講演情報
[15-O-O006-02]職員の危険予知意識の向上に向けて歩行器使用者の骨折事例を振り返って
*安達 智也1 (1. 大阪府 シルバーハウス高槻)
歩行器歩行の利用者の骨折事例を経験し、この事例のふり返りを行った。振り返りの方法としてアンケート調査を行った結果、情報共有が不十分であることがわかった。これは、職員の危険予知意識に課題があるのではないかと考え、危険予知の教育として、ヒヤリハット「ゼロレベル」の普及活動を実施した。これにより、「ゼロレベル」の提出件数が増加したので報告する。
1、はじめに
当施設は入所定員100名の施設である。入所者の要介護レベルにより、3つのフロアで介護サービスを提供している。当施設のヒヤリハット報告書の影響度分類は、「エラーはあったが、利用者には実施されなかった」をレベル「ゼロ」(以下、「ゼロレベル」とする)とし、「利用者への実害はなかった」をレベル1としている。
今回、介護レベルが一番低いフロアで入所者の転倒による骨折事例を経験した。事例を振り返る中で、本氏が日常生活の中で危険をはらんだ行動をとっていたことが明らかになった。これは、「ゼロレベル」の情報を職員間で共有し、対策を講じていれば防げたかもしれない事例であったと考え、危険予知の情報共有に取り組んだので報告する。
2、倫理的配慮
当施設倫理委員会の承認を得た。
3、事例紹介
A氏 87歳女性 要介護3 寝たきり度 A2 生活自立度 2b
幼少期より知的障害あり。転倒による腰椎圧迫骨折がもとで自宅での独居生活が困難となり当施設入所となった。入所時より食事は自己摂取可能。移動は歩行器を使用し見守りレベルであった。トイレにて排泄動作が可能であったため、居室はトイレに近い部屋を選択し、ベッドは4人部屋の奥としていた。令和5年5月9日朝食後居室で転倒。左大腿転子部骨折により緊急搬送となった。
4、当日の状況
朝食後にトイレで排泄後、歩行器を使用し自床へ。「手を洗うのを忘れた。」と居室の手洗い場へ歩行器を使用せず独歩で移動した際に転倒し、骨折した。
5、検討事項
本氏が転倒した日、当日出勤していた職員でカンファレンスを実施した。リスク委員としては、ベッドへの移乗も自己にてうまくされており転倒リスクが低いと考えていた。しかし、カンファレンスでは、転倒のリスクを意識していたと意見が見られたため、一度職員全員の意見を知ることを目的に、以下の内容でアンケートを実施した。
看護師、介護職員あわせて30名に対し、本氏に対して「転倒リスクがあると思っていましたか?」を「はい」、「いいえ」で、また、「はい」と答えた職員には、「何か対策を取っていましたか?」についても、自由記述で調査した。
6.結果
30名中23名が、転倒リスクがあると思っていたとの結果が出た。また、普段から歩行器を使用せず居室内を歩いていたり、靴のかかとを踏んだり、危険と思われる行為をとっていたことが明らかになった。しかし、ほとんどの職員は「またか」「いつもしているから大丈夫だろう」と問題視せずにすごしていたこともわかった。また、一部の職員は本氏がそのような行為行っていることを知らなかった。また、職員の中には本氏がたびたび居室内で歩行器を使用せずに居室内の手洗い場で手洗いをしているのを目撃していたという意見が、自由記述の結果から得られた。
このアンケート結果でわかったことは、多くの職員は転倒リスクがあると気づいていたが、危機感をもっていなかったということであった。
7、考察
危機感を持っていなかった理由のひとつとして考えられることは、当施設は車椅子の使用者が9割近くいる。その中には立位不安定だが車椅子より立ち上がり転倒しそうになる方も多い。その為、見守りや声掛けを常に行っている。本氏のように、歩行器歩行されている入所者は、歩行が安定しているので転倒しないだろうと危険予知の意識が甘くなりがちであった。また、「ゼロレベル」のヒヤリハット報告書は、ほとんど提出されていないこともあげられる。それらが、職員の危険予知の知識不足に繋がったのではないかと考えた。
そのため危険予知の教育として「ゼロレベル」について啓発を行い、リスク委員を中心に普及活動を実施することにした。「ゼロレベル」の報告をあげることで、職員のリスクセンスの向上が図られるのではないかと考えたためである。そして、「ゼロレベル」を集計、伝達し職員間で共有した。
加えて、歩行状態が安定している利用者でも、もし転倒すると骨折する可能性がある。そこで、歩行器・シルバーカーの使用者には、狭い居室内で安全に移動する方法をわかりやすく説明した。これらの結果、前年は「ゼロレベル」の提出がほとんど無かったが、月に数件の提出を認めるようになってきた。これは、教育と普及活動に効果があったのだと考えている。
8、まとめ
a 事例をふり返って、本氏が日常生活の中で危険をはらんだ行動をとっていたことの情報共有が不十分であることがわかった。
b 危険予知の情報共有ができるよう、ヒヤリハットゼロレベルの普及を実施した。
c ヒヤリハットゼロレベルの提出件数は増加してきたが、取り組みを継続していく必要がある。
当施設は入所定員100名の施設である。入所者の要介護レベルにより、3つのフロアで介護サービスを提供している。当施設のヒヤリハット報告書の影響度分類は、「エラーはあったが、利用者には実施されなかった」をレベル「ゼロ」(以下、「ゼロレベル」とする)とし、「利用者への実害はなかった」をレベル1としている。
今回、介護レベルが一番低いフロアで入所者の転倒による骨折事例を経験した。事例を振り返る中で、本氏が日常生活の中で危険をはらんだ行動をとっていたことが明らかになった。これは、「ゼロレベル」の情報を職員間で共有し、対策を講じていれば防げたかもしれない事例であったと考え、危険予知の情報共有に取り組んだので報告する。
2、倫理的配慮
当施設倫理委員会の承認を得た。
3、事例紹介
A氏 87歳女性 要介護3 寝たきり度 A2 生活自立度 2b
幼少期より知的障害あり。転倒による腰椎圧迫骨折がもとで自宅での独居生活が困難となり当施設入所となった。入所時より食事は自己摂取可能。移動は歩行器を使用し見守りレベルであった。トイレにて排泄動作が可能であったため、居室はトイレに近い部屋を選択し、ベッドは4人部屋の奥としていた。令和5年5月9日朝食後居室で転倒。左大腿転子部骨折により緊急搬送となった。
4、当日の状況
朝食後にトイレで排泄後、歩行器を使用し自床へ。「手を洗うのを忘れた。」と居室の手洗い場へ歩行器を使用せず独歩で移動した際に転倒し、骨折した。
5、検討事項
本氏が転倒した日、当日出勤していた職員でカンファレンスを実施した。リスク委員としては、ベッドへの移乗も自己にてうまくされており転倒リスクが低いと考えていた。しかし、カンファレンスでは、転倒のリスクを意識していたと意見が見られたため、一度職員全員の意見を知ることを目的に、以下の内容でアンケートを実施した。
看護師、介護職員あわせて30名に対し、本氏に対して「転倒リスクがあると思っていましたか?」を「はい」、「いいえ」で、また、「はい」と答えた職員には、「何か対策を取っていましたか?」についても、自由記述で調査した。
6.結果
30名中23名が、転倒リスクがあると思っていたとの結果が出た。また、普段から歩行器を使用せず居室内を歩いていたり、靴のかかとを踏んだり、危険と思われる行為をとっていたことが明らかになった。しかし、ほとんどの職員は「またか」「いつもしているから大丈夫だろう」と問題視せずにすごしていたこともわかった。また、一部の職員は本氏がそのような行為行っていることを知らなかった。また、職員の中には本氏がたびたび居室内で歩行器を使用せずに居室内の手洗い場で手洗いをしているのを目撃していたという意見が、自由記述の結果から得られた。
このアンケート結果でわかったことは、多くの職員は転倒リスクがあると気づいていたが、危機感をもっていなかったということであった。
7、考察
危機感を持っていなかった理由のひとつとして考えられることは、当施設は車椅子の使用者が9割近くいる。その中には立位不安定だが車椅子より立ち上がり転倒しそうになる方も多い。その為、見守りや声掛けを常に行っている。本氏のように、歩行器歩行されている入所者は、歩行が安定しているので転倒しないだろうと危険予知の意識が甘くなりがちであった。また、「ゼロレベル」のヒヤリハット報告書は、ほとんど提出されていないこともあげられる。それらが、職員の危険予知の知識不足に繋がったのではないかと考えた。
そのため危険予知の教育として「ゼロレベル」について啓発を行い、リスク委員を中心に普及活動を実施することにした。「ゼロレベル」の報告をあげることで、職員のリスクセンスの向上が図られるのではないかと考えたためである。そして、「ゼロレベル」を集計、伝達し職員間で共有した。
加えて、歩行状態が安定している利用者でも、もし転倒すると骨折する可能性がある。そこで、歩行器・シルバーカーの使用者には、狭い居室内で安全に移動する方法をわかりやすく説明した。これらの結果、前年は「ゼロレベル」の提出がほとんど無かったが、月に数件の提出を認めるようになってきた。これは、教育と普及活動に効果があったのだと考えている。
8、まとめ
a 事例をふり返って、本氏が日常生活の中で危険をはらんだ行動をとっていたことの情報共有が不十分であることがわかった。
b 危険予知の情報共有ができるよう、ヒヤリハットゼロレベルの普及を実施した。
c ヒヤリハットゼロレベルの提出件数は増加してきたが、取り組みを継続していく必要がある。