講演情報
[15-O-J005-04]笑顔で「美味しい!」安全に楽しく食べることを考えて
*溝口 浩子1、廣川 淳平1 (1. 長崎県 介護老人保健施設 サクラ)
利用者様とご家族様へ食を通して楽しみを提供できるよう、安全面にも配慮しながら取り組みを行った。家族への案内やスタッフ間の情報共有、言語聴覚士による評価、嚥下面に配慮した行事食の工夫などを行った。結果、安全と楽しみの両面を考えて食を提供できる事が増えた。一方、注意の必要な食べ物や嚥下状態の理解が不十分な事もまだまだあるため、各職種と協力しながら、より安全に提供できるよう努めていく必要がある。
【はじめに】
介護老人保健施設に入所されている利用者様にとって、食べる事は毎日の生活の中での楽しみの一つである。しかし年齢を重ねると共に嚥下機能は低下し、誤嚥や窒息のリスクが出てくるため、食べるものにも制限が出てくる。安全な経口摂取が第一ではあるが、楽しみとしての経口摂取もQOL向上には重要である。当施設では、安全面を考慮しつつできる限り利用者様に食べる事を楽しんでもらうために、家族持ち込みのおやつや行事食を安全に提供できるよう多職種で協力して取り組みを行った。
【目的】
安全面に配慮しつつ利用者様へ食の楽しみを提供できる。
本人だけでなく家族にも食べる事を通して喜びを感じてもらう事ができる。
【取り組み】
1)差し入れのお菓子を持って来られる家族様へ向けて、食べやすいお菓子、食べる時に注意が必要なお菓子の例について案内を作成し、出来るだけ安全に美味しく食べる事ができるものを持ってきてもらうよう依頼した。
2)持ち込まれたお菓子の評価が必要であれば言語聴覚士(以下ST)へ評価依頼を行い、摂取状況の確認を行った。評価した内容については「持ち込みお菓子評価表」に摂取時の注意点を記入し、スタッフで情報共有した上での提供を行った。特に注意を要する利用者様や持ち込まれたお菓子によっては、看護師に確認した上でST同席の条件で安全に留意し提供した。
3)食事や飲水について本人や家族から希望があれば、嚥下レベルも考慮した上でSTが評価を行い、食形態アップやトロミの粘度検討を行った。
4)季節の行事で利用者様に楽しんでもらえるおやつ等を考え提供した。介護士が工夫を凝らし、STと一緒に確認をしながら安全に楽しく食べられるものを考えた。
5)コロナ禍で家族との面会ができなかった時期は、食べる様子などを動画や写真に撮り、LINEで家族へ送付し、食べる喜びを共有できることに努めた。
【結果】
1)差し入れお菓子の案内を作成した事で、食べやすいお菓子を持ってこられ、安全に美味しいお菓子を提供できる事が増えた。
2)持ち込みお菓子専用の評価表を作った事で、通常の申し送りよりも提供時の注意点の確認がしやすくなった。以前の評価からどれくらい期間が経ったか確認できるようになり、期間を見ての再評価依頼がみられるようになった。ST同席での摂取で、安全に配慮しながら好きなものを食べる楽しみを提供する機会を作る事ができた。
3)水分にとろみ(学会分類段階1)が必要な利用者様から普通のお茶が飲みたいと希望が聞かれた際に、とろみなしのお茶でST訓練を行った。お茶を実際に飲んでみて状態の説明をすることで、本人様からも飲み込みにくい事を自覚する発言が聞かれるようになった。本人様の希望通りにはならなかったが、納得してとろみ付きのお茶を飲むという結果に繋げる事ができた。
4)夏の行事(夏祭り)では、軟らかい蛸の入った蛸焼きやとろみ付きのかき氷を作るなどして、嚥下障害のある利用者様でも食べる事ができる工夫をして提供した。とろみ付きの補助栄養食を中心に摂取されている方には、とろみの粘度を調整してアイスを上にのせてフロートにし、いつもと違う特別なデザートとして提供した。嚥下状態に合わせてムース状の形態からも選ぶ事ができるケーキバイキングや、ホイップやチョコソースなどから好きなトッピングを選んでかけるプリンの会など、利用者様自身が食べたいもの選んで食べるという機会を提供する事ができた。
5)誕生日でケーキを持って来られた際に、一緒に食べる事はできないが食べている様子を動画に撮りLINEで送付する事で、特別な日の思い出を家族で共有する事ができた。
【考察】
食べる事を安全に楽しく行うためには各職種が協力して取り組むことが重要である。安全という点では、STが評価を行い安全な摂取方法について検討し、スタッフ間で情報共有した上で提供する。看護師と事前に情報共有し、万が一に備えた上でSTが付いて出来るところまで摂取する事で、安全を意識して提供する事ができる。看護師との事前の情報共有により、万が一に備えて摂取する事ができる。楽しみという点では、施設で普段は食べる事ができないものや、季節を感じる事ができるものを食べてもらいたいというスタッフの思いがあり、嚥下障害のある方でも食べる事ができるようにと工夫する事につながる。好きだったものを食べてもらいたいという家族の思いをスタッフが理解して、安全を考慮して出来る限り提供する事も本人様の楽しみにつながると考える。
持ち込みお菓子の案内やお菓子評価表で周知を行い、安全に配慮した提供を行える事が増えたが現状十分とは言えない。誤嚥リスクの高いお菓子の持ち込みや、スタッフの確認不足による提供などもあり、定着までには至っておらず今後の課題である。家族に対しては、基本的な食べやすいお菓子の周知と併せて、必要な方には個別の嚥下状態の説明もしていきながら、本人様にとって安全に美味しく食べることができるものを考えていく必要がある。スタッフ間の周知という点では、家族への持ち込みお菓子案内の内容は必ず理解する事、そして持ち込まれたお菓子に対して、提供してよいか、相談した方がよいかの判断ができるようになる必要がある。スタッフ間でコミュニケーションを図りながら、より安全に提供できるよう努めていく必要があると考える。
【終わりに】
食べる事は生きる事であり、楽しむ事でより生を実感する事ができる。安全に楽しく食べる事ができるようにと考え提供した結果、「おいしかねぇ!」と笑顔で言ってもらえる事が、利用者様や離れた家族様、私達スタッフにとっても嬉しい瞬間である。これからも安全と楽しみの両面を常に考え、各職種と協力しながら、食べる事を通して沢山の笑顔が見られるように取り組んでいきたい。
介護老人保健施設に入所されている利用者様にとって、食べる事は毎日の生活の中での楽しみの一つである。しかし年齢を重ねると共に嚥下機能は低下し、誤嚥や窒息のリスクが出てくるため、食べるものにも制限が出てくる。安全な経口摂取が第一ではあるが、楽しみとしての経口摂取もQOL向上には重要である。当施設では、安全面を考慮しつつできる限り利用者様に食べる事を楽しんでもらうために、家族持ち込みのおやつや行事食を安全に提供できるよう多職種で協力して取り組みを行った。
【目的】
安全面に配慮しつつ利用者様へ食の楽しみを提供できる。
本人だけでなく家族にも食べる事を通して喜びを感じてもらう事ができる。
【取り組み】
1)差し入れのお菓子を持って来られる家族様へ向けて、食べやすいお菓子、食べる時に注意が必要なお菓子の例について案内を作成し、出来るだけ安全に美味しく食べる事ができるものを持ってきてもらうよう依頼した。
2)持ち込まれたお菓子の評価が必要であれば言語聴覚士(以下ST)へ評価依頼を行い、摂取状況の確認を行った。評価した内容については「持ち込みお菓子評価表」に摂取時の注意点を記入し、スタッフで情報共有した上での提供を行った。特に注意を要する利用者様や持ち込まれたお菓子によっては、看護師に確認した上でST同席の条件で安全に留意し提供した。
3)食事や飲水について本人や家族から希望があれば、嚥下レベルも考慮した上でSTが評価を行い、食形態アップやトロミの粘度検討を行った。
4)季節の行事で利用者様に楽しんでもらえるおやつ等を考え提供した。介護士が工夫を凝らし、STと一緒に確認をしながら安全に楽しく食べられるものを考えた。
5)コロナ禍で家族との面会ができなかった時期は、食べる様子などを動画や写真に撮り、LINEで家族へ送付し、食べる喜びを共有できることに努めた。
【結果】
1)差し入れお菓子の案内を作成した事で、食べやすいお菓子を持ってこられ、安全に美味しいお菓子を提供できる事が増えた。
2)持ち込みお菓子専用の評価表を作った事で、通常の申し送りよりも提供時の注意点の確認がしやすくなった。以前の評価からどれくらい期間が経ったか確認できるようになり、期間を見ての再評価依頼がみられるようになった。ST同席での摂取で、安全に配慮しながら好きなものを食べる楽しみを提供する機会を作る事ができた。
3)水分にとろみ(学会分類段階1)が必要な利用者様から普通のお茶が飲みたいと希望が聞かれた際に、とろみなしのお茶でST訓練を行った。お茶を実際に飲んでみて状態の説明をすることで、本人様からも飲み込みにくい事を自覚する発言が聞かれるようになった。本人様の希望通りにはならなかったが、納得してとろみ付きのお茶を飲むという結果に繋げる事ができた。
4)夏の行事(夏祭り)では、軟らかい蛸の入った蛸焼きやとろみ付きのかき氷を作るなどして、嚥下障害のある利用者様でも食べる事ができる工夫をして提供した。とろみ付きの補助栄養食を中心に摂取されている方には、とろみの粘度を調整してアイスを上にのせてフロートにし、いつもと違う特別なデザートとして提供した。嚥下状態に合わせてムース状の形態からも選ぶ事ができるケーキバイキングや、ホイップやチョコソースなどから好きなトッピングを選んでかけるプリンの会など、利用者様自身が食べたいもの選んで食べるという機会を提供する事ができた。
5)誕生日でケーキを持って来られた際に、一緒に食べる事はできないが食べている様子を動画に撮りLINEで送付する事で、特別な日の思い出を家族で共有する事ができた。
【考察】
食べる事を安全に楽しく行うためには各職種が協力して取り組むことが重要である。安全という点では、STが評価を行い安全な摂取方法について検討し、スタッフ間で情報共有した上で提供する。看護師と事前に情報共有し、万が一に備えた上でSTが付いて出来るところまで摂取する事で、安全を意識して提供する事ができる。看護師との事前の情報共有により、万が一に備えて摂取する事ができる。楽しみという点では、施設で普段は食べる事ができないものや、季節を感じる事ができるものを食べてもらいたいというスタッフの思いがあり、嚥下障害のある方でも食べる事ができるようにと工夫する事につながる。好きだったものを食べてもらいたいという家族の思いをスタッフが理解して、安全を考慮して出来る限り提供する事も本人様の楽しみにつながると考える。
持ち込みお菓子の案内やお菓子評価表で周知を行い、安全に配慮した提供を行える事が増えたが現状十分とは言えない。誤嚥リスクの高いお菓子の持ち込みや、スタッフの確認不足による提供などもあり、定着までには至っておらず今後の課題である。家族に対しては、基本的な食べやすいお菓子の周知と併せて、必要な方には個別の嚥下状態の説明もしていきながら、本人様にとって安全に美味しく食べることができるものを考えていく必要がある。スタッフ間の周知という点では、家族への持ち込みお菓子案内の内容は必ず理解する事、そして持ち込まれたお菓子に対して、提供してよいか、相談した方がよいかの判断ができるようになる必要がある。スタッフ間でコミュニケーションを図りながら、より安全に提供できるよう努めていく必要があると考える。
【終わりに】
食べる事は生きる事であり、楽しむ事でより生を実感する事ができる。安全に楽しく食べる事ができるようにと考え提供した結果、「おいしかねぇ!」と笑顔で言ってもらえる事が、利用者様や離れた家族様、私達スタッフにとっても嬉しい瞬間である。これからも安全と楽しみの両面を常に考え、各職種と協力しながら、食べる事を通して沢山の笑顔が見られるように取り組んでいきたい。