講演情報
[15-O-C007-01]見える化導入による褥瘡予防への取り組み
*松田 規世1、河村 理恵子1、中村 環1、鬼定 祐紀枝1、續田 奈美1、木島 隆栄1 (1. 奈良県 介護老人保健施設 大和田の里)
褥瘡発生には様々な原因が混在する。発生前の予防に十分な対策を講ずる事がとても重要である。多職種で予防ラウンドを行い、適正なポジショニングの写真付き体位変換表を掲示し実施確認表を導入することで、褥瘡予防対策が具体化及び見える化できた。「褥瘡予防は他職種協働で」という意識のもと、個々でのケアから統一されたチームケアが実践できた結果、褥瘡発生者数、再発者数が減少し褥瘡治癒期間が短縮された
【はじめに】当施設では多職種(看護師、管理栄養士、介護士、理学療法士、介護支援専門員)が褥瘡予防委員会として入所中の褥瘡発生0(ゼロ)を目標に活動している。褥瘡は利用者の生活の質を低下させるだけでなく、施設側にとっても介護や医療行為などの介入頻度や物品コストの増加が伴い、経営的側面でも不利益となる。褥瘡予防に関して、「褥瘡は予防が大切」と予防対策がとられていたものの、方法は漠然としており統一がなされていなかった。そこで2023年度は褥瘡リスクを評価し、褥瘡予防対策を具体化・見える化し多職種が連携して統一したケアを実施した。同じ目標に向かうことが出来た結果、褥瘡発生者数および再発者数の減少、治癒期間の短縮という成果を得られたので、考察を加え報告する。
【取り組み内容】2022年度までは褥瘡予防委員会が褥瘡リスク者を抽出し予防対策を検討し、それを業務に組み込んでいくというスタイルであった。しかし、「実際に対策が実施されている?」「職員によってやり方が違うのでは?」「この対策はいつまでするの?」等といった疑問があった。そこで2023年度は大きく3つの取り組みを行った。(1)毎月の委員会の中で、月交代で各フロア(3フロア)の褥瘡リスク者に対して多職種が参加する予防ラウンドを行った。臥位及び座位のポジショニングや栄養状態の確認など、褥瘡とならならないように双方意見や助言を行い身体状況、生活環境を含めた改善課題を検討した。(2)褥瘡リスク者のリスト化と掲示を行った。適切なポジショニングを写真に撮り、体位変換表と実施確認表を居室に掲示し、対策が的確に継続して実践できているかをチェックした。ポジショニングは主に理学療法士と介護職員、看護師とで実施・撮影し、実施確認表には時間及び体位、職員名を記入した。(3)物品管理を統一した。各フロアそれぞれの管理となっていたクッションやマットなどの物品を、スプレッドシートを用いて一括管理し、利用者に合わせて適時適切に使用しやすく、また介護職員にもわかりやすくする為に準備を進めた。
以下、モデルケースを通しての取り組みを紹介する。Tさん(女性89歳、要介護度5,左麻痺あり、日常生活自立度C1、111a)は、令和5年5月再入所時、持ち込み褥瘡が臀部にあった。エアーマットと亜鉛華軟膏塗布対応にて1ヶ月で治癒したが、同年8月に臀部に剥離が再発した。「良くなってきていたのに・・なぜ?」という気持ちから、介護職員から褥瘡回診の依頼を医師に行った。そこで、医師、看護師、リハビリ、管理栄養士、介護職員の多職種が同時にTさんの状況を確認し合った。取り組み内容の変化として、1)看護師は、陰部洗浄頻度1日1回を1日2回行う事と、それまでは亜鉛華軟膏を薄く塗布していたが、1~2ミリ程度の塗布を排泄交換毎行うように介護職員に指導した。2)理学療法士は、座位時にジェルクッションを使用していたが、褥瘡予防クッションへ変更した。また、車椅子に深く座り、骨盤を起こして座位をとっていたため、体幹が左前方に傾いていたが、車椅子に深く座り後ろにもたれる姿勢をとることで、安定した座位が保持され、ズレと摩擦を防ぐことができた。3)管理栄養士は、体重減少のため食事量を1400kcalから1600kcalへ変更し、食べこぼしの多いTさんが自己摂取できるよう食具の工夫を行った。4)介護職員は、体位変換表と実施確認表を導入し見える化され統一したケアを実践した。これらを実践し継続できたことで、褥瘡が治癒し以降再発することなく経過している。
【結果】持ち込みを含む褥瘡者は取り組み前の2022年度は50名、取り組み開始後の2023年度は31名で、38%減少した。2022年度の当施設での褥瘡発生者は42名で月平均3.2名、2023年度は23名で月平均1.9名であり、1.3名減少した。2022年度の褥瘡再発者数は8名、2023年度は4名であり、2023年8月以降の再発者は0名であった。褥瘡治癒期間は、2022年度は平均1.2ヶ月であったが、2023年度は平均0.8ヶ月であった。ポジショニングの写真を掲示し体位変換表と実施確認表を導入したことについて、介護職員へ聞き取りを行った。メリットとして「意識付けになった」「忘れていても気付くようになった」「体位変換が介護職員だけの仕事じゃなくなった」「褥瘡に対する見方が変わった」「記入されている通りにきちんと体位変換できていないことが分かった」等の意見があった。また、特に夜間の記入忘れがあることが分かった。デメリットとしての意見は特になく、「実施確認表の字が小さく見えにくい」との意見があったため、直ちに拡大し見やすく改善した。
【考察】対策を具体化し見える化したことで、利用者の身体状況や生活環境をしっかり的確に把握することができ、職員の褥瘡予防に対する意識が変化していった。特に介護職員は経験の有無、年数、職場経験が個々によって違いがあるが、職員間の連携が不十分で、個々でのケアになっていた。褥瘡予防の必要性が分かっていながらも声に出せない、行動に移せない、という雰囲気があったことも分かった。介護職員は褥瘡については看護が主導であると感じている部分があり、看護師の指示を待っている状態であった。しかし、褥瘡予防に関しては「とりあえずやってみる。だめだったら次を考える。」という意識をもち、多職種みんなで実際に行ってみたところ、発生率の減少や治癒期間の短縮につながったのは明白である。
【結語】可視化することによって同じ目標に向かうことができるチームケアが生まれた。ケアを継続して行いやすくなり、褥瘡予防・剥離治癒という経過が目に見えて表れたことが症例を通して経験できた。課題や検討事項も残っているが、今後は更なるアセスメント能力向上と連携を強化し、利用者にとって有効なケアを実施できる「チームケア」の実践を目指していく。
【取り組み内容】2022年度までは褥瘡予防委員会が褥瘡リスク者を抽出し予防対策を検討し、それを業務に組み込んでいくというスタイルであった。しかし、「実際に対策が実施されている?」「職員によってやり方が違うのでは?」「この対策はいつまでするの?」等といった疑問があった。そこで2023年度は大きく3つの取り組みを行った。(1)毎月の委員会の中で、月交代で各フロア(3フロア)の褥瘡リスク者に対して多職種が参加する予防ラウンドを行った。臥位及び座位のポジショニングや栄養状態の確認など、褥瘡とならならないように双方意見や助言を行い身体状況、生活環境を含めた改善課題を検討した。(2)褥瘡リスク者のリスト化と掲示を行った。適切なポジショニングを写真に撮り、体位変換表と実施確認表を居室に掲示し、対策が的確に継続して実践できているかをチェックした。ポジショニングは主に理学療法士と介護職員、看護師とで実施・撮影し、実施確認表には時間及び体位、職員名を記入した。(3)物品管理を統一した。各フロアそれぞれの管理となっていたクッションやマットなどの物品を、スプレッドシートを用いて一括管理し、利用者に合わせて適時適切に使用しやすく、また介護職員にもわかりやすくする為に準備を進めた。
以下、モデルケースを通しての取り組みを紹介する。Tさん(女性89歳、要介護度5,左麻痺あり、日常生活自立度C1、111a)は、令和5年5月再入所時、持ち込み褥瘡が臀部にあった。エアーマットと亜鉛華軟膏塗布対応にて1ヶ月で治癒したが、同年8月に臀部に剥離が再発した。「良くなってきていたのに・・なぜ?」という気持ちから、介護職員から褥瘡回診の依頼を医師に行った。そこで、医師、看護師、リハビリ、管理栄養士、介護職員の多職種が同時にTさんの状況を確認し合った。取り組み内容の変化として、1)看護師は、陰部洗浄頻度1日1回を1日2回行う事と、それまでは亜鉛華軟膏を薄く塗布していたが、1~2ミリ程度の塗布を排泄交換毎行うように介護職員に指導した。2)理学療法士は、座位時にジェルクッションを使用していたが、褥瘡予防クッションへ変更した。また、車椅子に深く座り、骨盤を起こして座位をとっていたため、体幹が左前方に傾いていたが、車椅子に深く座り後ろにもたれる姿勢をとることで、安定した座位が保持され、ズレと摩擦を防ぐことができた。3)管理栄養士は、体重減少のため食事量を1400kcalから1600kcalへ変更し、食べこぼしの多いTさんが自己摂取できるよう食具の工夫を行った。4)介護職員は、体位変換表と実施確認表を導入し見える化され統一したケアを実践した。これらを実践し継続できたことで、褥瘡が治癒し以降再発することなく経過している。
【結果】持ち込みを含む褥瘡者は取り組み前の2022年度は50名、取り組み開始後の2023年度は31名で、38%減少した。2022年度の当施設での褥瘡発生者は42名で月平均3.2名、2023年度は23名で月平均1.9名であり、1.3名減少した。2022年度の褥瘡再発者数は8名、2023年度は4名であり、2023年8月以降の再発者は0名であった。褥瘡治癒期間は、2022年度は平均1.2ヶ月であったが、2023年度は平均0.8ヶ月であった。ポジショニングの写真を掲示し体位変換表と実施確認表を導入したことについて、介護職員へ聞き取りを行った。メリットとして「意識付けになった」「忘れていても気付くようになった」「体位変換が介護職員だけの仕事じゃなくなった」「褥瘡に対する見方が変わった」「記入されている通りにきちんと体位変換できていないことが分かった」等の意見があった。また、特に夜間の記入忘れがあることが分かった。デメリットとしての意見は特になく、「実施確認表の字が小さく見えにくい」との意見があったため、直ちに拡大し見やすく改善した。
【考察】対策を具体化し見える化したことで、利用者の身体状況や生活環境をしっかり的確に把握することができ、職員の褥瘡予防に対する意識が変化していった。特に介護職員は経験の有無、年数、職場経験が個々によって違いがあるが、職員間の連携が不十分で、個々でのケアになっていた。褥瘡予防の必要性が分かっていながらも声に出せない、行動に移せない、という雰囲気があったことも分かった。介護職員は褥瘡については看護が主導であると感じている部分があり、看護師の指示を待っている状態であった。しかし、褥瘡予防に関しては「とりあえずやってみる。だめだったら次を考える。」という意識をもち、多職種みんなで実際に行ってみたところ、発生率の減少や治癒期間の短縮につながったのは明白である。
【結語】可視化することによって同じ目標に向かうことができるチームケアが生まれた。ケアを継続して行いやすくなり、褥瘡予防・剥離治癒という経過が目に見えて表れたことが症例を通して経験できた。課題や検討事項も残っているが、今後は更なるアセスメント能力向上と連携を強化し、利用者にとって有効なケアを実施できる「チームケア」の実践を目指していく。