講演情報

[15-O-J005-07]餅ゼリーで広げる笑顔の輪~安全に行事を楽しむために~

*栗田 楓1、関口 聖1、木賊 菜月1、山田 祐也1、高玉 真光1 (1. 群馬県 群馬老人保健センター陽光苑)
PDFダウンロードPDFダウンロード
咀嚼嚥下の障害により餅が食べられない入所者が、餅つきを楽しめるように、餅ゼリーを試作・多職種で検討し提供を開始したので報告する。上新粉・ゲル化剤を使用し、味も見た目も餅が感じられるように作成した。多職種で試食を行い、餅ゼリーの安全性・対象者について検討した。餅ゼリーの提供により、より多くの入所者に楽しんでもらうことに繋がった。また多職種で検討することでより安全な提供が可能となったと考える。
<はじめに>
当施設では行事として、年2回餅つきを実施している。入所者の前で餅をつき、ついた餅をおやつとして提供している。入所者の中には咀嚼嚥下の問題により、餅を提供できない方もいる。通常の餅が摂取できない方には、餅を5mm程度に小さくちぎったもの、あんこのみ、果物味ゼリーのいずれかの提供となっていた。餅を小さくちぎる作業は時間がかかり、均一性を保つことが難しい。また、小さくちぎった餅は見た目が悪く、時間が経つとくっついてしまい安全性も低い。対象者も餅つきの雰囲気を十分に楽しめてはいないのではないかと思い、餅つきの雰囲気を楽しみ、安全に食べてもらうために、ゼリー状の餅(以降餅ゼリーと表記する)を提供できないかと考えた。
当施設では2023年より、液状で提供していたミキサー粥を、ゼリー状に固めて提供する取り組みを導入した。そこで、ゼリー状のミキサー粥を参考に餅ゼリーを提供できないかと考え、レシピの検討・試作を行った。多職種による試食で安全性を確認し、餅ゼリーを提供することができたので報告する。
<目的>
餅を食べられない入所者に、安全に提供できる餅ゼリーを取り入れ、餅つきを楽しんでもらう。
<経過>
【餅ゼリーのレシピを検討】
当施設では食事に提供しているミキサー粥を、ゼリー状にするためにスベラカーゼLiteを使用している。そこでスベラカーゼLiteの使用例にて紹介されていた、餅ゼリーのレシピを参考にした。(1)上新粉使用レシピ、(2)白玉粉使用レシピの2種類のレシピを用意した。
(1)上新粉使用レシピ
[材料(1人分)]上新粉8g、水40g、スベラカーゼLite1g
[作り方]1)上新粉とスベラカーゼLiteをボウルなどでしっかりと混ぜる。2)1)と水をハーフホテルパンに加え、ダマがなくなるまでしっかりとかき混ぜる。3)蓋をして、スチコンでスチームモード100℃(余熱あり)、5分間加熱をする。4)加熱終了直後、全体が均一な状態になるまでしっかりと混ぜ、全体の温度が70℃以上であることを確認する。5)全体が冷めて、固まったら完成。
(2)白玉粉使用レシピ
[材料(1人分)]白玉粉5g、お湯34g、炊き上がったご飯12g、スベラカーゼLite2g
[作り方]1)白玉粉・スベラカーゼLite・お湯を、30秒ほどミキサーにかける。2)1)にご飯を入れる。さらに1分以上ミキサーにかける。3)鍋に移し、ヘラでかき混ぜながら中心温度が80℃以上になるまで加熱する。4)バットまたは型に流し込み、冷蔵庫で冷やし固める。(30分~1時間程度)
2種類試作を行い、管理栄養士で食べ比べを行った。味や見た目に大きな差はなく、どちらも餅の風味が感じられた。(2)レシピは、炊いたご飯が必要になること、また工程が多いため調理がやや複雑な印象があった。
1か月後、再び(1)・(2)のレシピで餅ゼリーを作成した。(1)レシピは前回同様に完成したが、(2)レシピでは出来上がった餅ゼリーに米粒が残ってしまった。よって、失敗が少ないと思われる(1)レシピで餅ゼリーの提供を検討することに決定した。
【他職種への試食実施】
(1)レシピで作成した餅ゼリーにあんこペーストをかけたものを、言語聴覚士・看護師・介護士へ提供。「ややべたつきがある。1人分はレシピ通りで丁度良い。味はあんことからみの2種類用意できるとさらに良い。見た目が餅らしく、餅の風味がして良い。」との意見があった。試食をふまえて、餅ゼリーの対象者は小さくちぎった餅の対象であった方、また言語聴覚士・看護師・介護士により提供可能と判断された方と決定した。味は離水のリスクを考慮し、あんこ1種類のみとした。
<結果>
上新粉を使用したレシピで餅ゼリーを作成し、あんこソースをかけ提供。当日問題なく調理完了し、対象者も安全に摂取することができた。嚥下障害あり、普段の食事はムース食(学会分類コード3)の提供で残食が多い方も、この日は「これはおいしいよ」と、喜んで餅ゼリーを全量摂取される姿がみられた。翌日も覚えており、美味しかったねと話されていた。苑全体でも、今年餅を食べられなかったから嬉しかった。美味しかったよ、ありがとね。と和やかな会話が聞かれた。
<考察>
餅ゼリーの提供によって、餅つきらしいおやつの提供者が増え、より多くの入所者に餅つきの雰囲気を味わい楽しんでもらえた。また多職種での検討や情報共有により、より安全な提供が可能となった。餅つきは長年行ってきた行事であるが、その時代によって可能な提供方法は変わっていく。あたりまえだったことも、ニーズに合わせて見直し、より安全で楽しめるものへ変化することも必要である。
<おわりに>
行事やイベントで提供される食事は、季節感を感じられたり、生活の中に刺激を生み出したりする。入所者が施設での生活を楽しむことにおいて、重要であると考える。また、施設での食事は見た目・味が良く、安全に摂取でき、厨房での調理が可能であることが必要である。管理栄養士は多職種の視点を共有し、現実的に提供可能な形にしていくことが求められている。今後も、入所者の気持ちに寄り添い、ニーズに合わせて食事を見直し、安全でより良い食事を提供していきたい。
※スベラカーゼLite(株式会社フードケア ゼリー食の素)