講演情報
[15-O-J005-06]Happy Birthday to You ♪~ハッピー食、はじめました~
*小渕 笑里菜1、伊藤 久美子1、武田 美佳1、水野 ゆかり1、山田 芳久1 (1. 愛知県 介護老人保健施設メディコ阿久比)
当施設は、看取り期に入った方を中心に嗜好品への対応をしているが、そうでない方への嗜好品への対応はできていなかった。コロナ禍で家族との外出が減り、食べたい物を食べられる機会も減り、毎日提供されたご飯を食べるだけになってしまうが、やはり誰だっていつだって食は楽しみたいもの。そこで全入所者(経管栄養除く)を対象に誕生日に食べたい物を食べてもらうまでの他職種での取り組み(ハッピー食)を始めたので報告する。
【はじめに】
食べることが一番の楽しみだと考える人もいる。しかし、コロナ禍で家族との外出が減り、食べたい物を食べられる機会も減った。当施設では看取り期以外の方には基本的に健康管理・衛生上の問題から、家族からの差し入れも控えて頂くようお願いしている中、毎日提供されたご飯を食べるだけになってしまう。心も体も健康な時に、食べたい物を食べることができたらどんなに良いことか。そこで、年に1回の誕生日に好きな物が食べられたらいいのではという声が職員からあった。施設へ入所しても特別感を出して、誕生日が1年で1番楽しみな日だと言ってもらいたい。簡単で当たり前に感じていたことではあるが、高齢者施設で取り組もうと思うと、加齢がもたらす摂食・嚥下障害で下げざるを得ない食形態の壁をどう乗り越えるか。今の食形態を維持したまま、背景にある疾患への考慮もしつつ、どこまで希望を叶えられるか、が課題となった。「楽しく」をテーマに、「誕生日だけでも楽しく食べる」を叶えるため、「ハッピー食」と名付け、栄養科のみではなく多職種で実践した。
【施設紹介】
平成元年に開設され、入所者定員は214名で、主に4人部屋の多床室となっている。
各職種は各フロア担当制であり、栄養科には調理師10名、管理栄養士4名が在籍している。
【方法】
対象者は経管栄養の方を除く全入所者。令和6年3月から開始し、利用者の誕生日当日(土日祝日の場合は前後日)おやつの時間に提供。
各職種の役割としては
・管理栄養士…その月の誕生日一覧表を介護主任へ渡す。担当介護士が聞き取った食べ物から実際に提供する食べ物を他職種で検討する。家族参加の場合は、家族分の食べ物も注文する。
・介護主任…担当介護士へ誕生日を伝達・適時進捗状況を確認する。
・担当介護士…入所者へ食べたい物を聞き取り、専用用紙へ記入。お祝い方法を検討する。
・介護支援専門員…家族へ参加の有無を電話連絡する。
・看護師…管理栄養士からの相談・報告を受け、提供する食べ物を医師へ報告する。
・医師…看護師から提供する食べ物の報告を受け、必要に応じて介護記録システムにコメント入力。
・言語聴覚士…嚥下機能低下がある方の場合、提供予定の食べ物を事前に試食し、提供可能か評価する。
・調理師…食形態に合わせて食べやすいよう調理する。見た目にこだわった盛り付けをする。
【活動報告】
誕生日当日は、朝のフロア申し送りでお知らせし、おやつ時にナースステーション前に1人だけ案内し、ハッピー食を提供した。可能な限り当日出勤の職員は集まり、提供する食べ物や職員と一緒に写真撮影、バースデーカードを贈呈した。「何歳になった?」や昔話や食べたい物の話で盛り上がることができた。
◎実際に提供した食べ物(対象者の食形態)
・苺のショートケーキ(一口大、きざみ食)
・チョコレートケーキ(きざみ食)
・ソフト食仕様の苺のショートケーキ(ソフト食、ペースト食)
・ソフト食仕様のチョコレートケーキ(ソフト食)
・おしるこ(きざみ食、ソフト食)
・稲荷寿司(常食)
・野菜ジュース(ソフト食)
・饅頭と苺(きざみ食)
・饅頭とたこ焼き(きざみ食)
・あんぱんとコーラ(常食)
・あんぱんと牛乳(一口大)
・マグロの刺身とサイダー(常食)
・マグロの刺身(きざみ食)
・焼き芋(きざみ食)
・羊羹とらくがんと抹茶(常食)
・ソフト食仕様のラーメン(ソフト食)
・バニラアイス(ペースト食)
◎入所者の意見
・「こんなの初めて」とローソクの火を消した時に言われた方。
・「昨日はありがとうございました」と日をまたいでお礼を伝えてくれた方。
・「みんながお祝いしてくれて1人だけ食べて、食べづらかった」と特別対応を嫌がる方。
・「夢に見た味。もう夢に出て来なくて済む」
・「サイコー、サンキューベリマッチ」
・お餅が食べたかった方におしるこ(お餅に見立てたミキサー粥を入れた)を提供した際、食べ終えて「信じられない」と。夢で、家族みんなお餅を食べていたのに自分だけ食べられず怒っていた方だった
・「嬉しくて涙が出てくる」
・「死なんで良かった」
・「あぁ、もう死んでもいいな」
・「もうこのままあの世に行ってもいいくらいだわ」
・「こんなに見られると緊張して詰まりそうだわ」
・「1人になって誰もお祝いしてくれなかったから嬉しい」
◎職員の意見
・普段見られないくらい表情豊かだったり、好き嫌いの多い方・少食の方が夢中になって食べていたりする姿はとても貴重であり、一緒にお祝いできて良かったと、もてなす職員をハッピーな気持ちにさせてくれた。
・後日、面会に来た家族へ入所者がハッピー食の話をして、写真を見て喜んでいる場面を見てやってよかった。
・入所者から入所者へ「おめでとう」と言っているのを聞いて集団生活におけるコミュニケーションに繋がっていた。
・ハッピーバースデーの歌を一緒に歌ってくれる入所者もいてレクリエーションの一貫にできた。
・職員が率先して楽しんでいくのも大切。
・入浴介助、オムツ介助、移乗介助だけではなくイベントも参加して盛り上げていくのも大切。
・昔食べた懐かしの食べ物を再び食べられたことで昔を思い出され、感動していた。
・こんなにいい顔するんだね、こんな表情初めて見たと、いつも側にいる介護士より。
・こんなに顔色が良いの初めて見た。好きな物食べると顔色良くなるんだね。
【今後の課題】
人が生きていく上で必要不可欠な「衣食住」。今回は「食」事場面でのアプローチをしてきた。毎日を生きるためには、食べる行為無くしては生きていくことはできないが、食べる力=生きる力になっていることを幸せそうに食べている姿から改めて見て取ることができた。今もまだ回を重ねるごとに、その都度課題が生まれ、話し合いをする日々である。今後もハッピー食を提供していく中で試行錯誤を繰り返しながら、ベストな形を見つけていきたい。
食べることが一番の楽しみだと考える人もいる。しかし、コロナ禍で家族との外出が減り、食べたい物を食べられる機会も減った。当施設では看取り期以外の方には基本的に健康管理・衛生上の問題から、家族からの差し入れも控えて頂くようお願いしている中、毎日提供されたご飯を食べるだけになってしまう。心も体も健康な時に、食べたい物を食べることができたらどんなに良いことか。そこで、年に1回の誕生日に好きな物が食べられたらいいのではという声が職員からあった。施設へ入所しても特別感を出して、誕生日が1年で1番楽しみな日だと言ってもらいたい。簡単で当たり前に感じていたことではあるが、高齢者施設で取り組もうと思うと、加齢がもたらす摂食・嚥下障害で下げざるを得ない食形態の壁をどう乗り越えるか。今の食形態を維持したまま、背景にある疾患への考慮もしつつ、どこまで希望を叶えられるか、が課題となった。「楽しく」をテーマに、「誕生日だけでも楽しく食べる」を叶えるため、「ハッピー食」と名付け、栄養科のみではなく多職種で実践した。
【施設紹介】
平成元年に開設され、入所者定員は214名で、主に4人部屋の多床室となっている。
各職種は各フロア担当制であり、栄養科には調理師10名、管理栄養士4名が在籍している。
【方法】
対象者は経管栄養の方を除く全入所者。令和6年3月から開始し、利用者の誕生日当日(土日祝日の場合は前後日)おやつの時間に提供。
各職種の役割としては
・管理栄養士…その月の誕生日一覧表を介護主任へ渡す。担当介護士が聞き取った食べ物から実際に提供する食べ物を他職種で検討する。家族参加の場合は、家族分の食べ物も注文する。
・介護主任…担当介護士へ誕生日を伝達・適時進捗状況を確認する。
・担当介護士…入所者へ食べたい物を聞き取り、専用用紙へ記入。お祝い方法を検討する。
・介護支援専門員…家族へ参加の有無を電話連絡する。
・看護師…管理栄養士からの相談・報告を受け、提供する食べ物を医師へ報告する。
・医師…看護師から提供する食べ物の報告を受け、必要に応じて介護記録システムにコメント入力。
・言語聴覚士…嚥下機能低下がある方の場合、提供予定の食べ物を事前に試食し、提供可能か評価する。
・調理師…食形態に合わせて食べやすいよう調理する。見た目にこだわった盛り付けをする。
【活動報告】
誕生日当日は、朝のフロア申し送りでお知らせし、おやつ時にナースステーション前に1人だけ案内し、ハッピー食を提供した。可能な限り当日出勤の職員は集まり、提供する食べ物や職員と一緒に写真撮影、バースデーカードを贈呈した。「何歳になった?」や昔話や食べたい物の話で盛り上がることができた。
◎実際に提供した食べ物(対象者の食形態)
・苺のショートケーキ(一口大、きざみ食)
・チョコレートケーキ(きざみ食)
・ソフト食仕様の苺のショートケーキ(ソフト食、ペースト食)
・ソフト食仕様のチョコレートケーキ(ソフト食)
・おしるこ(きざみ食、ソフト食)
・稲荷寿司(常食)
・野菜ジュース(ソフト食)
・饅頭と苺(きざみ食)
・饅頭とたこ焼き(きざみ食)
・あんぱんとコーラ(常食)
・あんぱんと牛乳(一口大)
・マグロの刺身とサイダー(常食)
・マグロの刺身(きざみ食)
・焼き芋(きざみ食)
・羊羹とらくがんと抹茶(常食)
・ソフト食仕様のラーメン(ソフト食)
・バニラアイス(ペースト食)
◎入所者の意見
・「こんなの初めて」とローソクの火を消した時に言われた方。
・「昨日はありがとうございました」と日をまたいでお礼を伝えてくれた方。
・「みんながお祝いしてくれて1人だけ食べて、食べづらかった」と特別対応を嫌がる方。
・「夢に見た味。もう夢に出て来なくて済む」
・「サイコー、サンキューベリマッチ」
・お餅が食べたかった方におしるこ(お餅に見立てたミキサー粥を入れた)を提供した際、食べ終えて「信じられない」と。夢で、家族みんなお餅を食べていたのに自分だけ食べられず怒っていた方だった
・「嬉しくて涙が出てくる」
・「死なんで良かった」
・「あぁ、もう死んでもいいな」
・「もうこのままあの世に行ってもいいくらいだわ」
・「こんなに見られると緊張して詰まりそうだわ」
・「1人になって誰もお祝いしてくれなかったから嬉しい」
◎職員の意見
・普段見られないくらい表情豊かだったり、好き嫌いの多い方・少食の方が夢中になって食べていたりする姿はとても貴重であり、一緒にお祝いできて良かったと、もてなす職員をハッピーな気持ちにさせてくれた。
・後日、面会に来た家族へ入所者がハッピー食の話をして、写真を見て喜んでいる場面を見てやってよかった。
・入所者から入所者へ「おめでとう」と言っているのを聞いて集団生活におけるコミュニケーションに繋がっていた。
・ハッピーバースデーの歌を一緒に歌ってくれる入所者もいてレクリエーションの一貫にできた。
・職員が率先して楽しんでいくのも大切。
・入浴介助、オムツ介助、移乗介助だけではなくイベントも参加して盛り上げていくのも大切。
・昔食べた懐かしの食べ物を再び食べられたことで昔を思い出され、感動していた。
・こんなにいい顔するんだね、こんな表情初めて見たと、いつも側にいる介護士より。
・こんなに顔色が良いの初めて見た。好きな物食べると顔色良くなるんだね。
【今後の課題】
人が生きていく上で必要不可欠な「衣食住」。今回は「食」事場面でのアプローチをしてきた。毎日を生きるためには、食べる行為無くしては生きていくことはできないが、食べる力=生きる力になっていることを幸せそうに食べている姿から改めて見て取ることができた。今もまだ回を重ねるごとに、その都度課題が生まれ、話し合いをする日々である。今後もハッピー食を提供していく中で試行錯誤を繰り返しながら、ベストな形を見つけていきたい。