)°肩関節屈曲120/110 足関節背屈5/5。GMT(右/左)上下肢4/3~4。 MMT(右/左):体幹2 大殿筋3/2 大腿四頭筋4/3。協調性検査:鼻指試験5/5。体幹失調検査:ステージ1。Vitality Index(以下VI)6点。Timed Up&Go Test(以下TUG):28秒。Berg Balance Scale(以下BBS):44/56点。Barthel Index(以下BI)80/100点、Functional Independence Measure(以下FIM)102/126点。Hasegawa Dementia Scale-Revised(以下HDS-R)17/30点。基本動作は起居から移乗、自室内独歩自立であったがめまいやバランス能力の低下を認め、入所時自室内で転倒を認めた為、見守り下へ移動の変更を行っていた。
〔理学療法 実施内容〕
入所時以降、理学療法による約20分の個別リハビリを週5回と3ヶ月以降は週3回の頻度で実施した。有酸素運動は運動時心拍数104拍/分の運動強度を目安として運動10分、機能訓練は、体幹や股関節周囲の筋力増強とバランス練習を実施した。めまいに対しての介入は、鏡や物的支持など視覚刺激を利用したバランス練習や歩行練習、抑うつに対しての介入は、歩行練習や有酸素運動を行った。
〔最終理学療法評価 介入150日,退所時〕
関節可動域(右/左)°肩関節屈曲140/120 足関節背屈10/10。GMT(右/左)上下肢4/4.MMT(右/左):体幹3 大殿筋3/3 大腿四頭筋4/4。VI9点。TUG:20秒。BBS:48/56点。6分間歩行テスト202m。BI95/100点、FIM114/126点。HDS-R24/30点。動作は独歩自立にて可能で入所時以降からの転倒はなく経過。屋外歩行は杖で10~20分程度可能となった。
〔考察〕
めまいへの介入例として、実行された運動(眼球運動)に対する誤差信号へ用いられる視覚刺激を前庭小脳へ十分に与える事が有効であると言われている。又、めまいへのリハビリテーションで十分な効果を得るには、毎日連続して正しい運動を行う事が小脳の生理学的側面から重要と考えられている2)。本事例はバランス機能低下や安静時からのめまいの訴えを認めていた事から、下肢の筋力増強運動と並行して鏡や物的支持など視覚刺激を利用したバランス練習や歩行練習を行った。約2~3ヶ月の介入で安静時からのめまいの訴えは軽減しており、施設内での生活は支障なく行えるようになった事から小脳系へ十分な視覚刺激を与える事で効果が得られたと考える。抑うつに対する介入については、運動療法が高齢者の精神、心理機能に変化をもたらす事として、運動で筋肉を動かす事により固有受容体を介するフィードバックが脳に刺激を与え、フラストレーションやストレスにさらされている状態から解放されやすい3)。運動の頻度と時間については平均的に3~5日、時間は平均20~30分の実施が望ましいとされており、有酸素運動は50~80%(最大心拍数60~90%)の運動を1回に20分程度行う事が推奨されている3)。介入から約2カ月程度でVIによる意欲向上が認められ、定期的な運動療法としてバランス練習や歩行練習、有酸素運動の効果が得られたのではないかと考える。
〔結論〕
本事例のめまいや抑うつといった症状を認める方に対しては、視覚刺激を用いた運動療法がめまいの軽減へ至った事、定期的な歩行練習や有酸素運動の実施を行う事が抑うつの軽減と意欲向上に繋がり、在宅復帰が可能となった。当施設退所から約3か月後、デイサービスや通所リハビリの様な運動を行う環境や機会がある事と、日常生活では散歩といった運動を継続して行う事が可能となっている。日常生活で支障がみられていためまいや抑うつが運動療法により改善された事で、現在も身体活動の維持に繋がっている。
〔参考文献〕
1) 認知症に対する運動療法の効果とそのメカニズム 特集「認知症とリハビリテーション医学」55巻8号p、658-663、20182)
2)肥塚 泉 めまいリハビリテーション 「第113回日本耳鼻咽頭喉科学会総会ランチョンセミナー」147-157、20133)
3)堂園浩一郎・蜂須賀研二ら 「痴呆性老人に対する理学療法の意義」 「老年精神医学雑誌」12(12):382-387、2001