講演情報

[15-O-J006-07]食形態の向上と自力での食事摂取を目指して

*田尾 尚徳1、森下 嘉一郎1、安部 隆博1、松村 光貴1、秋田 昌照1、山北 康二1 (1. 香川県 医療法人社団純心会ハートフルねんりん荘)
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身体機能や認知機能の低下を起因とし、嚥下機能の低下が見られ、食形態の低下や自力摂取が困難となったケースは少なくない。本当に自力摂取が出来ないのか、食形態はこれ以上向上出来ないのかの見極めを行い、出来る限り自己摂取で安全を考えた上で普通食に近い食形態を提供できないかと考えた。今回、施設職員だけでなく、訪問歯科との連携により、嚥下機能の向上が見られ、職員に対しても新たな学びとなった例を報告する。
【はじめに】 令和6年4月より口腔衛生管理が義務化され、機能訓練だけではなく、口腔・栄養に対して一体的に取り組むことが求められている。当施設では、施設職員だけではなく、訪問歯科の協力を得て、口腔内の清潔保持・口腔機能向上に努めている。身体機能や認知機能の低下を起因とし、嚥下機能の低下がみられ、食形態の低下や自力摂取が困難となったケースは少なくない。本当に自力摂取が出来ないのか、食形態はこれ以上向上できないのか見極めを行い、出来る限り自力摂取で安全を考えた上で普通食に近い食形態を提供出来ないかと考えた。今回、施設職員だけではなく、訪問歯科との連携により、嚥下機能の向上がみられ、職員に対しても新たな学びとなった例を報告する。【事例紹介】O氏 87歳 男性 要介護5既往歴 令和5年5月8日にA病院に右視床出血の為入院。同年5月16日に誤嚥性肺炎と診断。同年6月27日にB病院に転院し、同年11月7日に当施設入所となる。翌日にてんかん発作が起こり、再びA病院に入院し、同年11月11日に当施設に再入所となる。【初期評価】1.移動 リクライニング車椅子 2.食事形態 流動粥・ペースト 3.介助の有無 有 4.咀嚼 無 5.送り込み 遅延 6.水飲みテスト 4 覚醒度や意欲の低下が見られ、咀嚼が少なく食事の自力摂取不可能で職員の介助が必要な状態。水分はとろみ強。日中はベッドで臥床してほぼ寝て過ごしていた。【経過】令和5年12月~令和6年1月頃 家族様は食形態の改善を希望されていたため、医師・看護師・介護士・管理栄養士・リハビリにてカンファレンスを実施し、食形態改善に向けての訓練を開始する。 同時に、訪問歯科による歯科診療が開始され、定期的な治療と口腔ケア、嚥下チェックを行い、口腔機能向上に向けた訓練の協力も得ることが出来た。(訓練内容)・覚醒度の改善(離床時間の確保や坐位姿勢の調節、食事環境の設定により、生活にメリハリをつける)・自助具の使用(機能訓練と並行して、適切な自助具を選定)・食事前の口腔嚥下機能訓練(咬筋や側頭筋のマッサージ、口唇・頬・舌のストレッチ、パタカラ体操を実施)・訪問歯科による歯科診療(口腔ケアを中心に嚥下チェック・口腔周囲マッサージ・ストレッチを実施)まだ、食事の介助は必要な状態であるが、口腔の動きに少し改善が見られてきた為に、主食のみ全粥に変更する。 家族様が食形態の向上に熱心であり、来荘を頻回にしてくれるようになり、好みのおやつを持ってきてくれた事で本人の食事に対する意欲は高まっていった。訪問歯科との連携・職員指導歯科検診の情報を共有することで、口腔内の状況が把握でき、適切な口腔ケアが行えるようになった。介護士でも可能な口腔周囲マッサージについては、動画を用いて共有し、食事前に実践することができた。その他、資料の提供や助言も頂き、口腔ケアや口腔機能向上に対する職員教育の一端も担っている。令和6年2月頃 食事中の覚醒度が改善したことで、食事に対する意識(集中力)が改善し、自力摂取量は増加。自助具も不要となった。口腔・嚥下機能についても改善がみられ、副食は刻み食・水分もとろみ中レベルにて摂取可能となった。この時期の評価は以下の通りである。(最終評価) 1.移動 リクライニング車椅子 2.食形態 全粥・刻み 3.介助の有無 無 4.咀嚼 有 5.送り込み やや遅延 6.水飲みテスト 3 【考察】 日常生活に支援を必要とする高齢者にとっては、自らの力だけで口腔衛生を保つことは難しい。 今回の例に関しても、身体機能・認知機能を起因とする、覚醒度・嚥下機能の低下が食形態の低下・自力摂取能力の低下を引き起こしたものであった。 訓練を開始するにあたり、多職種でのカンファレンスで課題を整理し、各職種が役割を理解できたことも、早期に機能向上がみられた要因であると考えた。 そして、今回は訪問歯科の協力を得て、口腔内の状況が把握できたこと、口腔機能訓練に参加頂けたことも、大きな要因となった。また、訪問歯科からの情報提供や、口腔ケア方法の指導などは、今回の例だけではなく、今後のサービス提供にむけての新たな学びとなった。 まとめ 介護報酬改定においても、機能訓練・口腔・栄養の一体的取り組みが求められるなか、多職種連携により早期に機能向上がみられた例について報告した。今回は、食形態・自力摂取能力の低下がみられた例に対し、施設職員だけでなく訪問歯科とも連携し、情報の共有が行えたことが、口腔機能向上の一因となった。今回の訪問歯科との連携によって得た、知識・技術については、今後も生かして、広げていけるように研修等を行っていきたい。自立支援・重症化防止の観点からも、口腔機能向上が波及し、食事を含めた利用者様の総合的な支援につなげたいと考える。