講演情報

[15-O-S002-05]いつ起きるかわからない災害への備え~施設の災害対策担当としての取り組み~

*内田 和志1、井上 博之1、髙橋 真由美1、小林 美穂1、高井 康孝1 (1. 埼玉県 いづみケアセンター)
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わが国ではこれまで規模の大きな地震に度々見舞われている。災害への備えは喫緊の課題である。私は、災害対策担当として災害備品の整備や災害発生時の行動指針の作成に取り組んだ。災害用備品を整える過程で、多くの職員の意識が災害対策に向いたことは大きな成果であると言える。一連の経緯に考察を加え、ここに報告する。
【はじめに】
 わが国ではこれまで規模の大きな地震に度々見舞われている。現在では首都直下地震や南海トラフ地震の発生が危惧されており、特に災害への備えは喫緊の課題である。当施設のある滑川町は埼玉県の中央部に位置している。全町域の60%がなだらかな丘陵地となり、施設は農業地帯が広がる地域に位置している。当地域で想定される災害としては地震や河川氾濫などが挙げられる。また雪の影響も大きく、実際に10数年前の大雪の際には交通障害が生じ物流の停滞と勤務員の不足により業務運営に支障が出た経験がある。
 私は、施設の災害対策担当としていつ起きるかわからない災害に対する備えに力を入れて取り組んできた。一連の経緯に考察を加え、ここに報告する。

【方法】
 今回、私は災害への備えとして大きく2つの事に取り組んだ。まずは災害備品を整備し管理方法を定めた。次に災害発生時の状況を具体的に想定した行動指針をまとめた。

【結果と考察】
 まず各部署に配備された災害対策備品に関する職員の認知度を調査した。各部署へ聞き取りをした結果、およそ半数の職員が備品の保管場所について把握していないことが確認できた。その保管場所については、鍵のかかった棚で管理されている箇所もありいざ災害が起きた時にすぐに備品が使用できない状況が危惧された。また実際の備品の状態について確認したところ、充電が切れているライト、電池の入れっぱなしにより液漏れを起こしている懐中電灯など使用できない備品が多く見受けられた。そこでまずは使える備品の選定が必要だと考え、施設内すべての災害備品を集め正常に作動する物だけを残した。使用できない備品類も多くあったためランタン、ヘッドライトを追加購入し必要な場所へ配備した。ランタンの選定基準としては明るさと防水性の高さを考慮した。また、ヘッドライトについては暗い状況でも両手が使用できるというメリットを考慮して導入した。これらの備品類の保管場所に関して、全ユニット食堂にあるテレビ台の棚へと統一し職員へ周知した。また、いざ災害が発生してもどんな備品が保管されているか一目でわかるように保管ケースには内容物を表記したテープを貼付した。電池の液漏れ対策として、電池式の備品は電池を外して保管することとした。災害備品は災害時に使えてこその備えである。災害時に適切に使用できるよう月に1回の動作確認を行う仕組みを構築した。
 また、当施設には吸引機など利用者様の命に直接関わる医療機器に加え、ベッドや移乗ロボットなどの介護用品がある。ほとんどの機器は動力原が電気であり、停電時には利用者様のケアに多大な影響が出ることが想定できる。施設には自家発電設備があるが、その対象はエレベーターに限局されている。そのため停電時でも医療機器や介護用品が使用出来るようインバータ発電機(カセットボンベ式)を導入した。また、停電時にはトイレが使用できなくなることも想定される。排泄は人が生活するうえで避けられない生理現象でもある。介護福祉士として災害時でもプライバシーや衛生管理に配慮したトイレ環境を整えたいと考え、トイレ用品を調査した。その結果、便器にそのままビニール袋を装着し、排泄時には凝固剤により簡便に汚物の処理ができる簡易トイレ用品を見つけた。現在使用しているプライバシーに配慮されたトイレで排泄を簡潔させることができ、理想的な物だと考え導入した。
 備蓄食料については事務課及びフードサービス部の管理のもとローリングストック方式をとっている。両部署の徹底した在庫管理のもと、賞味期限内に災害食メニューを献立に組み込み消費している。これにより、備蓄食料の品質を定期的に把握できると共にフードロスの削減にもつながっている。今回、災害備品の整備については多くの職員の協力を得た。共に災害について考える過程で、多くの職員が災害に興味をもってくれたことが実感できた。同時に災害対策は職員一人一人が考えるべきものでもあると感じた。
 次に当施設で定めている行動指針について触れたい。当施設では地震発生時の参集基準について定めている。役職者は震度5強以上、非役職者は震度6弱以上の地震が発生した際には自身及び家族の安全を確保した上で施設に集まることとなっている。参集基準を定めて以降、基準に該当する地震は発生していない。だが、過去には施設近隣の住宅一棟が全焼する火災が発生した折には役職者が参集し避難対応などに当たった。また、大雪の際には交通障害が生じ、出勤に影響が出たが、そんな中施設まで歩いて出勤してくる職員が数多くいた。最近では雪予報が出た折には翌日の勤務に支障が出ないよう施設に宿泊し自ら備える職員もいる。
 災害時の緊急事態でも施設で暮らす利用者様の生活は守られるべきものであると考える。災害時の参集基準なども大切だと考えるが、特に緊急時に職員自らが考えて行動する風土というのも災害対策担当としては大切にしたいことである。

【まとめ】
 今回、私は災害対策担当として備品の整備と行動指針の作成に取り組んだ。災害備品を整える過程で、多くの職員の意識が災害対策に向いたことは大きな成果であると考える。
 東日本大震災の折に『人は想像していない事柄について備えることは出来ない』という言葉に出会った。この言葉は私の災害対策に対する考え方に大きな影響をもたらしてくれた。今後も思いもよらない災害が発生する可能性もある。いつ起きるかわからない災害に備えることが今できる災害対策ではないだろうか。どんな災害が起こっても老健の職員として、災害対策担当として、利用者様の生活を守ることを使命にこれからも災害対策に取り組んでいく所存である。
 すべては利用者様のために…。