講演情報

[15-O-O006-01]認知症高齢者の歯牙、義歯、歯科補綴物の誤飲、誤嚥

*田中 淳1、霜村 まどか1、濱崎 尚文1、竹久 義明1、田中 敬子1、相見 正史2 (1. 鳥取県 老人保健施設はまゆう、2. 鳥取市立病院)
PDFダウンロードPDFダウンロード
近年、高齢者の歯の保有数が増えている。認知症高齢者では歯牙、義歯、歯科用補綴物の誤飲が見られ生命的危険を伴う。嚥下障害の合併も多い。脱落を確認した42例とそのうちレントゲン上所在を確認した12例について、症例を供覧し老健における認知症高齢者の誤飲の特性と問題点、歯科的問題点、重篤な合併症、予防、治療などを検討した。多職種協同により口腔ケア、異常の早期発見、早期治療が重要である。
初めに 老人保健施設はまゆうは100床で超強化型老健である。入所者の平均年齢89.1歳、平均介護度3.1である。認知症高齢者の誤飲には薬剤、薬剤の包装、義歯、歯牙、歯科補綴物、洗剤、紙などがある。当施設で経験した歯牙、義歯、補綴物誤飲の症例を供覧し診断治療について考察を行った。
倫理的配慮;対象者の個人情報に配慮し家族の了承を得た。
当施設では平成30年12月から令和6年6月までに43件の口腔内の歯牙等の脱落を認め、レントゲン検査で所在を確認した症例は12例(28%)であった。12例中8例は病院受診し内視鏡的に摘出した。4例は経過観察し排便より便中で排出を確認した。口腔内からの脱落を認めたにもかかわらず、31例(72%)は所在不明であった。約90%に嚥下障害を認めた。
症例1;94歳 女 介護度4 認知症 長谷川式0点 ミキサー食 介護職員より口腔内確認の依頼あり。右下ブリッジ(約3cm)が欠落していた。レントゲン上 胃内に異物有り。病院受診し内視鏡的に摘出した。
症例2;90歳 男 介護度4 認知症 ミキサー粥 柔らか食 夕食後の口腔ケア時に歯科衛生士が歯牙の脱落を認めた。脱落時期不明であった。レントゲンにて腸内異物陰影を認めた。1-2週間間隔でレントゲン上経過観察したが、35日目時点でも同じ部位にとどまっていた。37日目に老衰で死去された。
症例3;100歳 女 認知症 パーキンソン病 長谷川式0点 発語なし ミキサー食 柔らか食、口腔ケア時にインレの脱落を認めた。レントゲンにて胃内に異物を認めた。病院受診したが胃内に食物残渣が多く内視鏡的摘出困難のため施設に戻られた。排出までに20日を要した。
症例4;94歳 男 介護度3 高度認知症 長谷川式0点 発語なし 糖尿病 慢性腎臓病 ミキサー粥 ミキサー食 上義歯2本が欠けているのを発見した。レントゲン上、食道に異物を認めた。病院受診し内視鏡下に摘出した。
症例5;82歳 男 介護度3 脳出血脳梗塞後遺症 仮性球麻痺 失語症 構音障害 認知症 長谷川式25点 性格の先鋭化あり 軟飯 あら刻み 汁にとろみ 動揺歯あり、歯科医師が脱落、誤嚥、誤飲の危険があるので抜歯を薦めたが頑固に拒否された。朝食時に歯の脱落が見つかった。レントゲン上、胃内に歯牙を認め病院受診し内視鏡下で摘出した。
考察;認知症高齢者の問題点;脱落の自覚がない。8020運動により高齢者が20本以上の歯を有する人が増加している。すなわち、歯が増えると脱落も増える。歯や補綴物の脱落による誤嚥、誤飲、窒息の危険が増し生命的危険を伴う。しかし、認知症のため脱落しても本人の自覚がないことが多く見過ごされることが多い。歯や補綴物の脱落は、看護介護の口腔ケア時に必ずしも発見できないことが多く見過ごされ、便中に排泄されている。食塊や唾液誤嚥同様に異物が咽頭や肺に脱落し窒息、誤嚥性肺炎を引き起こす可能性がある。
歯科的問題点;天然歯が動揺歯となり脱落する。歯科用セメントの劣化、齲蝕の進行などが補綴物の脱落に影響する。補綴物を装着した歯は虫歯の進行が気づきにくい。部分義歯のクラスプ、メタルコアのように鋭い縁を有するものは、さらに穿孔等の危険が大である。
重篤な合併症;窒息、誤嚥性肺炎、咽頭食道等の外傷や感染、消化管の損傷、腸穿孔、腸閉塞の危険があり外科的適応となる。
予防;歯や義歯の脱落、誤飲を予防することは困難である。動揺歯のように脱落を予測できても認知症や性格の先鋭化により頑固に拒否される。また、高度認知症のため口腔ケアが容易でない人もいる。当施設では、入所時に歯科衛生士が口腔内の評価、口腔内の写真を撮りカルテの保管している。入所時の口腔内の写真は口腔内の変化や義歯の変化時に欠落の発見に有用である。毎食後の口腔ケアに加えて、週2回以上の歯科衛生士による口腔ケアが行われ、老健の歯科医師、外部歯科医師の往診により口腔ケア指導、歯科治療が行われている。天然歯の動揺度を把握し動揺歯の事前の評価も行っている。利用者の口腔内の状況、義歯の状況を把握し多職種で状況を共有することにより早期発見に努めている。
治療;早期治療。隣接する診療所で迅速に頚部、胸部、腹部のレントゲン撮影し、異物の所在部位を特定することにより、治療方針が決まる。咽頭、喉頭での異物はマッキントッシュ喉頭鏡で開口しマギール鉗子を用いて摘出する。認知症患者では容易でない。気管、気管支では気管支鏡による摘出が必要となる。上部消化管では、絶食して点滴確保し速やかに病院へ搬送する。内視鏡下に摘出する。認知症患者では内視鏡検査治療に協力や理解できない人もあり、鎮静が必要になる。小腸、大腸では食物繊維の多い食事、水分摂取等で排便を促す。緩下剤を併用する。強い蠕動は逆に腸閉塞、腸穿孔の危険も伴うので強力な下剤は避ける。3-7日ごとにレントゲン透視で異物の部位を確認する。異物が移動していない場合、特に小腸では腹痛、嘔気、嘔吐などの症状の有無を観察する。重篤な場合には外科的な開腹手術も適応となる。最終的には排便で異物の排出を確認する。
結語;認知症高齢者の増加に伴い、歯や義歯、補綴物の誤飲、誤嚥の頻度が増しており、今後も多職種協同し連携して異常の早期発見、早期治療に努めていきたい。