講演情報
[15-O-O005-01]ヒヤリハットの重要性を知り、気づきを増やそうヒヤリハットを増やすためには
*笹原 舶勇1 (1. 兵庫県 介護老人保健施設ウエルハウス西宮)
事故報告件数に対し、ヒヤリハット件数が著しく少ない現状を踏まえ、ヒヤリハットを増やす為の取り組みを報告する。事前、最終アンケートの実施、勉強会を行い、終礼時にヒヤリハットの作成時間を設ける事により、意識の変化を比較する。結果、ヒヤリハット件数を増やす事が出来た。一方、ヒヤリハット件数急増に対し、職員各自でのヒヤリハットの確認不足とそれによる同じ内容ヒヤリハットが挙がってしまった。
I.はじめに
当施設の認知症専門棟は、2023年5月現在で56名の利用者が入所している。重度の認知症利用者が多く、43名がMMSE21点以下であり9名が長谷川スケール20点以下である。その内の約40名が職員の見守りの下、日中談話室で過ごしている。しかし、認知機能の低下により危険認識が乏しい利用者は、急な立ち上がりや急な歩行等の危険行為が頻繁にみられ、転倒リスクが非常に高い。その様な利用者を職員不足から職員1名が談話室での見守り業務を行っており、事故に繋がるであろう、危険行為も日常的で当たり前の事と思い対応に当たっているのが現状である。2022年4月から2023年3月でヒヤリハット報告書(以下ヒヤリハット)と事故報告を比較すると、事故報告が171件に対しヒヤリハットが130件と事故報告に対してヒヤリハットが著しく少ない事が判明した。事故を未然に防ぐ為に必要となるヒヤリハットの提出件数が著しく少ない現状を踏まえ、ヒヤリハットを増やす為の取り組みをここに報告する。
II.研究方法
1.対象者:看護師7名、介護職員18名
2.研究期間2023年8月~12月
3.研究内容:
(1)データの収集
1)ヒヤリハットについて事前アンケート実施
2)ヒヤリハット勉強会実施
3)勤務時1人1枚以上ヒヤリハット記入
4)各職員職種別、経験年数別、ヒヤリハット件数に対する分析
5)ヒヤリハット報告書について最終アンケート実施
(2)データ分析
1) アンケート調査やヒヤリハット報告書内容分析
2) ヒヤリハット報告書提出数集計(期間:2023年9月4日~2023年10月23日)
(3)倫理的配慮
職員の対象となる個人名は伏せ、知り得た情報は研究目的以外に使用しない事を説明する
III.結果
ヒヤリハットに対して職員がどのような考えを持っているかを知る為、「介護職員のヒヤリハットの認識と報告書作成」1)を参考に作成したアンケートを実施。自由回答欄では「書く事に慣れていない」「書く時間がない」といったネガティブな意見が多く見られた。また、ヒヤリハットの重要性を知ってもらう為、「介護のヒヤリハット報告書の事例30選!原因と対策の例文付き」2)を用いて全職員対象に勉強会を実施。2023年9月1日~10月23日の期間中は、ヒヤリハットを書き慣れてもらう為に勤務時に1人1枚以上ヒヤリハットを記入してもらうと共に、ヒヤリハットを書く事に慣れていない職員の為にヒヤリハットの例文を掲示し、終礼時に30分程ヒヤリハットについて話合う時間を設けた。その中で、ヒヤリハットの内容確認と訂正があれば職員へ声掛けし、ヒヤリハットの書き方を少しでも理解してもらえる様努めた。その結果、「ヒヤリハット書かないと」「これヒヤリになる?」等の声も挙がり、少しずつではあるがヒヤリハットの件数を増やす事が出来た。また、週毎に職員のヒヤリハット提出件数を分析。その結果、看護職員は介護職員よりヒヤリハット提出件数が少ない事が分かった。理由は処置などの看護業務に追われ、書く時間が無い事等が挙げられる。
IV.考察
ヒヤリハットを書く時間を設け、1枚以上書くことを習慣づける中で、職員が書き方について考える様になり、結果ヒヤリハット提出件数を増やす事に繋がったと考える。
「ヒヤリハット報告書提出数統計」(表1)で平均値を比較すると、介護職員は利用者を眼にする事が多い事から27.1±17.3件に対して看護職員は処置などの業務で13.0±8.2件と少ない。日勤帯は「業務優先で書く時間がない」、「書くのを忘れる」等の理由から22.1±13.2件。それに対し、夜勤帯は25.1±18.0件と多く、理由として夜勤帯は日勤帯に比べ書く時間に余裕がある事が挙げられる。常勤の24.4±17.6件に対して、非常勤は23.0±10.0件と非常勤は勤務時間制限がありより書く時間がない事がわかる。日本人と外国人別では、日本人26.5±17.2件に対して、外国人は12.5±8.1件で少ない。外国人はヒヤリハットを書く際、日本語が難しいとの意見から「書く」ことへの抵抗感があると考える。10年以上の勤務者は経験値や気づき度が高く26.9±17.5件で、5年未満の勤務者は19.7±1.7件と危険度の気づきが浅い為、今後勉強会などの実施の必要性があると考える。
V.結論
ヒヤリハットを増やす取り組みとして、終礼時30分程ヒヤリハットについて話合いの時間を設けると共にヒヤリハットの書き方の例文の掲示を行った。結果として、ヒヤリハットを増やすことに繋がり、一定の効果があったと考える。今回の研究は、ヒヤリハットの記入に慣れ、件数を増やす事に重点を置いた為、ヒヤリハット記入後の対策立案の検討が不十分であった。経験値の違いや国籍の異なる職種が協働している現場で個々の考えのみで対策立案するのは困難だが、ヒヤリハットは記入毎に行い横断的に分析する事が重要である。ヒヤリハットは重大事故を防ぐ為の重要なツールである。利用者が安心して施設生活を送る為にも終礼時にヒヤリハットの記入を行い、そして話合いで対策立案を行い、個々の負担を軽減させる事でヒヤリハットの継続を図り、ヒヤリハットを活用した事故防止に繋げて行きたいと考える。
参考文献
1)佐々木珠江 堀木美鶴 介護職員のヒヤリハットの認識と報告書作成 2023.5.1
https://www.yamaguchi-kaigo.jp
2)保存版 介護のヒヤリハット報告書の事例30選!原因と対応策の例文付き 2023.7.28
https://kaigo-work.jp
当施設の認知症専門棟は、2023年5月現在で56名の利用者が入所している。重度の認知症利用者が多く、43名がMMSE21点以下であり9名が長谷川スケール20点以下である。その内の約40名が職員の見守りの下、日中談話室で過ごしている。しかし、認知機能の低下により危険認識が乏しい利用者は、急な立ち上がりや急な歩行等の危険行為が頻繁にみられ、転倒リスクが非常に高い。その様な利用者を職員不足から職員1名が談話室での見守り業務を行っており、事故に繋がるであろう、危険行為も日常的で当たり前の事と思い対応に当たっているのが現状である。2022年4月から2023年3月でヒヤリハット報告書(以下ヒヤリハット)と事故報告を比較すると、事故報告が171件に対しヒヤリハットが130件と事故報告に対してヒヤリハットが著しく少ない事が判明した。事故を未然に防ぐ為に必要となるヒヤリハットの提出件数が著しく少ない現状を踏まえ、ヒヤリハットを増やす為の取り組みをここに報告する。
II.研究方法
1.対象者:看護師7名、介護職員18名
2.研究期間2023年8月~12月
3.研究内容:
(1)データの収集
1)ヒヤリハットについて事前アンケート実施
2)ヒヤリハット勉強会実施
3)勤務時1人1枚以上ヒヤリハット記入
4)各職員職種別、経験年数別、ヒヤリハット件数に対する分析
5)ヒヤリハット報告書について最終アンケート実施
(2)データ分析
1) アンケート調査やヒヤリハット報告書内容分析
2) ヒヤリハット報告書提出数集計(期間:2023年9月4日~2023年10月23日)
(3)倫理的配慮
職員の対象となる個人名は伏せ、知り得た情報は研究目的以外に使用しない事を説明する
III.結果
ヒヤリハットに対して職員がどのような考えを持っているかを知る為、「介護職員のヒヤリハットの認識と報告書作成」1)を参考に作成したアンケートを実施。自由回答欄では「書く事に慣れていない」「書く時間がない」といったネガティブな意見が多く見られた。また、ヒヤリハットの重要性を知ってもらう為、「介護のヒヤリハット報告書の事例30選!原因と対策の例文付き」2)を用いて全職員対象に勉強会を実施。2023年9月1日~10月23日の期間中は、ヒヤリハットを書き慣れてもらう為に勤務時に1人1枚以上ヒヤリハットを記入してもらうと共に、ヒヤリハットを書く事に慣れていない職員の為にヒヤリハットの例文を掲示し、終礼時に30分程ヒヤリハットについて話合う時間を設けた。その中で、ヒヤリハットの内容確認と訂正があれば職員へ声掛けし、ヒヤリハットの書き方を少しでも理解してもらえる様努めた。その結果、「ヒヤリハット書かないと」「これヒヤリになる?」等の声も挙がり、少しずつではあるがヒヤリハットの件数を増やす事が出来た。また、週毎に職員のヒヤリハット提出件数を分析。その結果、看護職員は介護職員よりヒヤリハット提出件数が少ない事が分かった。理由は処置などの看護業務に追われ、書く時間が無い事等が挙げられる。
IV.考察
ヒヤリハットを書く時間を設け、1枚以上書くことを習慣づける中で、職員が書き方について考える様になり、結果ヒヤリハット提出件数を増やす事に繋がったと考える。
「ヒヤリハット報告書提出数統計」(表1)で平均値を比較すると、介護職員は利用者を眼にする事が多い事から27.1±17.3件に対して看護職員は処置などの業務で13.0±8.2件と少ない。日勤帯は「業務優先で書く時間がない」、「書くのを忘れる」等の理由から22.1±13.2件。それに対し、夜勤帯は25.1±18.0件と多く、理由として夜勤帯は日勤帯に比べ書く時間に余裕がある事が挙げられる。常勤の24.4±17.6件に対して、非常勤は23.0±10.0件と非常勤は勤務時間制限がありより書く時間がない事がわかる。日本人と外国人別では、日本人26.5±17.2件に対して、外国人は12.5±8.1件で少ない。外国人はヒヤリハットを書く際、日本語が難しいとの意見から「書く」ことへの抵抗感があると考える。10年以上の勤務者は経験値や気づき度が高く26.9±17.5件で、5年未満の勤務者は19.7±1.7件と危険度の気づきが浅い為、今後勉強会などの実施の必要性があると考える。
V.結論
ヒヤリハットを増やす取り組みとして、終礼時30分程ヒヤリハットについて話合いの時間を設けると共にヒヤリハットの書き方の例文の掲示を行った。結果として、ヒヤリハットを増やすことに繋がり、一定の効果があったと考える。今回の研究は、ヒヤリハットの記入に慣れ、件数を増やす事に重点を置いた為、ヒヤリハット記入後の対策立案の検討が不十分であった。経験値の違いや国籍の異なる職種が協働している現場で個々の考えのみで対策立案するのは困難だが、ヒヤリハットは記入毎に行い横断的に分析する事が重要である。ヒヤリハットは重大事故を防ぐ為の重要なツールである。利用者が安心して施設生活を送る為にも終礼時にヒヤリハットの記入を行い、そして話合いで対策立案を行い、個々の負担を軽減させる事でヒヤリハットの継続を図り、ヒヤリハットを活用した事故防止に繋げて行きたいと考える。
参考文献
1)佐々木珠江 堀木美鶴 介護職員のヒヤリハットの認識と報告書作成 2023.5.1
https://www.yamaguchi-kaigo.jp
2)保存版 介護のヒヤリハット報告書の事例30選!原因と対応策の例文付き 2023.7.28
https://kaigo-work.jp