講演情報
[15-O-S001-05]地域住民と老健が取り組む災害時支援の一モデル避難訓練実施を目指す自主防災組織立ち上げの一考察
*脇田 寛史1、柳原 淳1、寺田 秀興1 (1. 大阪府 介護老人保健施設石きり)
災害発生時に老健が具える人材等を活かし、どのような支援ができるのか。本論考は、「誰一人取り残さないまちづくり」に貢献すべく地域住民(自治会、民生委員、消防団等)と介護事業体が連携して、取り組んだ災害支援(住民防災意識啓蒙勉強会開催、災害支援を「我がごと」として議論する災害支援者会議開催、地区自主防災組織設立、避難行動要援護者選定、個別避難計画作成、そして避難訓練予定)についての実践報告である。
本岐阜大会は、「地域が動く」を大会テーマに、地域を丸ごと巻き込み、きたる「2040年の少子超高齢多死社会に向けた老健の本質的な役割と課題」の一つとして、「自然災害に対する事前対策や対応(BCP)について熱い議論を分かち合う大会にしたい」(大会会長挨拶文より抜粋)と、示されている。 そこで本論考は、自然(土砂)災害発生時に備え、老健が具えている機能や人材を活かし、地域住民と老健職員とが一丸となり、令和5年8月から現時点(令和6年7月)までに取り組んだ「上石切地区自主防災組織」設立までの歩みと避難訓練計画までの実践報告である。筆者は、本事業の事務局兼実施支援を担っている。 当法人が位置する東大阪市東部(石切地区)は、生駒山(大阪府と奈良県の県境)の裾野に位置し、その山麓に属する上石切地区は次のような課題を抱えている。・これまで台風や大雨、地震により小さな山崩れが起こっている。故に東大阪市のハザードマップにおいて災害危険地域に指定されている。しかし、防災工事計画が進んでいない。・市にて災害発生時の避難場所に指定されている最寄り小学校は、危険河川を横切った先にあり、健常者でも避難行動を取ることに躊躇してしまう。よって、避難に消極的な住民が多い。・線路を挟み東側(生駒山側)住民と西側住民とでは、避難行動に対する意識差がある。 当法人では、以前よりこのことを地域の課題として、地域の勉強会で取り上げてはきた。しかし、自主防災に関する住民意識を高めるには至っていない(解決の糸口が見えてこない)。 ところが、・2021年災害対策基本法改正に伴い、介護支援専門員による避難行動要援護者を対象とした「個別避難計画」作 成が、東大阪市の努力義務となったこと・東大阪市第6期地域福祉計画【基本目標2(3)防災活動の推進】において、「誰一人取り残さない防災のため、災害に備える意識を高める啓発をおこなう」ことを謳っていること・2024年3月までにBCP(事業継続計画:Business Continuity Planning)作成が義務付けられたことなにより、・能登半島地震による被災状況は、山麓地区に住む住民の防災意識を高め、この問題に地域の方々と取り組むきっかけとなった。 これらを受けて取り組んだ本実践経過とその成果および課題を以下に述べる。 令和5年8月福祉部地域福祉室から、同市にて令和3年度に取り組まれた「個別避難計画」作成およびその下での行われる予定であった「避難訓練計画」が進んでいない現状を伺った。これらが進まない要因の一つに校区役員の関心の薄さや避難誘導支援者不足が挙がることを確認した。 そこで、土砂災害警戒区域の現状を地域住民に伝え、防災意識を高めようと、同年11月地域住民勉強会を開催し、「個別避難計画作成マニュアル」についての講演を、市担当者を招いて行った。更に、災害時の避難誘導支援者不足に対し、支援行動が求められる消防団団長を招聘し、消防団活動の概要とこの課題について意見を伺った。そして我々の認識が充分なものではなかったこと(特別職の地方公務員であり、災害時には市の要請で被災地に駆けつけなければならない、即ち地元地域の要望には応えられないこと)を知った。 そんな中、令和6年1月1日16時10分能登半島地震(死者260名:6月4日現在気象庁発表)が発生し、災害支援を「我がごと」として捉える気風が高まった。 同年2月、第1回「上石切地区災害避難支援者会議(以下、「支援者会議」とする)」を開催した。当会議では、活動主旨(上石切地区の防災を考える)に賛同くださった、この地域を代表する石切東校区自治連合会副会長、校区民生委員長、上石切二地区の各自治会長、地区担当社会福祉協議会職員(コミュニティソーシャルワーカ)と当法人代表2名を含む計7名をコアメンバーとした「上石切地区自主防災組織」立ち上げることができた。 同年3月、第2回支援者会議では、避難行動要援護者の検討および担当ケアマネへの「個別避難計画」作成依頼を並行し、避難訓練実施までを目指すことを確認した。 後日、地区内で避難時支援を要するケースが少なくとも4事例はあると主治医より助言を受けた。そこで4事例の本人と家族に了解を得た上で担当ケアマネに「個別避難計画」作成の依頼を行った。 同年4月、第3回支援者会議では、4事例の概要を担当ケアマネから報告を受けた。 同年6月、第4回支援者会議では、第3回で報告を受けたケアマネ4名の内2名(残り2名は8月報告予定)が作成した個別避難計画を下に避難方法に関する検討を行った。その中で、「個別避難計画」(東大阪市版)作成に当たっては、「避難支援者や連絡網」また「避難場所までの安全な経路」の確保が課題として上がった。 そこで避難支援者の確保(活動部隊)として、現役消防団員とそのOBを含めた組織として「上石切地区自主防災組織」を模索することにした。 避難行動を取るためには災害発生時に各関係者との「連絡網」が欠かせない。故に、連絡網の確保に、災害時でも連絡が取れるという「LINE」の機能(グループLINE)を活用し、「『支援本部⇔本人・家族(要援護者)』LINE」を要援護者4事例ごとに、また「『支援本部⇔支援者(担当ケアマネージャーや避難誘導支援者)』LINE」を支援チームごとにグループLINEを活用することにした。ここでの「支援本部」とは、「上石切地区自主防災組織」コアメンバー7名をもって構成する。 また、避難場所までの安全な経路を確保すべく支援方法を模索しているところである。 これらを踏まえ、避難行動要援護者4事例の内2事例を用いた避難訓練を本年11月末に計画している。 今回、地域住民と介護事業体が取り組む自主防災組織の一モデルを提示した。今後は、このモデルを周辺地区に広げ、東大阪市が掲げる「誰一人取り残さないまちづくり」の貢献したい、と当法人では考えている。