講演情報

[15-O-C006-07]高齢者の服薬簡素化に対する取り組みについて

*喜多村 明子1、井上 静江1 (1. 東京都 介護老人保健施設 東大和ケアセンター)
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複数の疾患を持つ高齢者は多剤処方になっており、服薬管理側と服用する利用者にとっても負担がある。処方の見直しと服薬回数を減少することで服薬管理を簡素化し服薬介助負担の軽減を図るため「服薬簡素化提言」を参考に実施した結果、配薬に要する時間が減少し、見守りやケア活動の実施時間を確保することができた。服薬簡素化の効果が利用者の服薬負担軽減と生活の質の向上に期待できるものであると考えられたので報告した。
【はじめに】
当施設では、日常的に看護師が薬を管理しており、服薬自立の問題を抱えている利用者が94%を占めているのが現状である。高齢者は薬袋を切るなどの手指の巧緻性低下や、内服管理の不十分さ、薬の飲み忘れなどの認知機能低下、嚥下機能低下などの問題があるため、服薬管理における職員の負担は大きいと感じている。多剤服用に加え服薬回数が多くなると服薬介助者の負担が高くなる可能性もある。今回、2024年5月第一版、一般社団法人日本老年薬学会作成の「高齢者施設の服薬簡素化提言」(以下「服薬簡素化提言」とする)を参考とし、可能な限り「服薬回数」を減少することで、利用者のみならず、介助者である家族・施設側にとって服薬管理の負担軽減が期待されると考え、取り組んだ結果を報告する。
【目的】
複数の疾患を持つ高齢者は多剤処方になっており、服薬管理側だけでなく服用する利用者にとっても負担がある。処方の見直しと服薬回数を減少することで服薬管理を簡素化し服薬介助負担の軽減を図る
【方法】
「服薬簡素化提言」を参考に実施した。
1.入所者の薬剤を確認し、服薬回数を把握した上で服薬簡素化の対象となる薬剤を特定
2.入所者の服薬簡素化の実施可能性を検討
3.実施可能となるケースにおいて医師・薬剤師・看護師で変更の協議
4.入所者と家族(キーパーソン)への説明
5.処方変更の実施
6.継続的な経過観察を他職種(医師・歯科医師・薬剤師・看護師・介護士・PT・OT・ST・栄養士・相談員)で観察チェックリストを活用し評価
7.看護師服薬管理アンケートを実施(以下アンケートとする)
【結果】
減薬した薬剤数(種類)は41剤(下剤・血圧薬・胃薬・コレステロール薬・鉄剤・痛み止めなど)であった。減薬理由は、症状緩和または改善が44名。ターミナル期で服用困難な状態が2名。減薬を実施し、平均服薬回数が1日あたり、2.8回から1.6回に減少した。朝の薬の1包化調整ができた利用者は21名。そのうち血圧薬服用者が16名。薬剤の見直し後、不穏状態の悪化により薬剤を追加し変更になった利用者が2名。減薬後、観察チェックリストにて各職種が副作用などの観察を行い下痢の症状が見られた利用者が3名。速やかに医師報告後、服薬調整をおこなった。1か月後、評価継続となったケースが41名。
看護師へ実施したアンケートでは、配薬に要する時間が平均、朝30分・昼25分・夕30分ほどかかっていたが、服薬回数減少後では、朝35分・昼10分・夕20分程度と昼と夕の配薬時間が減少された。服薬管理に関するストレス度では5段階評価で4.3から3.0に減少した。
【考察】
今回、服薬回数の減少と処方の見直しが介助者の負担軽減に与える影響を評価した。減薬と利用者の状態を他職種の視点で観察チェックリストを活用することで、1人の利用者に対して多くの視点で医療的な副作用の観察を行うことができた。1週間後、通常3回を分散し下剤を服用していたが、減薬・服薬回数調整後、1包化にしたケースにおいて下痢の症状の副作用が見られた。医師の指示にて下剤の減薬を行い下痢が消失し排便コントロールができた。他の利用者に大きな副作用と状態悪化は見られなかった。
看護師による服薬管理では、服薬回数が減少したことで、10分から15分程度時間短縮ができ、その時間を見守りやケア活動の実施に充てることができた。看護師へ実施したアンケート結果では、確認を怠らず配薬することに対するストレスが高かったが、服薬回数の減少によりストレス軽減に繋がった。
在宅復帰された利用者にとって服薬回数の減少は、服薬介助する家族の負担が軽減できた。薬を正しく服用できることで、健康状態の安定とストレス軽減に繋がる可能性が高いと考える。よって、服薬簡素化の効果が利用者の負担軽減と生活の質の向上に期待できるものであると考えられる。
「服薬簡素化の提言」においては、昼の薬の1包化が望ましいと示されていたが、当施設では、朝に高血圧の利用者が多く、朝の服用を外せないケースがあったため、今回は実現に至らなかった。今後、各利用者の家族背景や個別性を考え、朝の薬だけでなく、昼の薬の一包化の検討もしていきたい。
しかし、簡素化が進むと、病状悪化や新たな副作用が発生する可能性があるため、服薬簡素化には、入所者ごとに適切な薬剤選択や調整が必要であり、専門知識と判断が求められる。
服薬回数を減少したことで、朝の錠剤数が増加したケースが見られたが、嚥下機能に問題ない状態であった。当施設では、入所時に利用者の嚥下評価を歯科医師が実施しているが、嚥下機能低下も視野にいれ、観察を継続的にすることも非常に重要であると考える。
高齢者施設での服薬簡素化は、多くの利点がある一方で、慎重な対応と長期的な経過観察、さらには継続的なモリタリングが必要であると言える。【まとめ】今回、服薬簡素化において、減薬と服薬回数の見直し、服薬回数の減少したことで介助者の負担軽減を図ることができた。今後も、利用者やその家族が減薬や服薬回数を減少することに対し、協力が得られるような土台作りを進めていきたい。継続的なモニタリングをし、利用者、家族にとって、安心した施設生活、在宅復帰ができるよう支援していきたい。