講演情報
[15-O-O005-05]「転倒に関するステートメント」の職員への心理的影響
*大久保 抄織1 (1. 北海道 介護老人保健施設エル・クォール平和)
「転倒に関するステートメント」が介護施設職員に与える心理的影響を明らかにすることを目的に、ステートメントの内容に関する研修前後の職員の気持ちを比較した。経験年数10年未満では転倒に対する責任感、負担感、ストレスが研修後に減少し有意差があった。経験の少ない職員が順調に経験を積んでいくことで転倒に関する責任感や負担感、ストレスは軽減していくものであり、ステートメントの理解が一助となると考えられた。
【はじめに】高齢者は転倒による骨折等によりその後のADLに大きな影響を与えてしまう。そのことから、転倒させてはいけないという介護施設に従事する職員の負担が大きく、ストレスに感じているという報告もある。そのような中、2021年に「介護施設内での転倒に関するステートメント」(以下、ステートメント)が発表された。老年症候群の観点から防ぎきれない転倒があると理解することにより介護施設に従事する職員の心理面に変化があるのかを明らかにしたいと考えた。
【目的】ステートメントが介護施設職員に与える心理的影響を明らかにする。
【研究方法】対象者はA介護老人保健施設に勤務する看護・介護・リハビリ職員とした。方法としてはステートメントの内容についての研修を行い、受講前後でのアンケート調査を実施した。それぞれ転倒に対する気持ちをvisual analog scaleにて数値化し、t検定を用いて比較した(p<0.05)。またその他変化した気持ちの記述内容を集計し併せて分析した。
【倫理的配慮】対象者には研究の目的や方法、プライバシーや個人情報の保護などを書面にて説明し同意を得た。
【結果】アンケートは39名からの回答のうち、ステートメントについて知らなかったとする36名からの回答を集計した。転倒に対する責任感、負担感、ストレスについては、研修前と比較して研修後に数値が下がり有意差があった。また、施設経験年数10年未満と10年以上とで比較すると10年未満ではすべての項目に有意差があったが、10年以上ではいずれも有意差がなかった。 研修後の変化した気持ちの記述では、複数回答にて変わらないが5名(うち施設経験年数10年未満は2名)、気が楽になった21名(同17名)、転倒に関する認識が変わった16名(同13名)でネガティブな内容はなかった。
【考察】自分が担当していた利用者が転倒したときの責任感は研修前の平均が9.0と高く、多くの職員が大きな責任を感じていることが読み取れた。責任感ばかりではなく、利用者の転倒を防ぐための負担感と転倒時の対応や転倒を防ぐためのケアに対して感じるストレスが研修後に減少したこと、半数以上の職員の気持ちが楽になったという回答から、研修により転倒が必ずしも過失によるものではないという認識へと変化したことが考えられた。 次に、経験年数の違いに着目した。経験年数が少ない職員は研修後に気が楽になった、転倒に対する認識が変わったなど気持ちの変化が顕著であった。経験年数が少ない時期の特徴として、過剰な責任感がある時期であるという報告、ケアにあたっての準備状態が整っていないことがストレスの要因であるという報告がある。一方で経験年数が多いと、よりワークエンゲージメントも高くなり負担感の減少につながるという報告、ストレスに対し積極的な対処行動を多くとりながらキャリアを積んで対処行動を促進させるという報告もある。さらに経験によりソーシャルスキルが獲得され、ストレッサーの自己解決や心理的ストレス反応の低下に繋がるという報告もある。以上のことから、経験年数が少ない職員は転倒に対し過剰な責任感を感じていること、さまざまな準備が整っていないために転倒に関するケアや対応方法にストレスを感じていること、ステートメントの理解によりそれらが緩和されることが考えられた。経験年数が多い職員はさまざまな自己解決方法を身につけていることにより、転倒に対する責任感や負担感、ストレスが元々コントロールされていることから、研修という介入には左右されず変化しなかったとことが推測される。つまり、経験の少ない職員が順調に経験を積んでいくことで、転倒に関する責任感や負担感、ストレスは軽減していくものであり、その過程においてステートメントの理解が一助となると考えられる。
【結論】介護施設の多くの職員が転倒に関する責任感や負担感、ストレスを感じており、ステートメントの理解、つまり老年症候群の観点から転倒を理解することでこれらが軽減し、特に経験年数の少ない職員は顕著であることが示された。
【目的】ステートメントが介護施設職員に与える心理的影響を明らかにする。
【研究方法】対象者はA介護老人保健施設に勤務する看護・介護・リハビリ職員とした。方法としてはステートメントの内容についての研修を行い、受講前後でのアンケート調査を実施した。それぞれ転倒に対する気持ちをvisual analog scaleにて数値化し、t検定を用いて比較した(p<0.05)。またその他変化した気持ちの記述内容を集計し併せて分析した。
【倫理的配慮】対象者には研究の目的や方法、プライバシーや個人情報の保護などを書面にて説明し同意を得た。
【結果】アンケートは39名からの回答のうち、ステートメントについて知らなかったとする36名からの回答を集計した。転倒に対する責任感、負担感、ストレスについては、研修前と比較して研修後に数値が下がり有意差があった。また、施設経験年数10年未満と10年以上とで比較すると10年未満ではすべての項目に有意差があったが、10年以上ではいずれも有意差がなかった。 研修後の変化した気持ちの記述では、複数回答にて変わらないが5名(うち施設経験年数10年未満は2名)、気が楽になった21名(同17名)、転倒に関する認識が変わった16名(同13名)でネガティブな内容はなかった。
【考察】自分が担当していた利用者が転倒したときの責任感は研修前の平均が9.0と高く、多くの職員が大きな責任を感じていることが読み取れた。責任感ばかりではなく、利用者の転倒を防ぐための負担感と転倒時の対応や転倒を防ぐためのケアに対して感じるストレスが研修後に減少したこと、半数以上の職員の気持ちが楽になったという回答から、研修により転倒が必ずしも過失によるものではないという認識へと変化したことが考えられた。 次に、経験年数の違いに着目した。経験年数が少ない職員は研修後に気が楽になった、転倒に対する認識が変わったなど気持ちの変化が顕著であった。経験年数が少ない時期の特徴として、過剰な責任感がある時期であるという報告、ケアにあたっての準備状態が整っていないことがストレスの要因であるという報告がある。一方で経験年数が多いと、よりワークエンゲージメントも高くなり負担感の減少につながるという報告、ストレスに対し積極的な対処行動を多くとりながらキャリアを積んで対処行動を促進させるという報告もある。さらに経験によりソーシャルスキルが獲得され、ストレッサーの自己解決や心理的ストレス反応の低下に繋がるという報告もある。以上のことから、経験年数が少ない職員は転倒に対し過剰な責任感を感じていること、さまざまな準備が整っていないために転倒に関するケアや対応方法にストレスを感じていること、ステートメントの理解によりそれらが緩和されることが考えられた。経験年数が多い職員はさまざまな自己解決方法を身につけていることにより、転倒に対する責任感や負担感、ストレスが元々コントロールされていることから、研修という介入には左右されず変化しなかったとことが推測される。つまり、経験の少ない職員が順調に経験を積んでいくことで、転倒に関する責任感や負担感、ストレスは軽減していくものであり、その過程においてステートメントの理解が一助となると考えられる。
【結論】介護施設の多くの職員が転倒に関する責任感や負担感、ストレスを感じており、ステートメントの理解、つまり老年症候群の観点から転倒を理解することでこれらが軽減し、特に経験年数の少ない職員は顕著であることが示された。