講演情報
[15-O-J004-01]老健入所者における低栄養を減らすための取り組みエネルギー量アップによる改善効果の検討
*飯塚 恵理1、久保 真理1、飯野 登志子2、小此木 直人2、井上 宏貴2、田中 志子2 (1. 群馬県 介護老人保健施設大誠苑、2. 医療法人大誠会 内田病院、3. (株)H&Mサービス)
介護老人保健施設認知症専門棟の入所者において体重が増加しない要因として、活動量が高く、従来のエネルギー提供量では不足しているのではないかと考えた。そこで入所者29名に対し、エネルギー提供量アップの取り組みを3か月間行った。その結果、体重および喫食率は有意な変化を示さなかったが、低栄養リスクが中程度の者の割合が減少し、リスクが低い者の割合が増加した。また食単価は1名1食あたり5.8円の値上がりが見られた。
【目的】
介護老人保健施設大誠苑(以下、当苑)は病院に併設した施設であり、認知症や摂食嚥下障害を有する方も多く入所している。管理栄養士は入所者の低栄養を防ぐ為に、ミールラウンドにおいて喫食率や残菜量の確認を行い、食べにくい食材を見つけ出し、少しでも食べやすい献立調理に変更が常に出来るようにしている。また調理師会議を定期的に開催することで、調理師、管理栄養士、栄養士が常に意見交換ができるようにしている。
栄養状態を改善するための新規取り組みとして、テクスチャーアナライザーの導入により食品のかたさ・凝集性等の計測を行っており、前年度大会にて報告を行った。飲み込みやすさを数値化し、マニュアル化することで、基準を満たした安全な食品の提供が可能となり、喫食量の向上につながったといえる。
一方で、定期開催の栄養ケアマネジメント委員会(管理栄養士の他に言語聴覚士、看護師、歯科衛生士、理学療法士、ケアマネジャーが参加)での議論において、当苑認知症専門棟入所者のうち、喫食率が低くないにも関わらずBMIが基準値以下の方が多いことが課題として挙げられた。体重が増加しない要因について協議した結果、高齢であっても活動量の高い入所者が多く、基礎代謝量や病態、活動係数に基づく従来の提供エネルギー量では、低栄養となっている可能性が考えられた。そこで今回、当苑認知症専門棟の入所者を対象に、エネルギー提供量アップの取り組みを行い、体重や喫食量、低栄養リスク者の割合に変化があるかを検討することとした。
【方法】
令和6年2月より、食事時のエネルギー提供量のベースアップを行い、活動量に応じて1人当たり平均200kcal程度の増量を行った。
当苑認知症専門棟入所者のうち、朝・昼・夕の3食提供を行っており、令和6年2月~5月の期間で体重測定が可能であった者29名を対象とした。
調査項目は、基本情報として年齢・性別・認知症高齢者の日常生活自立度、障害高齢者日常生活自立度、入所時の身長・体重・血中アルブミン濃度を介護記録システムより調査した。また2月・5月における体重の計測値および喫食率、栄養スクリーニングによる低栄養リスク(リスク低・中・高)を管理栄養士が評価した。
対象者の体重・喫食率が、2月と5月で有意差を示すかを、独立サンプルのt検定を用いて検討した。また2月・5月それぞれの低栄養リスク者の割合を算出し、数値を比較した。
食材提供費の変化を把握するため、令和6年2月・5月の入所者1名1食あたりの食単価(食材費合計÷入所者数÷3食)を調査した。
【結果】
対象者の体重および喫食率は、2月と5月の前後比較で有意差を示さず、体重はやや減少傾向(47.4kg±7.8kg→46.7±7.4kg)、喫食率は横ばい(93.6±12.7%→93.8±11.4%)であった。一方で低栄養リスク者の割合の2月と5月の比較では、リスク高:6名(20.7%)→6名(20.7%)で変化なし、リスク中:13名(44.8%)→8名(27.6%)で減少傾向、リスク低:10名(34.5%)→15名(51.7%)で増加傾向であった。
食単価については、令和6年2月が1名1食あたり303.4円、5月が309.2円と5.8円の値上がりが見られた。
【結語】
喫食率の前後比較では、ほぼ横ばいで有意な変化を示さなかったことから、エネルギー提供量を増やしても残菜量の増加にはつながらず、認知症専門棟の入所者においてもエネルギー摂取量の増加が図れたと考えられる。一方で体重の前後比較でも有意な変化を示さなかったため、エネルギー提供量を増やしても即時的な体重増加にはつながらなかった。この要因として、高齢者では加齢による消化器官の衰えから吸収能が低下しているため、老健入所中の3か月間での体重変化を示すことは難しかったと考えられる。
しかし血清アルブミン値や食事摂取量から判断される低栄養リスクは、2月と比較して5月ではリスク中の者の割合が減少し、リスク低の者の割合が増加する結果となった。このことから、エネルギー提供量のベースアップにより、低栄養のリスクを軽減できる可能性が示唆された。
食単価は1名1食あたり5.8円の値上がりであったが、3食分・全入所者に換算すると決して安価でない金額となるため、今後も継続してエネルギー提供量アップによる栄養改善効果を検討していきたい。
介護老人保健施設大誠苑(以下、当苑)は病院に併設した施設であり、認知症や摂食嚥下障害を有する方も多く入所している。管理栄養士は入所者の低栄養を防ぐ為に、ミールラウンドにおいて喫食率や残菜量の確認を行い、食べにくい食材を見つけ出し、少しでも食べやすい献立調理に変更が常に出来るようにしている。また調理師会議を定期的に開催することで、調理師、管理栄養士、栄養士が常に意見交換ができるようにしている。
栄養状態を改善するための新規取り組みとして、テクスチャーアナライザーの導入により食品のかたさ・凝集性等の計測を行っており、前年度大会にて報告を行った。飲み込みやすさを数値化し、マニュアル化することで、基準を満たした安全な食品の提供が可能となり、喫食量の向上につながったといえる。
一方で、定期開催の栄養ケアマネジメント委員会(管理栄養士の他に言語聴覚士、看護師、歯科衛生士、理学療法士、ケアマネジャーが参加)での議論において、当苑認知症専門棟入所者のうち、喫食率が低くないにも関わらずBMIが基準値以下の方が多いことが課題として挙げられた。体重が増加しない要因について協議した結果、高齢であっても活動量の高い入所者が多く、基礎代謝量や病態、活動係数に基づく従来の提供エネルギー量では、低栄養となっている可能性が考えられた。そこで今回、当苑認知症専門棟の入所者を対象に、エネルギー提供量アップの取り組みを行い、体重や喫食量、低栄養リスク者の割合に変化があるかを検討することとした。
【方法】
令和6年2月より、食事時のエネルギー提供量のベースアップを行い、活動量に応じて1人当たり平均200kcal程度の増量を行った。
当苑認知症専門棟入所者のうち、朝・昼・夕の3食提供を行っており、令和6年2月~5月の期間で体重測定が可能であった者29名を対象とした。
調査項目は、基本情報として年齢・性別・認知症高齢者の日常生活自立度、障害高齢者日常生活自立度、入所時の身長・体重・血中アルブミン濃度を介護記録システムより調査した。また2月・5月における体重の計測値および喫食率、栄養スクリーニングによる低栄養リスク(リスク低・中・高)を管理栄養士が評価した。
対象者の体重・喫食率が、2月と5月で有意差を示すかを、独立サンプルのt検定を用いて検討した。また2月・5月それぞれの低栄養リスク者の割合を算出し、数値を比較した。
食材提供費の変化を把握するため、令和6年2月・5月の入所者1名1食あたりの食単価(食材費合計÷入所者数÷3食)を調査した。
【結果】
対象者の体重および喫食率は、2月と5月の前後比較で有意差を示さず、体重はやや減少傾向(47.4kg±7.8kg→46.7±7.4kg)、喫食率は横ばい(93.6±12.7%→93.8±11.4%)であった。一方で低栄養リスク者の割合の2月と5月の比較では、リスク高:6名(20.7%)→6名(20.7%)で変化なし、リスク中:13名(44.8%)→8名(27.6%)で減少傾向、リスク低:10名(34.5%)→15名(51.7%)で増加傾向であった。
食単価については、令和6年2月が1名1食あたり303.4円、5月が309.2円と5.8円の値上がりが見られた。
【結語】
喫食率の前後比較では、ほぼ横ばいで有意な変化を示さなかったことから、エネルギー提供量を増やしても残菜量の増加にはつながらず、認知症専門棟の入所者においてもエネルギー摂取量の増加が図れたと考えられる。一方で体重の前後比較でも有意な変化を示さなかったため、エネルギー提供量を増やしても即時的な体重増加にはつながらなかった。この要因として、高齢者では加齢による消化器官の衰えから吸収能が低下しているため、老健入所中の3か月間での体重変化を示すことは難しかったと考えられる。
しかし血清アルブミン値や食事摂取量から判断される低栄養リスクは、2月と比較して5月ではリスク中の者の割合が減少し、リスク低の者の割合が増加する結果となった。このことから、エネルギー提供量のベースアップにより、低栄養のリスクを軽減できる可能性が示唆された。
食単価は1名1食あたり5.8円の値上がりであったが、3食分・全入所者に換算すると決して安価でない金額となるため、今後も継続してエネルギー提供量アップによる栄養改善効果を検討していきたい。