講演情報
[15-O-J006-03]とろみ付けの現状と問題点~LST測定板による分析~
*片岡 慎吾1、時 安里紗1、和田 福広1 (1. 大阪府 吹田徳洲苑)
当苑でのとろみ段階の選択はST評価で決定し介護士及び看護師によりとろみ付けが実施される。しかしとろみ飲料の不均一さが課題となり実態調査を実施した。方法は簡易LST測定板を用いて段階に応じたとろみ付けを行った。結果としてとろみの程度は極端に薄く、差異も大きく統一性がなかった。撹拌数も少なくダマの出現となった。STとの認識のずれも大きく、今後とろみ程度の統一を目指しマニュアルの構築を目指していく。
【はじめに】
当苑には経口摂取者総数の約28%(36名)の利用者にとろみ飲料の提供が必要である。とろみ程度の選択は言語聴覚士(以下、ST)による嚥下評価に応じて当苑栄養委員会で策定された3段階(日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整分類2021(以下、学会分類)の薄いとろみ・中間とろみ・濃いとろみ)から選択し実施している。主に食事やおやつ場面で介護士(以下、CW)を主軸に看護師(以下、Ns)もサポートとしてお茶にとろみ付けを実施しているが、状況として配膳直前に配膳車からお膳を少し引き出しそこでとろみ付けを行った後すぐさま配膳するため、場所や時間の余裕がない状況でのとろみ付けとなっている。現状では撹拌時間は不十分でとろみの程度も全体的に薄いまま配茶が行われている傾向が強い。とろみ飲料対象の利用者も多く誤嚥予防として適切なとろみ付けに向けた対策・検討が必要である。今回とろみ付けの質の改善に向けて、とろみの程度をサラヤ簡易とろみ測定板スターターキットを用いてLine Spread Test(以下、LST)値※1の測定やとろみ付け状況の実態調査を実施したため、結果を報告する。※1)専用の目盛りの付いた測定板の中央に専用リングを設置しリング内にとろみ付けした液体をすり切り1杯まで流し込み30秒間静置する。その後リングを垂直に持ち上げ流れ出し広がる液体の距離を30秒後に1~6点測定し、その距離(mm)の平均値をLST値とする。
【調査方法】
対象として、当苑職員で業務内にとろみ付けをしていると回答を得たCW30名およびNs13名の計43名(男性11名,女性32名、経験年数平均10.6年)に対し、2024年7月2日~5日の期間にとろみ付けの調査を実施した。とろみ付けの手順として、(1)「いつもの作り方でお願いします。」と前置きし、150mlの冷水(22℃)に薄いとろみ・中間とろみ・濃いとろみの3段階のとろみ付けを1人3段階ずつ実施する。(2)とろみ剤はネオハイトロミールスリムを使用し小さじスプーン(5ml)を用いて杯数(1杯量は指定しない)を確認する。(3)撹拌は手動ミニ泡だて器を使用し時間を測定する。(2)~(3)は普段のとろみ付けの環境に統一する。(4)ダマやとろみの沈殿の確認として測定前に5周ほど撹拌する。(5)とろみ付け開始5分後に1つずつLST値を測定する。(6)LST値・とろみ付け状況を基に多方面から調査する。
【結果】
各とろみ段階のすべてでLST値は基準値より高値であった。LST基準値の成功率も薄いとろみで58.1%となったが中間・濃いとろみでは14%と大半が基準値から高値であった。また差異は10.8~13.3mmもありとろみの段階付けが意味をなさなくなる程大きくLST値が高値であった。男女間での差異は目立った傾向なし。経験年数での差異は中央値を基準にしたが目立った差異なし。ダマの発生頻度はいずれも多く平均して21%となった。撹拌時間は薄い・中間とろみで10秒を下回り濃いとろみで10秒以上となったが理想的な撹拌時間には至らなかった。
【考察】
とろみ付けでは混ぜる時間ととろみの付き方に関係性があり30秒はしっかりと混ぜる必要がある1)との報告がありメーカー推奨も20~30秒かき混ぜるとなっている。今回の結果では撹拌時間が理想の1/3程度と短いことからとろみ剤と水との吸着が不十分となりLST値が上昇したりダマとなる頻度が高くなったと考える。また各段階のとろみ付けの基準値からも大部分がLST上昇してることで認識の低下や差異も大きくとろみ剤の付加量の不規則性も考えられ、全体的にとろみ付けの統一が不十分な可能性がある。参考値として所属ST2名でとろみ付けを実施した結果、LST値は薄いとろみから38.5(差異2.0)、32.9(差異0.3)、28.7(差異0.1)で撹拌時間は20.5、24.5、26.0秒となった。ネオハイトロミールスリムの特性として各とろみ段階ごとに小さじ2/3杯×杯数であるが認識不足で1杯分の計量で作成してしまったため平均よりLST値低下となってしまったが、統一性のあるとろみ付けを少数ではあるが実証した。LST値偏りが全体的に上昇したことは、一つにとろみ程度の基準の認識がずれている可能性が高い。STとのとろみ程度の認識のずれは提案したとろみを利用者に提供できていない可能性があり、嚥下遅延による誤嚥リスクを高めてしまう。今後、同基準でのとろみ付け・とろみ飲料の提供に向けて統一した分量・撹拌時間をマニュアル化し視覚的にも学習していく必要がある。また環境面でもとろみ付けがしやすいよう配置や手順などを調整することで多少なりゆとりをもってとろみ付けを行うことで改善が見込めるだろう。
【まとめ】
今回の調査では、とろみの程度の認識のズレ・とろみ付けの統一の不十分さが明白となった。適切なとろみ飲料を提供することで誤嚥リスクの低減を目指し、また経口摂取を継続することで嚥下機能を賦活していくことが期待できる。そのためにも全体的にとろみ付けの質の向上が求められ、マニュアルの改訂・実技指導・環境改善などを通し、統一された安心できるとろみ付けを目指していく。
1)嚥下チェッカー:誤嚥を防ぐとろみ剤。適切な使い方を飲み物の種類別に解説!https://enge-checker.jp/solutions/33(2024.7.18閲覧)
当苑には経口摂取者総数の約28%(36名)の利用者にとろみ飲料の提供が必要である。とろみ程度の選択は言語聴覚士(以下、ST)による嚥下評価に応じて当苑栄養委員会で策定された3段階(日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整分類2021(以下、学会分類)の薄いとろみ・中間とろみ・濃いとろみ)から選択し実施している。主に食事やおやつ場面で介護士(以下、CW)を主軸に看護師(以下、Ns)もサポートとしてお茶にとろみ付けを実施しているが、状況として配膳直前に配膳車からお膳を少し引き出しそこでとろみ付けを行った後すぐさま配膳するため、場所や時間の余裕がない状況でのとろみ付けとなっている。現状では撹拌時間は不十分でとろみの程度も全体的に薄いまま配茶が行われている傾向が強い。とろみ飲料対象の利用者も多く誤嚥予防として適切なとろみ付けに向けた対策・検討が必要である。今回とろみ付けの質の改善に向けて、とろみの程度をサラヤ簡易とろみ測定板スターターキットを用いてLine Spread Test(以下、LST)値※1の測定やとろみ付け状況の実態調査を実施したため、結果を報告する。※1)専用の目盛りの付いた測定板の中央に専用リングを設置しリング内にとろみ付けした液体をすり切り1杯まで流し込み30秒間静置する。その後リングを垂直に持ち上げ流れ出し広がる液体の距離を30秒後に1~6点測定し、その距離(mm)の平均値をLST値とする。
【調査方法】
対象として、当苑職員で業務内にとろみ付けをしていると回答を得たCW30名およびNs13名の計43名(男性11名,女性32名、経験年数平均10.6年)に対し、2024年7月2日~5日の期間にとろみ付けの調査を実施した。とろみ付けの手順として、(1)「いつもの作り方でお願いします。」と前置きし、150mlの冷水(22℃)に薄いとろみ・中間とろみ・濃いとろみの3段階のとろみ付けを1人3段階ずつ実施する。(2)とろみ剤はネオハイトロミールスリムを使用し小さじスプーン(5ml)を用いて杯数(1杯量は指定しない)を確認する。(3)撹拌は手動ミニ泡だて器を使用し時間を測定する。(2)~(3)は普段のとろみ付けの環境に統一する。(4)ダマやとろみの沈殿の確認として測定前に5周ほど撹拌する。(5)とろみ付け開始5分後に1つずつLST値を測定する。(6)LST値・とろみ付け状況を基に多方面から調査する。
【結果】
各とろみ段階のすべてでLST値は基準値より高値であった。LST基準値の成功率も薄いとろみで58.1%となったが中間・濃いとろみでは14%と大半が基準値から高値であった。また差異は10.8~13.3mmもありとろみの段階付けが意味をなさなくなる程大きくLST値が高値であった。男女間での差異は目立った傾向なし。経験年数での差異は中央値を基準にしたが目立った差異なし。ダマの発生頻度はいずれも多く平均して21%となった。撹拌時間は薄い・中間とろみで10秒を下回り濃いとろみで10秒以上となったが理想的な撹拌時間には至らなかった。
【考察】
とろみ付けでは混ぜる時間ととろみの付き方に関係性があり30秒はしっかりと混ぜる必要がある1)との報告がありメーカー推奨も20~30秒かき混ぜるとなっている。今回の結果では撹拌時間が理想の1/3程度と短いことからとろみ剤と水との吸着が不十分となりLST値が上昇したりダマとなる頻度が高くなったと考える。また各段階のとろみ付けの基準値からも大部分がLST上昇してることで認識の低下や差異も大きくとろみ剤の付加量の不規則性も考えられ、全体的にとろみ付けの統一が不十分な可能性がある。参考値として所属ST2名でとろみ付けを実施した結果、LST値は薄いとろみから38.5(差異2.0)、32.9(差異0.3)、28.7(差異0.1)で撹拌時間は20.5、24.5、26.0秒となった。ネオハイトロミールスリムの特性として各とろみ段階ごとに小さじ2/3杯×杯数であるが認識不足で1杯分の計量で作成してしまったため平均よりLST値低下となってしまったが、統一性のあるとろみ付けを少数ではあるが実証した。LST値偏りが全体的に上昇したことは、一つにとろみ程度の基準の認識がずれている可能性が高い。STとのとろみ程度の認識のずれは提案したとろみを利用者に提供できていない可能性があり、嚥下遅延による誤嚥リスクを高めてしまう。今後、同基準でのとろみ付け・とろみ飲料の提供に向けて統一した分量・撹拌時間をマニュアル化し視覚的にも学習していく必要がある。また環境面でもとろみ付けがしやすいよう配置や手順などを調整することで多少なりゆとりをもってとろみ付けを行うことで改善が見込めるだろう。
【まとめ】
今回の調査では、とろみの程度の認識のズレ・とろみ付けの統一の不十分さが明白となった。適切なとろみ飲料を提供することで誤嚥リスクの低減を目指し、また経口摂取を継続することで嚥下機能を賦活していくことが期待できる。そのためにも全体的にとろみ付けの質の向上が求められ、マニュアルの改訂・実技指導・環境改善などを通し、統一された安心できるとろみ付けを目指していく。
1)嚥下チェッカー:誤嚥を防ぐとろみ剤。適切な使い方を飲み物の種類別に解説!https://enge-checker.jp/solutions/33(2024.7.18閲覧)