講演情報

[15-O-S002-04]災害に備える~BCPの周知と訓練~

*竹下 正洋1 (1. 神奈川県 介護老人保健施設リハリゾートわかたけ)
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災害BCP(事業継続計画)の訓練と研修の実施状況について報告する。点検作業による停電・断水を活用し、停電・断水想定の訓練を行った。訓練の結果、フロアによって必要とされる水量に差異が見られ、物資分配の目安となった。研修はWeb形式と対面形式で実施した。参加者の意見では、より災害時の実働がイメージしやすい訓練のニーズがあり、今後の訓練計画策定の参考となった。
【はじめに】
令和3年度の介護報酬改訂により全介護サービスに業務継続計画の策定や研修・訓練等が義務付けられ、今年度で努力義務であった期間も終わり、本格的なBCP(事業継続計画)の始動が求められている。
広域災害においては職員自身も被災者である状況下であるものの、高齢者施設は運営継続が求められる。制度として研修・訓練の実施が求められると同時に、災害発生に対して職員が抱える不安について向き合っていく必要がある。

【目的】
災害BCP始動の初年度として、来年度以降の雛形となるような災害BCP訓練計画を作成すること。また『災害が発生した場合、施設はどうなるのか?』『被災している中で出勤しなければならないのか?』といった職員の不安・疑問に応える研修・訓練を企画する。

【訓練・研修担当】
各部署より1名ずつ選出された防災委員会が設置されており、訓練計画の作成及び施設内研修と周知を担う。
委員会メンバーは介護部(入所・通所)、看護部、栄養科、リハビリテーション科、相談部、事務である。

【施設概要】
3階建て従来型143床(3階74名2階69名)、1階に通所リハビリが併設され全職員132名である。入所フロアは6ブロックで区分けされている。
ハザードマップでは津波・浸水のリスクは無いが、施設一部が土砂災害警戒区域に該当している。

【施設の防災体制と課題】
福祉避難所に指定されており、周辺住民向け含めて防災備蓄品は準備されている。
防災訓練・計画に関しては、防災委員会で3ヶ月おきに会議を開き、各部署の訓練計画や備蓄品の保管状況などの定期報告を行い、実際の訓練などは各部署で行っていた。(定期避難訓練は介護・看護、防災非常食管理は栄養科、防災備蓄品管理は事務で分担していた)
災害BCPの本格的な訓練・研修に向けて、多職種間の総合的協働が求められる。

【取り組み内容】
1.研修
災害BCPファイルは4月時点で12冊を施設内に配布し職員がいつでも閲覧できるようになっている。
法人必須研修として動画によるBCPのWeb研修を5月に実施し、6月21日・28日に当施設の災害BCP研修を施設内で対面研修にて実施している。施設内研修では、災害時の職員参集や、出勤率に応じた優先業務について特に説明を行った。

2.訓練…停電・断水想定訓練
年に一回行われる施設点検による停電・断水(11時~14時)があり、例年、各部署で対応していた。これを停電・断水が発生した想定の訓練とし、訓練計画書として各物品配置・対応手順などを明記したマニュアルを作成した。

a)停電対応
・照明
非常灯にて最低限の照明は確保されている。トイレ内など暗所では転倒リスクが高くなる場所にランタンを設置する。ランタンは22個準備し、2階10個、3階10個で配置し2個を予備とする。誰でも設置場所が分かるよう、ランタン自体に配置場所を明記している。
・ナースコール、センサーの不通
鈴などの代替品を準備し、トイレ内やベッドサイド等に設置する。
b)口腔ケアを含む飲料水
口腔ケア用として2Lペットボトルを各ブロックに3本ずつ配布する。
c)トイレの排水不可
大浴場から75リットルバケツに水を汲み、各トイレ合計10箇所に設置し、使用後に手桶で流し清潔を維持する。
d)復旧時設備対応
断水・停電復旧後、電話線・屋上給湯給水設備の再始動を行う。

【考察】
訓練自体は例年の業務を改めてマニュアル化したものである。施設BCPにおいて排泄はオムツ・ポータブルトイレ対応とし、出来るだけ水を使用しない想定だが、ご利用者様の混乱を招く、ポータブルトイレ台数に限界があるといった問題があり、大浴場では常時湯張りがされていることを利用し本訓練計画を策定した。
実際に行う事で各ブロックでの水使用量が判明。3階フロアが2階フロアに対して倍近い使用量であった。
これは
・2階では重度要介護者向けのリフター対応居室がありパット交換対応のご利用者様が多いこと
・3階74名2階69名と満床人数に差があること
の2点が要因であると考えられる。
この結果を受け、例えば『実際の断水時では3階にPトイレや排水用の水を優先的に配布、2階にはパット類を優先的に配布する』など、物資が限られる中での優先振り分けの目安になった。
また訓練計画作成の過程で、(d)復旧時設備対応など、以前は特定部署内のみで行われていた業務内容が他部署にも周知され、マニュアルの共有化が図れた。
対面研修には全部署54名が参加し1.BCPへの理解 2.今後の業務に活かせるか?の質問事項を5段階評価でアンケートを実施した。その結果1.平均4.0  2.平均3.9の評価で回答された。
しかしアンケートコメントには不安を感じる声が36%、災害時業務への質問の内容が27%見られた。
災害時においてどのような業務が必要になるか、より職員がイメージしやすくなる実践的な訓練が今後求められる。

【今後に向けて】
今後の訓練計画として、今回作成した計画書様式を元に非常食提供訓練計画を栄養科・介護部共同で策定しており、8月~9月に実施予定。施設備蓄の災害用非常食を実際にご利用者様に提供し、提供に係る時間・人員、非常食に対するご利用者様の嚥下状態について確認し、改善点や実際の災害時における課題を考える。