講演情報

[15-O-O006-05]転倒リスクアセスメントシート活用への取り組みアンケートから見えてきたもの

*高嶋 寛1、森田 千恵1 (1. 三重県 介護老人保健施設パークヒルズ高塚)
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当施設での転倒リスクアセスメントシートの実用化と介護職員が転倒リスクについて入所者様・ご家族様へ説明できる体制構築のため、アセスメントシートの活用状況についてアンケートによる実態調査を行った。結果、大半の職員が活用出来ていないという問題が浮き彫りとなり、当施設においては今後、アセスメントシートの周知と活用方法のマニュアル化の検討が課題と考えられた。
【はじめに】
昨年参加した全国老人保健施設大会仙台のシンポジウムにて、転倒に対するリスクは常にあるものとし入所時に入所者様・ご家族様へ説明し同意を得ておくことが重要であると拝聴した。
入所施設においては、身体拘束は極力行わない方針となっている。転倒予防対策を講じたとしても転倒事例を完全に無くすことは困難であり、入所施設で働く介護職員にとって入所者様の転倒リスクへの対応は大きな課題の一つであると日々実感している。そのため当施設での対応の在り方を検討するための橋掛けとして実態調査に取り組んだ。

【背景】
昨年のシンポジウム参加後、日々の業務で「自分が介護職として転倒リスクについて適切なアセスメントが実施できているのか」という疑問を抱いた。
当施設には入所面談時に行うアセスメントの一部に転倒の項目があり、施設看護師が「転倒アセスメントシート(以下「アセスメントシート」とする)」を使用しご家族様等から情報収集を行っている。
しかし私が所属するユニットの介護職員間ではそれを上手く活用できていないのが現状である。施設入所後はリハビリテーション効果や環境の変化に伴い、新たな転倒リスク項目が生じる。
また入所者様・ご家族様等へ入所者様の状況の報告を行う機会が度々あることからも、入所前の入所者様の情報を把握しておくことは重要であると考える。
そこでアセスメントシートを有効的な活用を目標に、まずは当施設内におけるアセスメントシートの活用状況の実態調査を行った。

【目的】
今回の取り組みの大きな目的は、アセスメントシートの実用化と当施設のすべての介護職員が転倒リスクについて入所者様・ご家族様へ説明することができる体制の構築である。
上記目的達成のため、今回は当施設内でのアセスメントシートの活用状況の実態把握を目的に調査を実施した。

【内容】
他の介護職員の考えを知る必要があると考え入所部門の全介護職員へ向けてアンケートを実施した。以下がそのアンケート内容である。

題名「転倒アセスメントシートについての理解度調査」

初めに職種、介護経験年数、当施設の在籍年数を把握しそれぞれの設問に回答を求めた。

1.入所時に本人及び家族へ転倒リスクの説明を行っているのを知っていますか。
2.当施設で使用している転倒リスクのアセスメントシートを見たことがありますか。
2-1,それを活用したことがありますか。
2-2,アセスメントシートの結果に応じて、個別的な対応を実施していますか。
3.設問2でいいえと答えた方、その理由をお書きください。(例:存在を知らなかった等々)
4.利用者の転倒リスクについて家族へ説明できますか。
5.設問4でいいえと答えた方、その理由で一番近いものを次の選択肢から選んでください。
 ・転倒リスクについてあまり理解できていない。
 ・理解はしているがどう説明したらいいかわからない。
 ・ユニット内で転倒リスクについての方向性が明確ではない。
最後に感想を記入する欄を設け、施設内の全ユニット、全対象者へと配布した。

【結果】
対象者60名、回答者59名。
職種「介護士」44名、「介護職」14名、未回答1名。
介護経験年数、「5年未満」5名、「5年以上10年未満」19名、「10年以上」35名。
当施設の在籍年数、「3年未満」10名、「3年以上7年未満」14名、「7年以上10年未満」8名、「10年以上」26名、未回答1名。
設問1に対して「はい」59名、「いいえ」0名。
設問2に対して「はい」37名、「いいえ」22名。
設問2-1に対して「はい」21名、「いいえ」34名、未回答4名。
設問2-2に対して「はい」30名、「いいえ」24名、未回答5名。
設問3では「存在を知らない」15名、「実際に観察をして対応している」2名といった理由があがった。
設問4に対して「はい」48名、「いいえ」9名、未回答2名。
設問5に対して、「転倒リスクについてあまり理解できていない」0名、「理解はしているがどう説明したらいいのかわからない」6名、「ユニット内で転倒リスクについての方向性について明確ではない」1名、未回答2名。
最後の感想の欄には「今まで存在を知らなかった。看護師に教えてもらったのでユニット職員全員で目を通したいと思う。」「転倒から骨折等による重大事故につながりご家族様とトラブルになる事例がある。入所前のご家族様への転倒についての事前説明をしっかり行い理解を得ることが大事だと思う。」「入所より時間が経つと、ご家族様も転倒リスクについて忘れてクレームの一つになる。面会時最近の様子と共に再度伝えカルテに記事を残す必要あり。」といった内容があった。

【まとめ】
アンケート結果よりアセスメントシートを見たことはある職員は半数以上を占めていたが、半数以上が活用までに至っていない一方で、転倒リスクを家族へ説明できると答えた職員は約8割であった。
以上のことから施設全体としてアセスメントシートを正しく活用できていないという問題が浮き彫りとなった。
ほとんどの職員が日々の介護過程の繰り返しの結果をもとに、入所者様の転倒リスクについて理解はできているが、現在の身体状況のみ、つまり目で見た情報のみを参考にしているため、転倒リスクを説明する際のエビデンスとしては弱い部分があると考える。
アセスメントシートを用いて入所者様の情報を数値的に読み取り、入所前と入所後の比較を行うことで、職員の転倒リスクへの理解がより深まり、精度の高いアセスメントと転倒予防対策の実施、説明能力の向上が見込めるだろう。
そのためにはアセスメントシートの実用化と当施設のすべての介護職員が転倒リスクについて入所者様・ご家族様へ説明することができる体制の構築が必要であると考えるが、まずは当施設においてのアセスメントシートの周知と活用方法のマニュアル化の検討が今後の課題であると考える。