講演情報
[15-O-C007-03]多職種かかわりシート活用による皮膚ケア方法の標準化
*羅 卿化1、山田 裕美子1 (1. 愛知県 介護老人保健施設ジョイフル名駅)
経験年数や知識量より看護判断の相違が生ずる。一覧表を活用したケア方法の取り組みについて報告する。多職種でも分かりやすく4項目に分けた。創の状態は写真を掲載して評価し易くし、補食、福祉用具を反映したケア方法を実践した。ハイリスク者の増悪はなかった。適切なケア方法の選択がしやすくなり、褥瘡発生防止を意識した適切なケアを多職種で統一して提供できた。一覧表は多職種間での情報共有のツールとして有用である。
【はじめに】
急速に高齢社会を迎えた日本では今後も高齢者増加傾向や褥瘡発生リスクは存続する。介護施設でケアを受ける高齢者の日常生活において、皮膚ケアは人のもっとも基本的・生理的ニーズに基づく身体ケアの一つである。褥瘡はひとたび発生すれば治癒まで長時間を要し、痛みなどの苦痛や皮膚露出による羞恥心を伴うため高齢者のQOLを大きく左右する。
施設ケア提供者である看護職員にとって皮膚ケアは、匂いなどプライバシーへの考慮、排泄パターン把握、入浴予定など処置時間や処置頻度の調整など、完治まで業務増加に繋がる。看護職員の経験年数や知識量という個人差により、皮膚トラブル発生時のケア実施・効果判定・ケア変更に関する看護判断の相違が生じる可能性もある。
皮膚ケアの基本は保清・保湿の維持、栄養補給といった日常生活の援助であり、多方面でのアプローチは必要であるが、施設の高齢者の皮膚ケアに関する多職種介入に関する先行研究はエビデンスが少ない現状である。当施設の「多職種かかわりシート」を活用した取り組みについて報告する。なお、ここでいう「ハイリスク者」とは入所当時ブレーデンスケール17点以下の入所者を意味する。
【施設概要】
ジョイフル名駅は、平成25年6月に名古屋市中村区に開設したユニット型施設である。1階にはデイケア、2階~6階に介護老人保健施設が100床あり、その他にショートステイホーム、介護老人福祉施設、サービス付き高齢者向け住宅を運営しており、居宅介護支援事業所、訪問リハビリテーションが併設された都市型の複合施設である。
【目的】
本研究の目的は当施設の入所者に対し皮膚ケア方法の標準化および多方面アプローチのため「多職種かかわりシート」の作成をし、使用後の評価について検討することにした。
【研究期間】
2023年の8月から2024年の6月。
【方法】
1.対象者の概要
老健施設入所者100名の概要は、女性77名(77%)、男性23名(23%)、平均介護度4.32、ブレーデンスケールの平均得点は20.68点であった。褥瘡の発生状況に関しては、2021年9月~2023年8月のハイリスク者の平均人数は月4名であり、全入所者の4%に該当する。新規発生者数は、2023年8月時点において100名中1名であり全入所者の1%であった。 看護職員13名の概要は、女性11名(85%)、男性2名(15%)、平均職務年数は2023年8月基準に約10年(最長27年、最短4年)であった。
2.調査方法
<第1段階>
・アンケート調査
当施設の看護職員を対象に、皮膚ケア時の看護判断の困難、評価基準の必要性、チームケアについて、無記名によるアンケート調査を行った。
・当施設の外用薬の分類
当施設内で採用している外用薬は17種類あり、その内5種類が褥瘡に適用可能であり、その他は、副腎皮質ホルモン剤・抗生物質剤・抗真菌剤・抗ウィルス剤などである。
・「多職種かかわりシート」作成
創の状態ごとの写真を時系列にならべ状態の判断をしやすくした。適用可能な外用薬と処置方法を示した。補食は栄養強化を基準に種類を分けた。福祉用具に関してはマットレス・クッションを分散性順で提示し、一覧表となる「多職種かかわりシート」を完成した。
<第2段階>
・完成した「多職種かかわりシート」の勉強会開催・掲示
看護職員を対象に情報共有のため勉強会を開催し、「多職種かかわりシート」を基に創の状態に適用できる外用薬類含め、構成項目を再認識した。看護職員の処置車におき、誰もが普段から褥瘡予防について意識付けできるように、「多職種かかわりシート」を各フロアに掲示した。
・情報共有のツールとして活用
医師、介護職員、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士、管理栄養士に提示、該当入所者の状態変化に関する情報共有を行った。
・「多職種かかわりシート」の見直し
2024年5月より日本語能力に個人差のある外国人介護職員採用の増加に伴い、要点を抑える表現に変更した。
【結果】
入所者について 研究期間中、褥瘡発生者は持ち込み者を含め、月平均1名であった。ハイリスク者は月平均4名であり、「多職種かかわりシート」取組前後とも大きな変化はなかった。
看護職員について(アンケート結果、感想など) アンケート結果、皮膚ケアの看護判断がしやすくなった職員が78%、「多職種かかわりシート」を活用したいと回答した職員が89%、看護職員同士の相談しやすさを回答した職員が89%であった。その他、「過去の経験から、なんとなく外用薬の効果を判断していた。多職種かかわりシートがあることで根拠を持って選定ができ、他のスタッフにも共有することができた」という感想なども得られた。
【考察】
入所者に関して、ハイリスク者からの状態悪化や褥瘡の新規発生者は見られず、QOLを維持することができた。アンケート結果より、看護職員の職務経験年数にとらわれず、「多職種かかわりシート」を媒体に統一性のある持続看護ケアの可能性が考えられた。
今後、「多職種かかわりシート」を標準化された皮膚ケア方法として活用するためには、皮膚トラブルの発生要因を入所者の身体要因と看護介護ケア要因の両方での更なる検討が必要である。
【終わりに】
「多職種かかわりシート」は皮膚トラブル発生時の早期介入のため、チームで考えるツ-ルとして活用できた。今後は新人職員や出身地を考慮した外国人職員用の教育、家族支援時にも使用でき、在宅復帰を目指す介護老人保健施設として入所者にとって安全・安楽な生活の場づくりに役に立ちたいと思う。
急速に高齢社会を迎えた日本では今後も高齢者増加傾向や褥瘡発生リスクは存続する。介護施設でケアを受ける高齢者の日常生活において、皮膚ケアは人のもっとも基本的・生理的ニーズに基づく身体ケアの一つである。褥瘡はひとたび発生すれば治癒まで長時間を要し、痛みなどの苦痛や皮膚露出による羞恥心を伴うため高齢者のQOLを大きく左右する。
施設ケア提供者である看護職員にとって皮膚ケアは、匂いなどプライバシーへの考慮、排泄パターン把握、入浴予定など処置時間や処置頻度の調整など、完治まで業務増加に繋がる。看護職員の経験年数や知識量という個人差により、皮膚トラブル発生時のケア実施・効果判定・ケア変更に関する看護判断の相違が生じる可能性もある。
皮膚ケアの基本は保清・保湿の維持、栄養補給といった日常生活の援助であり、多方面でのアプローチは必要であるが、施設の高齢者の皮膚ケアに関する多職種介入に関する先行研究はエビデンスが少ない現状である。当施設の「多職種かかわりシート」を活用した取り組みについて報告する。なお、ここでいう「ハイリスク者」とは入所当時ブレーデンスケール17点以下の入所者を意味する。
【施設概要】
ジョイフル名駅は、平成25年6月に名古屋市中村区に開設したユニット型施設である。1階にはデイケア、2階~6階に介護老人保健施設が100床あり、その他にショートステイホーム、介護老人福祉施設、サービス付き高齢者向け住宅を運営しており、居宅介護支援事業所、訪問リハビリテーションが併設された都市型の複合施設である。
【目的】
本研究の目的は当施設の入所者に対し皮膚ケア方法の標準化および多方面アプローチのため「多職種かかわりシート」の作成をし、使用後の評価について検討することにした。
【研究期間】
2023年の8月から2024年の6月。
【方法】
1.対象者の概要
老健施設入所者100名の概要は、女性77名(77%)、男性23名(23%)、平均介護度4.32、ブレーデンスケールの平均得点は20.68点であった。褥瘡の発生状況に関しては、2021年9月~2023年8月のハイリスク者の平均人数は月4名であり、全入所者の4%に該当する。新規発生者数は、2023年8月時点において100名中1名であり全入所者の1%であった。 看護職員13名の概要は、女性11名(85%)、男性2名(15%)、平均職務年数は2023年8月基準に約10年(最長27年、最短4年)であった。
2.調査方法
<第1段階>
・アンケート調査
当施設の看護職員を対象に、皮膚ケア時の看護判断の困難、評価基準の必要性、チームケアについて、無記名によるアンケート調査を行った。
・当施設の外用薬の分類
当施設内で採用している外用薬は17種類あり、その内5種類が褥瘡に適用可能であり、その他は、副腎皮質ホルモン剤・抗生物質剤・抗真菌剤・抗ウィルス剤などである。
・「多職種かかわりシート」作成
創の状態ごとの写真を時系列にならべ状態の判断をしやすくした。適用可能な外用薬と処置方法を示した。補食は栄養強化を基準に種類を分けた。福祉用具に関してはマットレス・クッションを分散性順で提示し、一覧表となる「多職種かかわりシート」を完成した。
<第2段階>
・完成した「多職種かかわりシート」の勉強会開催・掲示
看護職員を対象に情報共有のため勉強会を開催し、「多職種かかわりシート」を基に創の状態に適用できる外用薬類含め、構成項目を再認識した。看護職員の処置車におき、誰もが普段から褥瘡予防について意識付けできるように、「多職種かかわりシート」を各フロアに掲示した。
・情報共有のツールとして活用
医師、介護職員、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士、管理栄養士に提示、該当入所者の状態変化に関する情報共有を行った。
・「多職種かかわりシート」の見直し
2024年5月より日本語能力に個人差のある外国人介護職員採用の増加に伴い、要点を抑える表現に変更した。
【結果】
入所者について 研究期間中、褥瘡発生者は持ち込み者を含め、月平均1名であった。ハイリスク者は月平均4名であり、「多職種かかわりシート」取組前後とも大きな変化はなかった。
看護職員について(アンケート結果、感想など) アンケート結果、皮膚ケアの看護判断がしやすくなった職員が78%、「多職種かかわりシート」を活用したいと回答した職員が89%、看護職員同士の相談しやすさを回答した職員が89%であった。その他、「過去の経験から、なんとなく外用薬の効果を判断していた。多職種かかわりシートがあることで根拠を持って選定ができ、他のスタッフにも共有することができた」という感想なども得られた。
【考察】
入所者に関して、ハイリスク者からの状態悪化や褥瘡の新規発生者は見られず、QOLを維持することができた。アンケート結果より、看護職員の職務経験年数にとらわれず、「多職種かかわりシート」を媒体に統一性のある持続看護ケアの可能性が考えられた。
今後、「多職種かかわりシート」を標準化された皮膚ケア方法として活用するためには、皮膚トラブルの発生要因を入所者の身体要因と看護介護ケア要因の両方での更なる検討が必要である。
【終わりに】
「多職種かかわりシート」は皮膚トラブル発生時の早期介入のため、チームで考えるツ-ルとして活用できた。今後は新人職員や出身地を考慮した外国人職員用の教育、家族支援時にも使用でき、在宅復帰を目指す介護老人保健施設として入所者にとって安全・安楽な生活の場づくりに役に立ちたいと思う。