講演情報
[15-O-P209-05]虐待の芽チェックリストから予防教育の必要性を考える
*竹田 高子1 (1. 鳥取県 介護老人保健施設いなば幸朋苑)
新型コロナ感染症の発生により、施設では面会・立ち入り制限を行ってきた。家族・外部との接触が少なくなった結果、職員の緊張感の希薄さ、接遇意識の低下が感じられるようになった。定期的に行っている「虐待の芽チェックリスト」の集計結果から、不適切ケアが増える可能性と分析結果から見える職員同士のコミュニケーション不足が考えられた。不適切ケアゼロに繋がる予防教育の必要性を再認識した。
はじめに
当事業所(以下、老健)では、身体拘束廃止の啓発と共に「虐待の芽チェックリスト」(以下チェッ
クリスト)を定期的に実施している。チェックリストの結果から、虐待に対する認識の低さ、接遇意識
の低下を感じていた。要因として、コロナ禍による面会制限等、外部者との接触が激減した事による緊
張感の低下から、不適切ケアが増える可能性と分析結果から見える職員同士のコミュニケーション不足
が考えられた。根本にある潜在的な要因を探り、虐待の芽を早期に摘む予防教育の重要性と指導職とし
ての役割を再認識したので報告する。
1.目的
(1)不適切ケアに繋がる根本的な要因を探り、指導職の行動目標を明確にする
2.研究方法
(1)研究期間:令和4年12月~令和5年12月
(2)対象者及び対象人数:老健職員(介護職・看護職・軽作業員) 令和4年12月 58名 令和5年4月 58名 令和5年12月 56名
(3)チェックリスト実施と集計結果フィードバック
(4)動画研修受講後アンケート実施と個別面談を行い、行動目標を明確にする
(3)(4)は、チェックリスト実施毎に行う
3.結果
(1)チェックリスト集計結果
チェック欄「している」を比較した結果、チェック項目1.3.6.11.12.13.14で有意差がみられた。
チェック項目1.4.8.9.15では2回目で減少したにも関わらず3回目で増加している。
4.考察
チェックリストは、15項目の設問内容で構成されている。有意差のあった7項目については、今まで無
意識に行っていた事が、研修を受講する事で虐待になる事を認識したと言える。2回目のチェックリスト
実施と併せて行った行動目標に対する振り返り内容にも表れている。3回目チェックで増加に転じた項目
には、子ども扱い、声掛けなしの介助、否定的な態度、ケアの無理強い、ケアに問題を感じるなどに約2
割の職員がチェックを付けている。定期的に行うチェックリストが自己の振り返りや気づきの効果が高
い事が分かった。チェック欄の項目には、「見た事・聞いた事がある」の回答欄があり自己評価と他者評
価を同時に行っている。その内、12項目中11項目に「見た事・聞いた事がある」のチェックを毎回平均
2割の職員がチェックを付けている。チェック項目15「他の職員が行っているサービス提供、ケアに問題
があると感じる事はありませんか?」では、問題を感じている職員の割合いが、平均4割であった。チェ
ック項目15の「している」の割合と、他者評価チェックの割合の約2割を合わせると老健職員の6割に
及んでいる。多くの職員が他者のケアに問題を感じていても、対面で注意できない実態を推測できる。
5.まとめ
老健職員の6割が問題を感じながらも、問題解決の行動に移せない実態には、潜在的な要因が背景にあ
ると考える事ができた。背景要因のひとつに、対人関係において指摘をする事で、人間関係の悪化に対す
る不安を抱きやすい環境になっている可能性がある事も否めない。良好そうな人間関係を取り繕う事で
はなく、安心して意見を発せられる環境と、間違っている時にお互いが素直に言い合える職場環境の構
築が課題と捉えた。言い合える環境が整う事で、考察に上がっている「している」の割合が相乗的に減少
していくと見込んでいる。現場に近い指導職として、日々の対面ミーティングを行い積極的なコミュニケーシ
ョンを図り、自分の意見を言える関係性の構築と多様な意見を安心して発言でき、受容できる風土作り、
職員全体が対人関係にリスクを感じない環境を造る役割が大きい。また、接遇に係る指導やその人の尊
厳を守るケアの指導と共に、研修、ミニ勉強会などを計画的に行っていく必要性を再認識した。
【虐待の芽チェックリスト設問内容】
1. 利用者に友達感覚で接したり、子供扱いしたりしていませんか?
2. 利用者に対して、アセスメント・施設サービス計画書に基づかず、あだ名や○○ちゃん呼び、
呼び捨てなどをしていませんか?
3. 利用者に対して、威圧的な態度、命令口調(「○○して」「ダメ!」など)で接していませんか?
4. 利用者への声掛けなしに介助したり、居室に入ったり、勝手に私物に触ったりしていませんか?
5. 利用者のプライバシーに配慮せず、職員同士で話題にしたり個人情報を取り扱ったりしていませんか?
6. 利用者に対して、「ちょっと待って」を乱用し、長時間待たせていませんか?
7. 利用者に必要な日用品(眼鏡、義歯、補聴器など)や道具(コールボタンなど)が壊れていたり、使えなか
ったりしていませんか?
8. 利用者の呼びかけやコールを無視したり、意見や訴えに否定的な態度をとったりしていませんか?
9. 食事や入浴介助の無理強いなど、利用者に嫌悪感を抱かせるような援助を強要していませんか?
10. 利用者の身体で遊んだり、人格を無視した関わり(落書きをするくすぐるなど)をしたりしていませんか?
11. 利用者や利用者の家族の言動をあざ笑ったり、悪口を言ったりしていませんか?
12. プライバシーへの配慮に欠けたケア(排泄について大声で話す、カーテンを開けたまま排泄ケアを
するなど)をしていませんか?
13. 利用者に対して乱暴で雑な介助や、いい加減な態度・受け答えをしていませんか?
14. 他の職員に仕事に関わる相談ができない等、職場でのコミュニケーションがとりにくくなっていませんか?
15. 他の職員が行っているサービス提供・ケアに問題があると感じる事がありませんか?
【参考文献】
1)ピョートルフェリクスグジバジ
2)心理的安全性 最強の教科書
【引用資料】
1)社会福祉法人徳心会介護老人福祉施設
いずみえん作成「虐待の芽チェックリスト」
当事業所(以下、老健)では、身体拘束廃止の啓発と共に「虐待の芽チェックリスト」(以下チェッ
クリスト)を定期的に実施している。チェックリストの結果から、虐待に対する認識の低さ、接遇意識
の低下を感じていた。要因として、コロナ禍による面会制限等、外部者との接触が激減した事による緊
張感の低下から、不適切ケアが増える可能性と分析結果から見える職員同士のコミュニケーション不足
が考えられた。根本にある潜在的な要因を探り、虐待の芽を早期に摘む予防教育の重要性と指導職とし
ての役割を再認識したので報告する。
1.目的
(1)不適切ケアに繋がる根本的な要因を探り、指導職の行動目標を明確にする
2.研究方法
(1)研究期間:令和4年12月~令和5年12月
(2)対象者及び対象人数:老健職員(介護職・看護職・軽作業員) 令和4年12月 58名 令和5年4月 58名 令和5年12月 56名
(3)チェックリスト実施と集計結果フィードバック
(4)動画研修受講後アンケート実施と個別面談を行い、行動目標を明確にする
(3)(4)は、チェックリスト実施毎に行う
3.結果
(1)チェックリスト集計結果
チェック欄「している」を比較した結果、チェック項目1.3.6.11.12.13.14で有意差がみられた。
チェック項目1.4.8.9.15では2回目で減少したにも関わらず3回目で増加している。
4.考察
チェックリストは、15項目の設問内容で構成されている。有意差のあった7項目については、今まで無
意識に行っていた事が、研修を受講する事で虐待になる事を認識したと言える。2回目のチェックリスト
実施と併せて行った行動目標に対する振り返り内容にも表れている。3回目チェックで増加に転じた項目
には、子ども扱い、声掛けなしの介助、否定的な態度、ケアの無理強い、ケアに問題を感じるなどに約2
割の職員がチェックを付けている。定期的に行うチェックリストが自己の振り返りや気づきの効果が高
い事が分かった。チェック欄の項目には、「見た事・聞いた事がある」の回答欄があり自己評価と他者評
価を同時に行っている。その内、12項目中11項目に「見た事・聞いた事がある」のチェックを毎回平均
2割の職員がチェックを付けている。チェック項目15「他の職員が行っているサービス提供、ケアに問題
があると感じる事はありませんか?」では、問題を感じている職員の割合いが、平均4割であった。チェ
ック項目15の「している」の割合と、他者評価チェックの割合の約2割を合わせると老健職員の6割に
及んでいる。多くの職員が他者のケアに問題を感じていても、対面で注意できない実態を推測できる。
5.まとめ
老健職員の6割が問題を感じながらも、問題解決の行動に移せない実態には、潜在的な要因が背景にあ
ると考える事ができた。背景要因のひとつに、対人関係において指摘をする事で、人間関係の悪化に対す
る不安を抱きやすい環境になっている可能性がある事も否めない。良好そうな人間関係を取り繕う事で
はなく、安心して意見を発せられる環境と、間違っている時にお互いが素直に言い合える職場環境の構
築が課題と捉えた。言い合える環境が整う事で、考察に上がっている「している」の割合が相乗的に減少
していくと見込んでいる。現場に近い指導職として、日々の対面ミーティングを行い積極的なコミュニケーシ
ョンを図り、自分の意見を言える関係性の構築と多様な意見を安心して発言でき、受容できる風土作り、
職員全体が対人関係にリスクを感じない環境を造る役割が大きい。また、接遇に係る指導やその人の尊
厳を守るケアの指導と共に、研修、ミニ勉強会などを計画的に行っていく必要性を再認識した。
【虐待の芽チェックリスト設問内容】
1. 利用者に友達感覚で接したり、子供扱いしたりしていませんか?
2. 利用者に対して、アセスメント・施設サービス計画書に基づかず、あだ名や○○ちゃん呼び、
呼び捨てなどをしていませんか?
3. 利用者に対して、威圧的な態度、命令口調(「○○して」「ダメ!」など)で接していませんか?
4. 利用者への声掛けなしに介助したり、居室に入ったり、勝手に私物に触ったりしていませんか?
5. 利用者のプライバシーに配慮せず、職員同士で話題にしたり個人情報を取り扱ったりしていませんか?
6. 利用者に対して、「ちょっと待って」を乱用し、長時間待たせていませんか?
7. 利用者に必要な日用品(眼鏡、義歯、補聴器など)や道具(コールボタンなど)が壊れていたり、使えなか
ったりしていませんか?
8. 利用者の呼びかけやコールを無視したり、意見や訴えに否定的な態度をとったりしていませんか?
9. 食事や入浴介助の無理強いなど、利用者に嫌悪感を抱かせるような援助を強要していませんか?
10. 利用者の身体で遊んだり、人格を無視した関わり(落書きをするくすぐるなど)をしたりしていませんか?
11. 利用者や利用者の家族の言動をあざ笑ったり、悪口を言ったりしていませんか?
12. プライバシーへの配慮に欠けたケア(排泄について大声で話す、カーテンを開けたまま排泄ケアを
するなど)をしていませんか?
13. 利用者に対して乱暴で雑な介助や、いい加減な態度・受け答えをしていませんか?
14. 他の職員に仕事に関わる相談ができない等、職場でのコミュニケーションがとりにくくなっていませんか?
15. 他の職員が行っているサービス提供・ケアに問題があると感じる事がありませんか?
【参考文献】
1)ピョートルフェリクスグジバジ
2)心理的安全性 最強の教科書
【引用資料】
1)社会福祉法人徳心会介護老人福祉施設
いずみえん作成「虐待の芽チェックリスト」