講演情報
[15-O-O006-04]当施設における転倒・転落事故防止の取り組み
*近藤 周作1 (1. 三重県 津老人保健施設アルカディア)
施設における転倒・転落事故(以下、事故)は利用者を危険にするもので、工夫により改善されるものと考える。当施設ではいろいろな場面で事故が生じていたが2021年5月以前、事故防止の取り組みは個々の職員の対応に依存しており事故防止策などの改善策に一定の対応をしていなかった。この状況を改善するため電子カルテを導入し、施設全体の事故の統計を取るようにし、内容の精査を開始した。その結果を報告する。
はじめに施設における転倒・転落事故(以下、事故)は利用者を危険にするもので、工夫により改善されるものと考える。当施設ではいろいろな場面で事故が生じていたが2021年5月以前、事故防止の取り組みは個々の職員の対応に依存しており事故防止策などの改善策に一定の対応をしていなかった。また、事故に対する振り返りも不十分であり、同じような事故が繰り返し生じていた。この状況を改善するため電子カルテを導入し、施設全体の事故の統計を取るようにし、内容の精査を開始した。その結果を報告する。対象当施設の利用者全員と職員全員。方法事故の把握はそれぞれの職員から報告してもらう形をとっていた。報告方法としては、統計を取る前から当施設では紙媒体のヒヤリハットレポートを使用していた。ヒヤリハットレポートの内容は簡素でほぼ自由記載の仕様になっていた。情報の共有は、それぞれの職員が作成したヒヤリハットレポートを、各自で確認する方法であった。そのため、出勤などの都合から即時の情報共有や共通認識の構築に難しい側面があった。また、紙媒体であったのでまとめる場合に時間と手間がとられた。その後、当施設に電子カルテが導入され、その電子カルテの中にAccidentandIncidentレポート(以下、AIレポート)という電子媒体の事故報告書があった。AIレポートは決まったカテゴリーを選択する使用方法が多く、記入しやすい使用になっていた。それを活用し統計を行った。統計を取り出したのは2021年5月からである。またAIレポートの内容から事故内容の分析を行った。結果 電子媒体のAIレポートで事故内容や概要を把握できるようになった。電子カルテであるため確認する時間が紙媒体での時に比べ短縮されたのと、確認の時間帯がある程度自由になったので各自確認しやすくなった。また、カテゴリーを選択する方法は自由記載に比べ、一定の記入がしやすく記入時間の短縮や使用のしやすさにつながった。記載内容もカテゴリーが一定に決まったことで自由記載より傾向や内容を把握しやすくなった。記載された内容から施設内での事故の傾向を場所や時間、利用者の身体能力や施設の物品の使い方などで分析した。その結果、当施設では一定の事故の傾向があった。事故の傾向の一つ目としては、転倒や転落を繰り返している利用者は一定の身体能力の利用者が多かった。障害高齢者の日常生活自立度のランクBに該当していて、軽度から中等度の介助量で移乗動作を行っている利用者であった。また、認知症高齢者の日常生活自立度のランク2に該当していて、コミュニケーションや会話理解にある程度の介助が必要な利用者であった。事故の傾向の二つ目として転倒や転落を繰り返している利用者は職員が見ていない死角で事故を繰り返していることが多かった。ナースステーションから遠い廊下、トイレ内、カーテンを閉めたベッド周囲などが死角となっていた。事故の傾向の三つ目として職員の目の届きにくい時間帯に転倒や転落を繰り返していることが多かった。夜勤帯で職員の人数が少ない時間、入浴介助を職員が行っており職員の人数が手薄になったフロアの時間などに事故が多かった。事故の傾向の四つ目としては施設の物品の使い方が各職員でばらつきがあったとこであった。利用者に低床ベッドを導入するタイミングが一定でない、低床ベッドの高さが違う、L字柵の使用方法が違う、センサーマットの使用時間が一定でない、利用者臥床時の車椅子や歩行補助具の設置場所が違うなどであった。考察 電子カルテのAIレポートは紙媒体のヒヤリハットレポートに比べ記入がしやすくなった。ヒヤリハットレポートの自由記載では職員個人の考えを記入していたため記入内容が一定ではなかった。AIレポートではカテゴリーを選択する形式であったため、ある程度統一された記載内容になった。そのため内容の分析がしやすくなった。記入する業務も統一化され効率化が図られた。また、事故の傾向の内容も分析しやすくなった。事故の傾向の一つ目として利用者の身体能力に転倒の傾向があった。この傾向は移乗能力にある程度の介助量が必要で、会話の理解度にも介助が必要な利用者である。自身の身体能力や認知能力以上の動作を介助に頼らず一人で行おうとして事故をしていた。事故の傾向の二つ目としては職員の目の届きにくい場所での事故が多かった。これは職員の居ない場所で移乗しようとして転倒していた。事故の傾向の三つ目としては職員が手薄な時間帯に事故が生じていた。これも職員の居ない時間で移乗しようとして事故していた。二つ目と三つ目の傾向から職員の介助が重要であると思われる。事故の傾向の四つ目としては職員間で物品の使用方法のばらつきであった。これは職員間の情報共有不足であった。これらの傾向より事故はいずれも職員の介助が行いにくい場所・状況で生じていたと考える。またそれを統一して改善することを行っていなかったことが事故が多発する原因であった。AIレポートの分析によって明らかになった事故の傾向から職員に対する勉強会や環境設定を中心とした改善を行った。これにより事故は減少した。まとめ2021年5月以降、統計を取り始め事故の分析を行ってきた。事故に対しはある程度統一的な対応をするようになった。しかし、事故は無くなっていない。同じ利用者が同じような事故を起こすことは減ったので、このまま事故の分析を行い対応していきたい。また、職員に統一的な対応をしてほしい観点から勉強会を開始した。勉強会を始めたのは2022年1月からである。統一的な対応を行いながらこれからも事故防止に努めていきたい。