講演情報

[15-O-C006-06]フットケア看護の取り組み~たかが爪切り、されど爪切り~

*河口 優子1、山田 悦美1 (1. 千葉県 医療法人徳洲会介護老人保健施設 成田富里徳洲苑)
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フットケアを再開し利用者の足のトラブル防止及び看護師との交流促進を目的に、多職種連携で爪トラブルのリスクのある利用者のフットケアを優先的に行った。結果としてわずかではあるが皮膚状態の改善と足トラブル発生の減少がみられ、利用者からの満足度も高まった。定期的なフットケアは高齢者の健康と生活の質を向上させ、多職種連携と組織的取り組みがケアの質を向上させることが確認された。
【はじめに】
当施設の利用者の約8割は病院からの入所であり、入所時のボディチェックでは足の爪が伸びている方が多く、巻き爪や肥厚、白癬があり、皮膚の乾燥もひどく、トラブルが多い状況でした。2020年6月から施設の特色となり得るフットケアを目標に掲げ、看護業務に取り入れました。当初は順調に進んでいましたが、2022年8月頃より新型コロナウイルスやインフルエンザのクラスター対応、人員不足、利用者数の増加、医療依存度の高い利用者の増加により、フットケア業務を優先的に行う事が難しくなりました。しかし、足趾からの感染で蜂窩織炎の利用者が増えたことから、フットケアの必要性が強く感じられ、再開することになりました。再開にあたり、高齢者にとっての爪切りの重要性や、看護師と利用者の交流の場としてのフットケアについて検討しましたので報告します。
【目的】
フットケアを再開して足のトラブルを防ぐ事、フットケアを通じて利用者が快適に過ごせるようにし、看護師と利用者の交流を深める事。また、フットケアの重要性を再確認し、施設全体でのフットケア実践のための効果的な取り組みについて検討する事を目的とします。
【方法】
対象者:当施設の利用者様(退所された方も含む)です。以下の手法を用いてフットケアを実施しました。
1、入所時のボディチェックにフットケアチェック用紙を追加し、アセスメントし、爪が伸びている場合はその場で爪切りを実施する。
2、新人職員にもフットケアの必要性と、トラブルのある爪は看護師が対応する事を伝達する。
3、フットケア担当看護師を優先的に、週間業務表に取り入れる。
4、少しでも時間がある時には、爪切り業務をする様に声を掛け合う。
5、多職種共同で、爪トラブルをおこしそうな利用者をリストアップする。
・入浴時に介護職員に利用者表を渡し、爪が伸びている利用者をチェックする。
・就寝時に靴下を脱がした時の観察をする。(爪の剥がれ予防)
・リハビリ職員にもリハビリ実施時に足の爪の異常がありそうな時や、訴えがある時は看護師に報告するように依頼する。
6、フットケア外来に研修に行き、看護師間で方法を共有する。
【結果】
・入所時の足趾の状態から現在の状態を比較し、乾燥や汚れから皮膚の皮向けがあった利用者の皮膚色や異常爪の改善がみられました。
・蜂窩織炎者数および爪剥離処置数の比較
・フットケア票の見直しを行い記録を簡素化。
・利用者様からフットケア実施に関するフィードバック。
【考察】
フットケアは高齢者の健康と生活の質を向上させるために重要なケアの一環であり、実践により多くのポジティブな結果が得られました。
1、足趾の健康状態の改善
入所時の足趾の状態から現在の状態を比較した結果、皮膚の皮剥けや皮膚色、異常爪の改善が見られました。これはフットケアが足趾の健康状態を維持し、問題の早期発見と対応に関与したことを示しています。高齢者は自己管理が難しくなるため、フットケアの定期的な実施が足趾の健康維持に不可欠です。
2、感染症の予防
蜂窩織炎者数及び爪剥離の発生数の比較からもわかるように、全くケアが行えなかった2023年は蜂窩織炎、爪トラブル共に増加がみられました。2022年以降に蜂窩織炎の発生数が増加しはじめた事を受け、フットケアの再開と徹底により、2024年の発生数がわずかながらに減少傾向にある事は、フットケアの重要性を示しています。爪剥離も同様に、適切なケアによりリスクを軽減できることが明らかであり、フットケアの実施により感染症の予防効果が確認されました。
3、利用者の満足度向上
利用者からのフィードバックとして「ありがとう」「気持ちよかった」と言った声がきかれ、口数の少ない利用者様が自らいろいろな話しをしてくれるようになり、表情が明るくなった事はフットケアが利用者の心理的・感情的な面にも良い影響を与えることを示しています。高齢者にとって自分の身体が丁寧にケアされる事は多きな安心感と満足感をもたらし、生活の質の向上につながります。
4、多職種連携の促進
フットケアの実施において、看護師、介護士、リハビリ職員が協力し合うことが重要である事が確認されました。多職種が協力してケアを行う事で利用者の健康状態を包括的に把握し、適切な対応が可能となります。このような連携は施設全体のケアの質を向上させる為に不可欠です。
5、組織的な取り組みの重要性
フットケア業務の優先順位を高め、週間業務表に組み入れることで、職員全体の認識が向上し、ケアが定着しました。また、新人職員への教育やフットケア外来での研修を通じて、知識と技術の向上が図られました。これにより、施設全体としてフットケアの重要性が理解され、継続的な実施が可能となりました。
【結論】
私達にとって爪切りは非常にささいな行為ですが、老健に入所されている高齢者にとっては決してささいなことではありません。自分で足の手入れができないことによる足病変は深刻な状態に陥る可能性があり、定期的なフットケアは重要なケアであると言えます。爪切りは単なるケアではなくされど爪切りなのです。職員の認識改革や、教育・研修の導入、フットケア業務の優先順位を高めるための組織的な取り組みの定着によりフットケアの継続が可能であり、多職種が協力してケアを行うことで利用者が安心して快適に生活できる環境を整える事ができると考えます。