講演情報

[15-O-C006-02]スキン-テア(皮膚裂傷)予防の取り組み

*平川 りか1、五井 厚子1、今井 喜代美1、池元 好江1、本田 美和1 (1. 北海道 介護老人保健施設アメニティ西岡)
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摩擦やズレによって、皮膚が裂けて生じる皮膚裂傷をスキン-テアという。当施設には加齢や疾患に伴い、皮膚が菲薄化、内出血しやすい方、浮腫のある方など発生リスクの高い入所者が多い。褥瘡対策委員会ではスキン-テアのアセスメント方法、処置について検討し予防ケアに取り組んだ。発生リスクの高い5名の入所者に、予防ケアを継続し改善が見られた。入所者の皮膚状態をアセスメントし早期に予防ケアを開始する事が大切である。
【はじめに】
摩擦やズレによって、皮膚が裂けて生じる皮膚裂傷のことをスキン-テアと言う。スキン-テアの対応は、医療現場では褥瘡対策の基準として浸透しているが、介護現場ではスキン-テアの発生要因、予防、ケアへの知識は、まだまだ不足している状況である。
当施設においても、加齢や疾患、それに伴う治療等の影響を受け、皮膚が菲薄化、内出血を起こしやすい方、浮腫のある方など、スキン-テアのリスクが高い方が入所されている。スキン-テアを起こしてしまうと、QOLを低下させる要因となる。令和5年度には、3件の症例があり、褥瘡対策委員会では有効な予防・対応方法がないか検討を行った。
【目的】
褥瘡対策委員会にて、スキン-テアについての知識、対処方法、予防についての理解を深め、職員へ周知し発生リスクを軽減する。
【方法】 
スキン-テアの発生要因、アセスメント方法及び処置について委員会メンバー間で理解を深め、当施設内の発生事例について対応方法を検討し、課題を明らかにし、スキン-テア予防に取り組む。
【経過】
スキン-テアの発生要因としては、皮膚がベッド柵や車椅子に擦れて、裂けてしまう。医療用テープを剥がす時に皮膚が剥がれてしまうなど、日常のケアの中で起こることが少なくない。スキン-テア発生時には、まず、圧迫止血を行い、やさしく洗浄する。そして、乾燥をさせぬように湿潤環境下のまま、剥がす時に刺激の少ない被覆材で保護する。スキン-テアが生じてから時間が経つと、剥がれた皮膚が縮んで、元に戻らないので、できるだけ早く処置することが重要である。
スキン-テアの分類としてSTAR分類(skin tear audit research)があり、めくれた皮膚(皮弁)の状態(皮弁があるか等)に対し、皮膚と皮弁の色の状態で分類されるものである。1~3は皮弁が覆える状態であるのかどうか、abは元々の皮弁の色の状態で分類される。皮弁はできる限り戻したほうが、治癒までの期間が早くなる。裂けた表皮が皮弁として残り、内側に巻かれた状態になってしまっている場合には、湿らせた綿棒、ピンセットなどを使って皮弁を伸ばして戻す。
・症例1 96歳女性
就寝中にベッド柵に前腕が挟まり、介助者が腕を取り出した時に、広範囲のスキン-テアとなってしまった。皮弁は8割が残り、色は所々黒ずんでいたので、分類は2bとした。皮弁を伸ばして被覆材を貼り、被覆材を剥がすときに剥がれてしまわないように、剥がす方向を記入した。広範囲だったが、2~3週間で完治した。
・症例2 93歳男性
歩行支援車で歩行されており、外泊から戻った時に右手首に2.5cmほどのスキン-テアを発見した。皮弁で覆う事ができ、色は周囲と比べて差があるため、分類は1bとした。処置後に被覆材を貼り、3週間で完治した。
2症例は、どちらも高齢の方であり、元々皮膚が脆弱であったため、少しの圧でスキン-テアとなるリスクがあったと考えられた。
スキン-テア予防の取り組みとして、皮膚の乾燥を防ぐことに着目した。皮膚の乾燥が強い5名の方に保湿ケアを実施し、経過観察及び評価を行った。保湿剤として、ハトムギボディミルクを入浴後に塗布することにした。ハトムギボディミルクは、ハトムギ、グリセリン、スクワラン、ミネラルオイルが含有され、低刺激、ローションタイプで伸びやすく、脆弱な皮膚に負担がかからず安価であることが選定理由である。皮膚乾燥が起こるので、入浴後10分以内に保湿ケアをすることが重要である。浴室用にセットを作り、職員に周知し、ケアを継続した。
スキン-テアの発生要因の一つでもある医療用テープによって生じる皮膚裂傷をテープテアという。テープは必要な長さをカットし、貼る時には中心から外側に向かって、軽く押さえて貼ること。また、剥がす時には皮膚側を指で押さえながらやさしく剥がすことでテープテアは回避できる。
スキン-テアについて委員会主催の勉強会を実施し、全職員に対して情報の共有を行った。
【結果】
スキン-テア予防として保湿ケアにより、乾燥による皮膚の赤みが軽減し、固くなった皮膚が柔らかくなった。皮膚乾燥が著しく粉を吹く状態も改善され、保湿効果ありと評価した。外力からのスキン-テアを防ぐ方法として、ご家族にアームカバーやレッグカバーを依頼し、ベッド柵などはタオルやクッション材でカバーし、スキン-テアの発生数は少なくなった。
【考察】
1.スキン-テア発生時には、看護師がめくれた皮膚の状態をSTAR分類で評価し、速やかに乾燥させぬよう洗浄し皮弁を伸ばし戻すことで治癒が促進される。
2.被覆材の剥がす方向を記載し皮弁の損傷を防ぐこと、日常においてもテープテアを意識して取り扱う事も重要である。
3.皮膚の乾燥が強く菲薄化しているスキン-テアのリスクが高い方は、皮膚への負担がかからないローションタイプの保湿剤が有効であり、入浴後は10分以内にケアすることを継続することが大事である。
4.新規入所者には、スキン-テアの既往が無いか、四肢に瘢痕が無いかを観察し、外力がかからないケア、保湿ケアの実施が大切である。
【おわりに】
スキン-テアは日常生活の中に突然発生することがあるが、予防方法や適切なケアによって、そのリスクを減らすことができる。職員教育の継続と、利用者が在宅復帰される時には、スキン-テア予防の家族指導が必要と考え、今後の取り組みとする。