講演情報
[15-O-C006-03]老健他職種での褥瘡ケアにつて持ち込み褥瘡全治癒を目指して
*西野 香奈1、小出 純子1、波多野 真悟1 (1. 大阪府 社会医療法人慈薫会 介護老人保健施設大阪緑ヶ丘)
急性期病院退院後または在宅でADLが低下し老健に入所された高齢者の中には褥瘡が発生した状態で入所される方も散見される。当施設では、持ち込みの褥瘡に対して、医療、リハビリ、栄養のそれぞれの視点からどのようにケアを行っていけば良いかカンファレンスを行い、一人ひとり個々合った対策を行う。それにより、持ち込みの褥瘡3例ともに治癒した。多職種共同でのケアが治癒に繋がったため報告する。
【はじめに】
当施設は、緑豊かな自然に囲まれた環境にある定員100名の超強化老人保健施設である。認知症ケア専門フロア、在宅復帰に重点を置いたフロア、看取りケアを含む医療ニーズの高い重度の3フロアに分かれている。医療ニーズの高いフロアへの入所者は、継続した医療と介護が必要な方が大半であり、病院からだけでなく、在宅から褥瘡を有して入所される方も少なくない。今回、難治性褥瘡を有した急性期病院からの入所者2名、在宅からの入所者1名に対し、医療、看護、介護、リハビリ、栄養の視点からチームでアプローチし完全治癒に至った事例を報告する。
【事例】
1) A氏 女性 90歳 要介護4
<既往歴>糖尿病、高血圧、胆のう摘出、右大腿骨頸部骨折
<現病歴>転倒により左大腿骨頚部骨折負傷し、手術目的で入院した。術後敗血症、DICを併発し重篤な状態になり、臥床を余儀なくされ右臀部に褥瘡が発生した。その後、リハビリ目的で当施設入所となった。入所時の褥瘡サイズは3cm×3cmであり、9cm×5.5cmのポケット形成も認められた。
<ADL>食事自立 排泄オムツ全介助 車椅子移乗全介助
<栄養>糖尿食1400cal 血中総蛋白 6.2/dl A/b 2.9g/dl
<チームアプローチ>血糖コントロールとして、糖尿食1400calに加えてインスリン及び内服による血糖管理を行った。その結果、血糖110mg/dlから150mg/dl、HbA1c6.6%と良好な結果を得た。栄養マネージメントとして、多職種参加の経口維持会議を開き、栄養確認を行った結果、食事量は安定し血中総蛋白6.3g/dl アルブミン3.4g/dlと栄養の改善が見られた。リハビリでは移乗動作や立ち上がり動作は全介助であったが、寝返りは自立可能でポジショニングは不要と考え、離床時間の調整やシーティングを行った。離床を図るために、塗り絵やクロスワード、読書を促し日中車椅子で過ごす機会を増やした。清潔保持のため陰部洗浄毎日、入浴週2回実施した。褥瘡処置は洗浄イソジンシュガー処置2回/日施行。汚染時は都度施行した。一か月後だけ褥瘡部排膿認めるようになり、ペンローズドレーン留置や創部の切開繰り返し、創部15cm×7cm (ポケット1.5cm)まで拡大していた。看護師による褥瘡評価を継続した。結果約8ヶ月後褥瘡は完全治癒した。
2) B氏 女性 75歳 要介護4
<既往歴>腎盂腎炎、膀胱炎、尿路感染症、横紋筋融解症。自宅で2日間倒れているのを発見され、救急搬送となった。入院時右臀部褥瘡、右踵部水疱形成認めた。入院中右背部にも褥瘡発生した。リハビリ後、食事はセッテイングで自己摂取、車椅子移乗軽介助まで回復するが、それ以外は全介助であった。嚥下機能の低下認め、全粥副食キザミ食水分トロミ付きを提供されていた。当施設入所時の褥瘡は、発赤全周9cm×9cm 皮膚損傷範囲6cm×4cmポケット形成4cm未満であった。
<ADL>食事セッテイング自立 終日オムツ使用 車椅子軽介助
<栄養>軟飯副食一口大 水分弱トロミ 血中総蛋白 5.4g/dl A/b2.8g/dl
<チームアプローチ>ST介入し嚥下機能を評価、軟飯副食一口大、水分弱トロミに変更。食事量や水分量を確認し経口維持会議でアセスメントを継続した。入所時カンファレンスでADLの拡大のため、夜間のみオムツ着用し、日中は紙パンツに変更しトイレ誘導を目標にした。自己にて体位変換は不可能であったが、その要因の一つとして左膝関節痛が考えられ、疼痛時は鎮静剤を使用した。PTより褥瘡悪化や予防のため離床時間の調整やシーティングによって座位時間の延長を行った。褥瘡処置はポケット内洗浄しイソジンシュガー毎日施行し褥瘡評価を行った。結果、動くことに消極的であったが、左膝関節痛が軽減することで徐々に離床に意欲的となっていった。トイレ誘導により排泄の成功体験を重ねて日中の排泄は完全にトイレへ移行できた。食事量当初全量摂取できなかったが、活動量が増え食欲が回復した。褥瘡部の発赤は抗生剤投与後改善し、悪化なく約2カ月で治癒となった。現在は高血圧も改善し内服なく安定。車椅子自操もされ自立。
3) C氏 男性 85歳 要介護4
<既往歴>糖尿病、高血圧、高脂血症、脊柱管狭窄症、パーキンソン病、前立腺肥大症
<入所理由>認知症の妻と2人暮らし ADL低下し転倒を繰り返すようになる。糖尿病コントロール不良でインスリン開始し増量の傾向にあった。夫婦ともに介護が必要となり緊急入所。入所時身体検査で仙骨、両膝褥瘡発見する。仙骨3cm×1.8cm 右膝3cm×1.8cm 左膝3cm×1.5cm
<栄養>糖尿病食1400cal 米飯副食一口大 血中総蛋白6.4g/dl A/b3.7g/dl
<チームアプローチ>糖尿病食1400cal、内服薬管理、血糖測定、医師の指示でインスリン量調整し糖尿コントロールを図る。食事量や水分量を確認し経口維持会議でアセスメント継続した。入所時カンファレンスでADL拡大の方向性となるが、脊柱管狭窄による疼痛により、体位変換も抵抗していた。疼痛コントロールは多剤併用され追加投与は困難で、エアーマット使用し経過。痛みの軽減されている時に車椅子へ移乗し離床を図る。PTよりリラクゼーション、関節可動域訓練、筋力訓練、起居移乗動作訓練等実施。徐々に自己にて体位変換可能となった。褥瘡処置は洗浄イソジンシュガー毎日施行し褥瘡評価を行った。その結果、食事療法により血糖値の低下認めインスリン中止となった。リハビリ実施により、日内変動あるが疼痛が緩和されることが増え、離床時間が延長できていった。両膝の褥瘡は2週間、仙骨褥瘡は1か月後に治癒した。
【考察】多職種が専門性を発揮し、褥瘡ケアをチーム一丸となり実施したことで、褥瘡を完治することが出来た。ADL回復、QOLの向上の相乗効果がみられ在宅復帰に繋がった。褥瘡予防及びケアには、早期から専門性を発揮しチームで取り組む必要がある。
当施設は、緑豊かな自然に囲まれた環境にある定員100名の超強化老人保健施設である。認知症ケア専門フロア、在宅復帰に重点を置いたフロア、看取りケアを含む医療ニーズの高い重度の3フロアに分かれている。医療ニーズの高いフロアへの入所者は、継続した医療と介護が必要な方が大半であり、病院からだけでなく、在宅から褥瘡を有して入所される方も少なくない。今回、難治性褥瘡を有した急性期病院からの入所者2名、在宅からの入所者1名に対し、医療、看護、介護、リハビリ、栄養の視点からチームでアプローチし完全治癒に至った事例を報告する。
【事例】
1) A氏 女性 90歳 要介護4
<既往歴>糖尿病、高血圧、胆のう摘出、右大腿骨頸部骨折
<現病歴>転倒により左大腿骨頚部骨折負傷し、手術目的で入院した。術後敗血症、DICを併発し重篤な状態になり、臥床を余儀なくされ右臀部に褥瘡が発生した。その後、リハビリ目的で当施設入所となった。入所時の褥瘡サイズは3cm×3cmであり、9cm×5.5cmのポケット形成も認められた。
<ADL>食事自立 排泄オムツ全介助 車椅子移乗全介助
<栄養>糖尿食1400cal 血中総蛋白 6.2/dl A/b 2.9g/dl
<チームアプローチ>血糖コントロールとして、糖尿食1400calに加えてインスリン及び内服による血糖管理を行った。その結果、血糖110mg/dlから150mg/dl、HbA1c6.6%と良好な結果を得た。栄養マネージメントとして、多職種参加の経口維持会議を開き、栄養確認を行った結果、食事量は安定し血中総蛋白6.3g/dl アルブミン3.4g/dlと栄養の改善が見られた。リハビリでは移乗動作や立ち上がり動作は全介助であったが、寝返りは自立可能でポジショニングは不要と考え、離床時間の調整やシーティングを行った。離床を図るために、塗り絵やクロスワード、読書を促し日中車椅子で過ごす機会を増やした。清潔保持のため陰部洗浄毎日、入浴週2回実施した。褥瘡処置は洗浄イソジンシュガー処置2回/日施行。汚染時は都度施行した。一か月後だけ褥瘡部排膿認めるようになり、ペンローズドレーン留置や創部の切開繰り返し、創部15cm×7cm (ポケット1.5cm)まで拡大していた。看護師による褥瘡評価を継続した。結果約8ヶ月後褥瘡は完全治癒した。
2) B氏 女性 75歳 要介護4
<既往歴>腎盂腎炎、膀胱炎、尿路感染症、横紋筋融解症。自宅で2日間倒れているのを発見され、救急搬送となった。入院時右臀部褥瘡、右踵部水疱形成認めた。入院中右背部にも褥瘡発生した。リハビリ後、食事はセッテイングで自己摂取、車椅子移乗軽介助まで回復するが、それ以外は全介助であった。嚥下機能の低下認め、全粥副食キザミ食水分トロミ付きを提供されていた。当施設入所時の褥瘡は、発赤全周9cm×9cm 皮膚損傷範囲6cm×4cmポケット形成4cm未満であった。
<ADL>食事セッテイング自立 終日オムツ使用 車椅子軽介助
<栄養>軟飯副食一口大 水分弱トロミ 血中総蛋白 5.4g/dl A/b2.8g/dl
<チームアプローチ>ST介入し嚥下機能を評価、軟飯副食一口大、水分弱トロミに変更。食事量や水分量を確認し経口維持会議でアセスメントを継続した。入所時カンファレンスでADLの拡大のため、夜間のみオムツ着用し、日中は紙パンツに変更しトイレ誘導を目標にした。自己にて体位変換は不可能であったが、その要因の一つとして左膝関節痛が考えられ、疼痛時は鎮静剤を使用した。PTより褥瘡悪化や予防のため離床時間の調整やシーティングによって座位時間の延長を行った。褥瘡処置はポケット内洗浄しイソジンシュガー毎日施行し褥瘡評価を行った。結果、動くことに消極的であったが、左膝関節痛が軽減することで徐々に離床に意欲的となっていった。トイレ誘導により排泄の成功体験を重ねて日中の排泄は完全にトイレへ移行できた。食事量当初全量摂取できなかったが、活動量が増え食欲が回復した。褥瘡部の発赤は抗生剤投与後改善し、悪化なく約2カ月で治癒となった。現在は高血圧も改善し内服なく安定。車椅子自操もされ自立。
3) C氏 男性 85歳 要介護4
<既往歴>糖尿病、高血圧、高脂血症、脊柱管狭窄症、パーキンソン病、前立腺肥大症
<入所理由>認知症の妻と2人暮らし ADL低下し転倒を繰り返すようになる。糖尿病コントロール不良でインスリン開始し増量の傾向にあった。夫婦ともに介護が必要となり緊急入所。入所時身体検査で仙骨、両膝褥瘡発見する。仙骨3cm×1.8cm 右膝3cm×1.8cm 左膝3cm×1.5cm
<栄養>糖尿病食1400cal 米飯副食一口大 血中総蛋白6.4g/dl A/b3.7g/dl
<チームアプローチ>糖尿病食1400cal、内服薬管理、血糖測定、医師の指示でインスリン量調整し糖尿コントロールを図る。食事量や水分量を確認し経口維持会議でアセスメント継続した。入所時カンファレンスでADL拡大の方向性となるが、脊柱管狭窄による疼痛により、体位変換も抵抗していた。疼痛コントロールは多剤併用され追加投与は困難で、エアーマット使用し経過。痛みの軽減されている時に車椅子へ移乗し離床を図る。PTよりリラクゼーション、関節可動域訓練、筋力訓練、起居移乗動作訓練等実施。徐々に自己にて体位変換可能となった。褥瘡処置は洗浄イソジンシュガー毎日施行し褥瘡評価を行った。その結果、食事療法により血糖値の低下認めインスリン中止となった。リハビリ実施により、日内変動あるが疼痛が緩和されることが増え、離床時間が延長できていった。両膝の褥瘡は2週間、仙骨褥瘡は1か月後に治癒した。
【考察】多職種が専門性を発揮し、褥瘡ケアをチーム一丸となり実施したことで、褥瘡を完治することが出来た。ADL回復、QOLの向上の相乗効果がみられ在宅復帰に繋がった。褥瘡予防及びケアには、早期から専門性を発揮しチームで取り組む必要がある。