講演情報

[15-O-P209-01]施設全体での「関わりカンファレンス」の取り組み

*小澤 まり1、小林 君恵1 (1. 長野県 北信総合病院老人保健施設もえぎ)
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当施設の認知棟で行っていた、1つの事象をとりあげてスタッフ間で自由に深く意見を出し合う「関わりカンファレンス」を全棟で広めることができた。その結果、ケアにはさまざまな考え方や方法があることを知り、スタッフの技術や知識並びにスタッフ間の信頼関係の向上につながる可能性が示唆された。
1、 はじめに・目的当施設は入所定員100名、通所リハビリテーション定員45名の超強化型老健であり、障害棟2棟、認知棟1棟、通所リハビリテーションの4つのフロアで構成されている。この4つのフロアでは各々、サービス担当者会議を行っているが、認知棟ではその他にもフロア会議の中で(1)何が起こったのか? (2)どう感じたのか? (3)なぜ、それが起こったのか? (4)何を学んだか?次はどうするか?という項目に沿って、1つの事例を取り上げて、スタッフ間で振り返り、自由に深く意見を出し合う「関わりカンファレンス」を4年前から行っておりスタッフ間で好評である。「関りカンファレンス」とは教育分野における学習者の内省促進への応用で、医学教育では1993年ハーバード大学医学部の学生を対象とした取り組みが注目されるようになった。臨床的な経験の中で、考えさせられた、悩んだ、心震えた、不安になった、達成感を味わった、理解に苦しんだ、など、何らかの陽性感情ないし、陰性感情体験を思い浮かべてスタッフ間で討論する有意事象分析である。この認知棟で行っている「関わりカンファレンス」を他の3つのフロアにも広め全棟で行う取り組みを行った。2、 方法当施設の師長、主任会議の場で「関わりカンファレンス」の目的、方法などについて説明して、理解して頂き、2023年8月から各棟のフロア会議の中で「関わりカンファレンス」を開始した。「関わりカンファレンス」の事例は担当者を決めて、事例は自由として(1)~(4)の項目に沿って記載し、自由に討論した。2024年1月に各フロアの「関わりカンファレンス」に参加されたスタッフに聞き取り調査を実施した。3、 結果「関りカンファレンス」の記載事例を示す。利用者:K様79歳 病名:アルツハイマー型認知症、高血圧 介護度:[(1)何が起こったのか?]便秘4日目、排便がなく処置しないと出ない感じ。Kさんは、椅子に座りテーブル上の雑誌を丸めるのに一生懸命で声掛けにもうなずくのみ。隣の席に座って、気になっている雑誌を一緒に丸めるのを手伝い、目線を合わせてみる。Kさん、にこっと、笑いうなずく。看護師『うんち出るかな?出してみよう』ポータブルトイレに誘導する。Kさん「うんちか?」「そっか」処置後、ポータブルトイレに誘導するが、なかなか座らない。歌を唄いながら、タイミングをみて、KさんをのせるとKさんはポータブルトイレへ座ってくれる。お腹をマッサージすると力んで排便がある。看護師『出たね、良かった』Kさん「うんち、出た、良かった」[(2)どう感じたか?]Kさんは自分の世界に入り込み、指示は入りづらく怒り出す事もある。しかし、自分で便を出すのは難しく、何とか、出さねば。真剣に何かやっている時には、拒否する事は間違いない。まず、Kさんの世界に入ってみよう。しめしめ。拒否は少なく、怒り出さない。機嫌を損ねるとチャンスを逃してしまう。焦り(;^_^A やったー![(3)なぜ、それが起こったのか?]こちらのやりたい事を、そのまま押し付けると拒否が出てしまう方で、自分の世界があり、寄り添う事で成功したと考える。[(4)何を学んだか?] 次はどうするか?忙しい中で、相手に合わせる事は辛抱がいる事だとつくづく思う、今日この頃です。以上の記載に基づき、スタッフ間の自由に意見を出し合った。「関わりカンファレンス」では事例を残しているが、発言した内容を記録することはなく、どんな発言を行うことも自由であり、参加したスタッフは「関わりカンファレンス」に集中することができ、また、正解や不正解はない事を前提での話し合いということもあり、1つの事象を深く掘り下げることから、いくつかのケア方法や新しい考えが出てきて活発な意見交換ができている。聞き取り調査では、スタッフは処理能力が追いつかないことを「関わりカンファレンス」を通して本音で話せることができ、自己の振り返りができて技術の向上と職務に対する向上心に繋がったなどという意見が聞かれ、各フロアでも好評であった。4、 考察「関わりカンファレンス」は発表者がシートに記載することで、言語化する事ができ、感情だけではなく状況を考えることができる。また、記載したスタッフがその経過を語ることで、まわりのスタッフが、発表しているスタッフの思いを考えて共感することもできる。発表者本人も他のスタッフの意見を聞く中で、気持ちの整理ができる。また、それを今後、どのように生かしていくのか参加したスタッフ間で、討論して発表者が自分の行動や考えを客観的にみることができ、利用者の関わりを振り返る機会となり、また、スタッフ同志の信頼関係の向上に役立つと考えられ、各フロアでも好評であった。更に多くの意見や提案を求めることで利用者の関わりに変化がおきて、施設全体が活気のある職場になったのではないかと思われた。「関わりカンファレンス」を継続していく中で、今後はケアの質がどのように変化していくのかという点にも注目している。引き続き、この「関わりカンファレンス」を施設全体で継続している。今回、取り組んだ「関わりカンファレンス」は、事例の発表者のみならず、参加したスタッフが自らの感情に気がつき、困難な状況に対処する能力が養われるスタッフの育成の場であることで、個人の技術や知識向上に向けた取り組みでもある。5、 まとめ当施設の認知棟で行っていた、1つの事象をとりあげてスタッフ間で自由に深く意見を出し合う「関わりカンファレンス」を全棟で広めることができた。その結果、ケアにはさまざまな考え方や方法があることを知り、スタッフの技術や知識並びにスタッフ間の信頼関係の向上につながる可能性が示唆された。