講演情報

[15-O-O006-03]ヒヤリハットの原因分析から転倒事故を防ぐ

*若山 麻理1、川澄 保子1、高品 恵美1 (1. 千葉県 医療法人徳洲会介護老人保健施設はさま徳洲苑)
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ヒヤリハット発生時にアセスメントが十分に行えず、そこから事故に発展するケースがあった。そこでアセスメントスケールを作成・使用し、ヒヤリハットの時点で転倒/転落のリスクが高い利用者を選別、原因を分析し防止策を考案・実行し、転倒/転落事故の減少を目指した。アセスメントの結果、排泄要因のヒヤリが多く、適切な対応を行う事でヒヤリ/事故共に減少する事ができた。
【はじめに】
昨年の老健大会でアセスメントスケールを使用したヒヤリハット対策についての発表を拝聴した。当苑全体では転倒/転落事故が月に約15件、ヒヤリハットが月に約40件起きており、事故が起きた際、対応したスタッフでミニカンファレンスを実施し、事故防止策を考案する。
しかし、ヒヤリハットに関しては『転倒のリスクがある利用者の周知』に留まり、アセスメントが十分に行えず、そこから事故に発展するケースがあった。そこで、アセスメントスケールを使用しヒヤリハット報告の中で転倒/転落のリスクが高いケースを選別、原因を分析し防止策を考案・実行する事で転倒/転落事故を減少できるのではないかと考え、取り組みを行った。

【目的】
「転倒/転落に関するヒヤリハットに対して危険度の高い利用者を選別するスケール」を使用して危険度の高いヒヤリハットケースを選定、原因分析シートを用いてスタッフ全体で原因の分析を行い対応策の考案・実行し、ヒヤリハットと事故の件数減少を目指す。

【研究方法】
1.期間:2024年5月~7月
2.対象:上記期間に該当フロア入所中にヒヤリハットと事故報告が上がった利用者
3.使用ツール:文献(1)に記載されている『事故の発生頻度と損害の大きさの相関関係』と『ケース検討分析シート』を独自にアレンジし作成した「転倒/転落に関するヒヤリハットに対して危険度の高い利用者を選別するスケール」(以下:スケール) と「ヒヤリハット原因分析シート」(以下:シート)を使用した。スケールは危険度が高く、頻度が多い順にA,B,C,Dとした。
4.方法 
1)該当フロアで起きた前月のヒヤリハット報告書の中からスケールを用いて選別し、特に転倒リスクが高いAとBに該当する利用者を対象ケースとする。
2)対象ケースに関するシートを該当フロアの介護スタッフ全員に回覧、各自ヒヤリハットの原因/分析/対策の記載をする。
3)シートに記載された内容を元にフロア会議でヒヤリハットの原因分析・対策を話し合いその日から3週間対策を実施、実施後評価を行う。
4)フロア会議前後で選定したケースのヒヤリハット、事故報告の件数を比較した。
 
【倫理的配慮】
施設内の倫理規定に従い承認を得て、個人が特定できないよう配慮した。

【結果】
1: 実施期間 5/1~7/15
5/1~5/31、6/1~6/23に該当者の選出、シートを使用してヒヤリハットの原因分析・対策を考案。6/24~7/15に対策を実施。
※5/1~6/23間はコロナウイルス感染によるクラスター対応の為、対策実施日にずれが生じた。
2:スケールA,B該当者:Z様、Y様、X様
3:経過
(1)Z様(スケールA):5/1~5/31にヒヤリ4件/事故0件、6/1~6/23にヒヤリ3件/事故1件
(2)Y様(スケールB):6/1~6/23にヒヤリ2件/事故3件、6/24~7/15にヒヤリ1件/事故0件
(3)X様(スケールA):6/1~6/23にヒヤリ4件/事故0件、6/24~7/15にヒヤリ0件/事故0件
※Z様に関しては原因分析/対策の考案まで行ったが、入院退所された為実施できず。
【考察】
今回、対策実施後の転倒に関するヒヤリハット/事故件数は減少を認めた。この結果となった要因として、以下の2点が挙げられる。
(1)Y様: 認知症を有し起立に軽介助。ベッドから車椅子へナースコールを押さずに移乗する事が頻回にあり、ベッドからの滑落事故も数件あった。原因分析を行うと、便意を感じた際に移乗する傾向が分かった。対策案として薬の調整を行い、実施後排便回数が減少しヒヤリ/事故件数が減少した。
(2)Z様:認知症を有し起居~起立に全介助。ベッドから足を出して滑落しかける事が頻回にあった。原因分析を行うと、オムツ内に排便後、他動になる傾向が分かった。対策としてセンサー反応時に訪室した際、オムツ交換を行う事でヒヤリの回数が減少した。
今回、原因分析を行った所、排泄面が関与したヒヤリハットが多かった。便意/排便による不快感を自身で処理しようと実行に移されたが、両者共に認知症に起因する注意力、判断力の低下と身体機能の低下が重なり、ヒヤリや事故に繋がったと考える。平松は『転倒の原因ついて、排泄に関連した動作時に発生する事が多いと報告されている。』1)とし、征矢野は『認知症高齢者の主な転倒要因は脳の病変による状況の理解や適切な判断が難しい事』2)としている。これらの事から認知症を有する方の排泄関連動作は転倒のリスクがあると言える。
今回の取り組みにおいて、介護・リハビリが協働して利用者のヒヤリハットのアセスメントを行い、対策の実施を検討する等、他職種との意見交換の大切さを改めて実感した。鈴木らは『高齢者施設における包括的な転倒予防では転倒リスクマネジメントを中心とした他職種による多因子介入が有効である』3)と述べており、今後もこの取り組みが継続できるよう働きかけ、当苑に入所された利用者が安心して過ごす事ができるようにしていきたい。
 
【謝辞】
今回の発表を行うにあたり、お忙しい中ご協力をいただいた舟形徳洲苑の佐藤様、NPO法人コトラボの軍司大輔先生に感謝申し上げます。

【参考文献】
(1)事例に学ぶ介護リスクマネジメント 事故・トラブル・クレーム対応60のポイント 山田滋
(2)ポイントがひと目でわかってどこでもできる 転倒・転落防止実践メゾット 荻野浩、鈴木みずえ、山田実
【引用文献】
1)施設高齢者の転倒予防‐排泄に関連した転倒者の排泄状況および転倒の実態‐ 平松知子、泉キヨ子、正源寺美穂
2)認知症のある高齢者の転倒予防 征矢野あや子
3)認知症高齢者の転倒予防におけるエビデンスに基づくケア介入 鈴木みずえ 金森雅夫