講演情報

[15-O-O005-07]職員のリスク感覚向上に対する取り組み

*畑野 真希1、沖 修一1、新久 理恵1、安田 幸1、井上 郁代1 (1. 広島県 老人保健施設べにまんさくの里)
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【目的】ヒヤリハットの報告を増やすことで、職員のリスクへの意識が高まることを目的とした。【方法】事故、ヒヤリハットの分類の統一、ヒヤリハット報告時多職種での臨時カンファレンスを実施、介護ソフトの記録を活用、委員会での報告や職員への声掛けを行った。【結果】ヒヤリハットの報告は7倍、意識は関係職員の93%が高まったと答えた。【考察と結論】職員のリスクに対する意識が高まり危険への気付きが向上した。
【はじめに】
当施設は入所100床、通所リハビリテーション40名/日定員の超強化型介護老人保健施設である。施設内では毎月1件以上事故が発生しており、委員会での状況報告が行われているが、事故報告に比べヒヤリハットの報告が少ないことが問題点として挙げられた。事故発生を未然に防ぐためには、あらゆるリスクを予測し回避することが必要だが、まずはヒヤリハットの報告を増やすよう施設で取り組むことが、職員のリスクに対する意識の向上に繋がるのではないかと考えた。取り組み内容と得られた変化について、以下に報告する。
【目的】
ヒヤリハットの報告を増やすことにより、職員のリスクに対する意識が高まる。
【方法】
1.事故、ヒヤリハットの分類を統一した
当施設では転倒に関して、怪我がなくても臀部や膝等が床についた場合は事故として取り扱っていた。
2023年度より転倒に関して、医療安全管理指針 インシデント・アクシデントの患者影響度分類を参考にし、3a以上(事故により採血やレントゲン撮影などの必要性を生じた。また、簡単な処置や治療を要した。)を事故として扱う事とした。離設に関して、職員が気付くことなく利用者が施設外に出た場合を事故、入所フロア外に一人で移動しようと行動した場合をヒヤリハットとして扱うこととした。
2.ヒヤリハット報告時、多職種での臨時カンファレンス実施した
カンファレンスは必要に応じ実施し、対策の立案・実行、その後見直しを行った。時間は約5~10分と短時間で行うこととした。
3.介護ソフトの機能を活用した
当施設では、ほのぼのNEXTを使用し、報告は必要項目をリストから選択、詳細は文章で入力した。カンファレンス内容も記録し、記録は全職員がパソコンやタブレット端末にて常に入力・閲覧可能とした。
4.委員会での報告や職員への声掛けを行った
ヒヤリハットの発生状況を月に1回委員会で報告した。委員会メンバー、主任・副主任より職員へヒヤリハットを積極的に報告するよう意識的に声掛けを行った。
5.報告件数、職員の意識の変化を2022年度(取り組み前)と2023年度(取り組み開始年)で比較した。
【結果】
・関係職員へのアンケートを実施。取り組みにより「リスクに対する意識が高まったと思う」と回答した職員は29名中27名(93%)だった。「事故予防・対策に繋がったと思う」と回答した職員は29名中25名(86%)だった。
・ヒヤリハット報告が、79件から571件と約7倍に増えた。件数は旧分類に合わせ集計した。
・事故報告は、123件から179件と56件増えた。
・転倒による骨折事故は6件から5件と1件減り、延べ利用者数に対する骨折事故の発生率は25%の減少となった。
・2023年度の離設に関するヒヤリハット報告が157件だったが、事故報告は0件だった。
【考察】
今回ヒヤリハットの報告を多くあげる取り組みを行い、職員のリスクに対する意識の向上を図った。その結果、ヒヤリハットの報告は約7倍に増え、「リスクに対する意識が高まったと思う」と回答した関係職員が93%だったことから目的は達成出来たと考えられた。アンケートでは「記録が目につきやすく、リスクについて意識しやすくなった」「小さなことでも多く報告することで、多職種との情報共有の機会が増えた」「分類を変えたことで報告しやすくなった」等プラスの意見が多く得られた。報告が増えた理由として、介護ソフトの機能により効率的に記録が行え、利用者個々のリスクが常に確認しやすくなったこと、また多職種での意見交換の機会が増えことにより、報告を多くあげることに対しプラスのイメージが持て、職員が積極的に報告出来るようになった為と考えられた。ヒヤリハットを多く報告するには、日頃から利用者自身や取り巻く環境を細かく観察し変化に気付き、起こり得るリスクについて考える必要がある。当施設でのヒヤリハットの大半が転倒に関することであったが、その次に多いものは離設であった。1年で離設に関する多くの報告があったにも関わらず未然に事故を防げていた要因の一つとして、職員による多くの「気付き」があったと考える。
今回の取り組みが「事故予防・対策に繋がったと思うか」という質問に対して、86%が思うと回答した。しかし、原因分析や対策立案、対策の周知が十分には行えていなかった等の意見もあった。リスクへの意識が高まった今、今後の課題として原因分析と適した対策の立案、対策の周知方法について、勉強会や研修を通し施設全体で学んでいく必要があると分かった。
【結論】
ヒヤリハットの分類を統一し多職種でカンファレンスを行うよう促した結果、ヒヤリハットの報告件数が増加した。職員のリスクに対する意識が高まり、危険への気付きが向上した。