講演情報

[15-O-J004-04]嚥下機能低下群に対する認知機能障害の関連について

*松原 恵1、小嶋 瞬1 (1. 愛知県 介護老人保健施設リハビリス日進)
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介護老人保健施設の入所者は複数の疾患を合併しており、摂食嚥下障害を有する利用者様が高いとされている。今回、当施設のADL評価群を参考に嚥下機能との関連を調査した。その結果、身体的・日課的ADLとの相関が最も高く各機能の維持が重要である事は確認できたが、利用者様のQOLを維持するためには認知機能の維持も含めた社会的リハビリテーションが重要である点が見えてきた。
【はじめに】 介護老人保健施設の主な目的はADLの改善、低下の予防を得てQOLを高める事である。当施設では利用者様に対して、各職員がADLの改善や低下予防を目標に、「日常業務のリハビリ化」について取り組んでいる。これまで当施設として、利用者様の現状把握の為、データの分析を行った結果、認知機能の維持にはCommunicationADL(以下CADLと略)の維持・改善が重要と結論付けたが、今回は嚥下機能との関りについて調査を行なった。【対象及び方法】当法人2施設の入所者のうち嚥下機能の低下を認めた41名を対象とした。嚥下機能としては嚥下重症度分類(以下DSSと略)を用いて誤嚥レベル4 (機械誤嚥)以下を機能の低下として判断した。分析は各ADL項目の健常群、低下群に対して有意差検定を実施し、嚥下機能との関連を分析するために相関係数を求めた。【結果】図1.各種ADL項目との得点比較図1では健常群のDSSは平均5.85と口腔期の問題により食事形態の調整、配慮が必要であった。低下群では平均3.08と水分誤嚥が多い結果であった。また、嚥下機能の低下に対し、身体的・日課的ADLも有意に低下が見られ、CADL、記憶理解の項目も低下していくことがわかる。【DSSと身体的ADLとの相関】DSSと身体的ADLの相関は0.57であった。当施設における身体的ADLとは「寝返り、起き上がり、座位保持、両側の立位保持、歩行、移乗、移動、立ち上がり、片脚立位、入浴洗身、上肢作業」を44点で評価したものである。摂食嚥下機能と身体機能とは互いに関係があることは想像がつく。加齢に伴う身体機能の低下、廃用症候群の影響は歩行や上肢機能等の機能低下をきたすが、嚥下機能も口腔機能、嚥下関連筋群の機能低下が起こりうると考える。【DSSと日課的ADLとの相関】DSSと日課的ADLの相関は0.68であった。日課的ADLとは「嚥下、食事、飲水、排尿、排便、歯磨き、洗顔、洗髪、爪切り、上着着脱、下衣着脱」を40点で評価したものである。田中等は高齢者は加齢や廃用の影響により日常の活動性が低下していくが、活動性の低下は全身的なものだけでなく、摂食嚥下に関わる器官にも生じると述べている。よって日課的な食事、排泄、更衣といった普段行う日常生活動作の自立度が低下することは嚥下機能にも影響があると推察される。【DSSとCADLの相関】DSSとCADLの相関は0.34とほぼ相関は認めなかった。CADLとは「挨拶、集団等の活動状況、対人関係、意思決定、視力、聴力、意思伝達、指示理解、相互性、表現、コーピングの有無、やclock drawing test:CDTの可否」を48点で評価したものである。CADLとは加齢・性格、生活歴等が大きく影響するとされ、人が社会生活を送る上で必要な意思疎通に関する項目である。鈴木等は認知機能を含めたコミュニケーション能力は加齢に伴い低下していくが加齢に伴う変化が必ずしも病的な低下を表さない可能性があると述べている。経験的にもコミュニケーション能力の低下、発語が有意に少なくなった利用者様でも食事はしっかり摂取されている場面を多々経験する。【記憶理解と嚥下機能の相関】DSSと記憶理解の得点相関は0.45であった。記憶理解とは「日課の理解、曜日の把握、月日の把握、面接調査直前事項、場所、時間の把握、季節の理解、生年月日、自身の名前、服薬の自立度、失語構音、失行失認」を36点で評価したものである。福永等は認知機能と咽頭通過時間の間に相関を認め、HDS-Rと咽頭通過時間の相関は0.588であったとの報告がある。当施設での分析は、HDS-Rと記憶理解の相関係数0.829と強い相関を持ち、HDS-Rが20点の認知症疑いの方が当施設の記憶理解の合計点は32点相当という分析結果があり、記憶理解と嚥下機能の低下についても関連が生じると推察される。【考察】全ての高齢者は加齢による廃用の影響により活動性が低下していくと共に摂食・嚥下機能に関わる口腔器官、嚥下関連筋群の筋力・機能も低下していく。今回の結果で嚥下機能と身体的・日課的AD Lに強い相関が示された。田中等は歩行能力も,食事形態と関連していることが示されたと述べている。また、山田等は摂食・嚥下機能が改善した患者群にのみA D Lの有意な改善が見られ、摂食・嚥下機能とAD Lに関連があると述べており、当施設での結果とも一致した。さらに摂食・嚥下活動は会食など社会的活動とも関連し、中川らの研究より活動性やQ O Lを高める周囲からの働きかけが摂食・嚥下機能に関連する可能性が示唆された。今回、C A D Lや記憶理解においては相関性が十分に得られなかったが、当施設の過去の分析では、C A D Lと身体的・日課的A D L 、記憶理解において高い相関を得ており、C A D L合計得点の低下は各AD Lと複数群が有意に低下する事が示されている。これらより当施設では、C A D Lを保つ事で身体機能・AD Lの維持予防につながると考えている。 介護老人保健施設とは、リハビリテーションを提供し機能維持・回復の役割を担う施設である。摂食・嚥下活動の維持は摂食嚥下訓練に特化するのみでなく、他者との社会的交流機会となり精神的健康感に影響すると示唆され、社会的リハビリテーションに対しても着手する必要がある。また、当施設は認知症段階に合わせた関わり方など、一定の介入指標を持った「日常業務のリハビリ化」を重要視している。入所者と関わる時間が長いのは介護・看護士だが、各種評価に基づいた介助量の設定に加え日常生活にリハビリの要素を取り入れることが入所者の機能維持・回復になると考える。