講演情報
[15-O-J004-03]摂食嚥下機能障害に対しての関わり方
*萱場 悦子1、及川 圭子1、小林 智子1、佐藤 明子1、菅野 佳子1、松原 優人1 (1. 岩手県 介護老人保健施設アルテンハイム青山)
約1年間の摂食嚥下機能障害に関しての取り組みを振り返り、STの立場から現在の課題と今後の展望について報告する。入所期間中、長期になると嚥下機能の低下が認められる。特に入所時摂食嚥下機能障害を認めず経過を辿ってきたケースは徐々に摂食嚥下機能が低下しても見逃されてしまう場合がある。摂食嚥下機能が低下する時期を見落とさず、その状況に応じた適切な対応が必要だと考える。
【はじめに】
介護老人保健施設アルテンハイム青山は、岩手県盛岡市に位置する、在宅復帰に力をいれている、98床の超強化型施設である。令和4年9月12日より当施設に言語聴覚士(以下ST)が常勤として配置され約1年が経過した。ST対象者の中で摂食嚥下障害を呈する利用者は上位を占め、多職種でのアプローチは重要だと感じながらも難しい現状にあることを感じている。今回は当施設での摂食嚥下障害に対してのSTの取り組みと今後の展望について考察する。
【ST対象者の割合】(R4.9.22~R6.1.20)
○平均年齢:76.4歳(男性:72.9歳、女性:79.9歳)
○障害別:摂食嚥下機能障害(35%)、構音障害(28%)、認知症(19%)、失語症(15%)、高次脳機能障害(3%)
○摂食嚥下機能障害を呈する疾患割合:脳血管疾患(69%)、認知症(19%)、パーキンソン病(3%)、誤嚥性肺炎(3%)、その他(6%)
【MASA日本語版嚥下障害アセスメント(摂食嚥下機能のスクリーニング検査)の分析】
当施設では、入所時に入所者全員を対象にMASA日本語版嚥下障害アセスメントにて、摂食嚥下機能のスクリーニング検査を行っている。この検査は24のチェック項目を点数化し、合計点から「重症」「中等症」「軽症」「異常なし」を判定できる。これらの検査を含めたスクリーニング検査で問題がある場合はSTリハ開始となり、その場合は定期的に再評価を行っている。
MASA日本語版嚥下障害アセスメントの分析結果として、本来は経口摂取が困難であると判断されるレベルの利用者が重度の誤嚥リスクを伴いながら経口摂取を継続している。入所期間中に摂食嚥下機能を維持できずに低下する割合が多い。
【事例紹介】
(1)A様 100歳代 女性 脳梗塞後遺症(左上下肢麻痺)
初回評価時のSTの介入はなかったが、胃腸炎後の再入所時~ST介入する。食事摂取量は徐々に低下。「鰻が食べたい」と希望し、鰻摂取。「美味しかった」と鰻ミキサー粥全量摂取される。その後も家族が柿や鰻、洋梨を持参し、摂取される。嘔吐(+)、嘔気(+)看取り開始となり、看取り開始後5日後に逝去される。
(2)B様 90歳代 女性 アルツハイマー型認知症
初回評価時は嚥下機能の問題はみられなかったためSTは介入していなかった。施設内でコロナウイルス感染症、クラスター発生。コロナウイルス感染症罹患。感染性胃腸炎、クラスター発生により居室対応となる。この時期に介護担当者より「だんだん食べれなくなっている」との情報得る。食事評価行い食形態の変更をする。食事摂取量は徐々に低下し、口腔内へ溜め込み、嚥下困難となる。看取り開始となり、看取り開始後9日後に逝去される。
【考察】
(1)事例について
事例(1)ではSTが介入していたこともあり、予め本人の能力を把握していた。また、多職種が相互に関わることができため経口摂取ができる最後のチャンスを見逃さず、本人が望むものを摂取することができた。嚥下機能が低下するタイミングで適切な介入ができた事例であった。事例(2)では入所時の評価にて嚥下の問題がなかったためSTは介入していなかった。感染症対策により居室対応となり、目が行き届かなかったことも背景としてあるが総合的な評価が遅れ、看取り開始時には既に食物への認知が難しく開口すらできない状況であった。嚥下機能が低下するタイミングを見逃し、適切な介入ができなかった事例であった。
(2)多職種との関わり方について
現在、摂食嚥下機能の低下により、食事に問題が生じている利用者がいる場合、担当の介護士や看護師、歯科衛生士、管理栄養士、STが個々に現状報告や解決策の提案をしている。それぞれの職種がそれぞれの視点で問題は捉えられていると思うが、それを取りまとめ同じ目標で介入するまでには至っていない。個々のやりとりだとタイムリーな情報を担当者全員で共有できず、課題に対してその場で解決できないことが多い。また、食事評価においてはST一人で評価しフィードバックするには限界があり、現状や問題を抽出しきれないこともある。その結果、適切な時期に適切な介入ができず、対応が遅れてしまうケースがある。
(3)今後の展望について
摂食嚥下機能障害に携わるにあたり、食形態やポジショニング、より安全に効率よく食べるための食事介助技術なども多職種と共有していきたい。その実現にあたり、ミールラウンドの再開や摂食嚥下機能障害に関する勉強会などを開催し、多職種一丸となって食に対する支援をしていきたいと考える。摂食嚥下に関する委員会を発足できれば今まで以上にタイムリーな情報共有ができ、対象者に見合った支援ができるのではないかと考える。
【まとめ】
2024年の介護報酬改定において、リハビリ、栄養、口腔の取組は一体となって運用されることで、より効果的な自立支援・重度化予防につながることが期待されるとして推進されている。当施設においてもこの取組を目指すにあたり、摂食嚥下機能障害に関して、現在の取り組みについて振り返りを行った。
入所期間中、特に長期になると嚥下機能が低下していく。入所者の高齢化や認知機能の低下により自力摂取が困難となったケース、加齢や疾患に伴う嚥下機能障害により誤嚥性肺炎のリスクが高い状況下での食事介助は少なくないのが現状である。特に入所時摂食嚥下機能障害を認めず経過を辿ってきたケースは徐々に摂食嚥下機能が低下しても見逃されてしまう場合がある。摂食嚥下機能が低下する時期を見落とさず、その状況に応じた適切な対応が必要だと考える。今すぐ取り組めることとして、まずは、日常的にディスカッションすることから始めていき、摂食嚥下に関わる取り組みを段階的に進めていきたい。
介護老人保健施設アルテンハイム青山は、岩手県盛岡市に位置する、在宅復帰に力をいれている、98床の超強化型施設である。令和4年9月12日より当施設に言語聴覚士(以下ST)が常勤として配置され約1年が経過した。ST対象者の中で摂食嚥下障害を呈する利用者は上位を占め、多職種でのアプローチは重要だと感じながらも難しい現状にあることを感じている。今回は当施設での摂食嚥下障害に対してのSTの取り組みと今後の展望について考察する。
【ST対象者の割合】(R4.9.22~R6.1.20)
○平均年齢:76.4歳(男性:72.9歳、女性:79.9歳)
○障害別:摂食嚥下機能障害(35%)、構音障害(28%)、認知症(19%)、失語症(15%)、高次脳機能障害(3%)
○摂食嚥下機能障害を呈する疾患割合:脳血管疾患(69%)、認知症(19%)、パーキンソン病(3%)、誤嚥性肺炎(3%)、その他(6%)
【MASA日本語版嚥下障害アセスメント(摂食嚥下機能のスクリーニング検査)の分析】
当施設では、入所時に入所者全員を対象にMASA日本語版嚥下障害アセスメントにて、摂食嚥下機能のスクリーニング検査を行っている。この検査は24のチェック項目を点数化し、合計点から「重症」「中等症」「軽症」「異常なし」を判定できる。これらの検査を含めたスクリーニング検査で問題がある場合はSTリハ開始となり、その場合は定期的に再評価を行っている。
MASA日本語版嚥下障害アセスメントの分析結果として、本来は経口摂取が困難であると判断されるレベルの利用者が重度の誤嚥リスクを伴いながら経口摂取を継続している。入所期間中に摂食嚥下機能を維持できずに低下する割合が多い。
【事例紹介】
(1)A様 100歳代 女性 脳梗塞後遺症(左上下肢麻痺)
初回評価時のSTの介入はなかったが、胃腸炎後の再入所時~ST介入する。食事摂取量は徐々に低下。「鰻が食べたい」と希望し、鰻摂取。「美味しかった」と鰻ミキサー粥全量摂取される。その後も家族が柿や鰻、洋梨を持参し、摂取される。嘔吐(+)、嘔気(+)看取り開始となり、看取り開始後5日後に逝去される。
(2)B様 90歳代 女性 アルツハイマー型認知症
初回評価時は嚥下機能の問題はみられなかったためSTは介入していなかった。施設内でコロナウイルス感染症、クラスター発生。コロナウイルス感染症罹患。感染性胃腸炎、クラスター発生により居室対応となる。この時期に介護担当者より「だんだん食べれなくなっている」との情報得る。食事評価行い食形態の変更をする。食事摂取量は徐々に低下し、口腔内へ溜め込み、嚥下困難となる。看取り開始となり、看取り開始後9日後に逝去される。
【考察】
(1)事例について
事例(1)ではSTが介入していたこともあり、予め本人の能力を把握していた。また、多職種が相互に関わることができため経口摂取ができる最後のチャンスを見逃さず、本人が望むものを摂取することができた。嚥下機能が低下するタイミングで適切な介入ができた事例であった。事例(2)では入所時の評価にて嚥下の問題がなかったためSTは介入していなかった。感染症対策により居室対応となり、目が行き届かなかったことも背景としてあるが総合的な評価が遅れ、看取り開始時には既に食物への認知が難しく開口すらできない状況であった。嚥下機能が低下するタイミングを見逃し、適切な介入ができなかった事例であった。
(2)多職種との関わり方について
現在、摂食嚥下機能の低下により、食事に問題が生じている利用者がいる場合、担当の介護士や看護師、歯科衛生士、管理栄養士、STが個々に現状報告や解決策の提案をしている。それぞれの職種がそれぞれの視点で問題は捉えられていると思うが、それを取りまとめ同じ目標で介入するまでには至っていない。個々のやりとりだとタイムリーな情報を担当者全員で共有できず、課題に対してその場で解決できないことが多い。また、食事評価においてはST一人で評価しフィードバックするには限界があり、現状や問題を抽出しきれないこともある。その結果、適切な時期に適切な介入ができず、対応が遅れてしまうケースがある。
(3)今後の展望について
摂食嚥下機能障害に携わるにあたり、食形態やポジショニング、より安全に効率よく食べるための食事介助技術なども多職種と共有していきたい。その実現にあたり、ミールラウンドの再開や摂食嚥下機能障害に関する勉強会などを開催し、多職種一丸となって食に対する支援をしていきたいと考える。摂食嚥下に関する委員会を発足できれば今まで以上にタイムリーな情報共有ができ、対象者に見合った支援ができるのではないかと考える。
【まとめ】
2024年の介護報酬改定において、リハビリ、栄養、口腔の取組は一体となって運用されることで、より効果的な自立支援・重度化予防につながることが期待されるとして推進されている。当施設においてもこの取組を目指すにあたり、摂食嚥下機能障害に関して、現在の取り組みについて振り返りを行った。
入所期間中、特に長期になると嚥下機能が低下していく。入所者の高齢化や認知機能の低下により自力摂取が困難となったケース、加齢や疾患に伴う嚥下機能障害により誤嚥性肺炎のリスクが高い状況下での食事介助は少なくないのが現状である。特に入所時摂食嚥下機能障害を認めず経過を辿ってきたケースは徐々に摂食嚥下機能が低下しても見逃されてしまう場合がある。摂食嚥下機能が低下する時期を見落とさず、その状況に応じた適切な対応が必要だと考える。今すぐ取り組めることとして、まずは、日常的にディスカッションすることから始めていき、摂食嚥下に関わる取り組みを段階的に進めていきたい。