講演情報

[15-O-C007-05]新型コロナウイルス感染症、クラスターを繰り返さない

*田中 良江1、菊池 由美1、山岡 明治1 (1. 神奈川県 介護老人保健施設 野比苑)
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パンデミックとなった新型コロナウイルス感染症、私達は3度のクラスターを経験した。初めてのクラスターは業務の混乱に加え行政や医療機関との連携も特異な状況下であった。一方、感染症の位置づけが5類に移行し社会生活の中でコロナは一般化したが、高齢者施設においては変わらず感染対策が必須となっている。そこで感染症に対する心構えや今後のコロナ対策の見直しに活かしていきたいと思いクラスター禍を振り返ってみた。
【はじめに】
 クラスター禍、野比苑(以下当施設)の各部署がそれぞれ出来る事を模索して感染フロアを援護した。しかし、現場では利用者も職員も非日常を余儀なくされた。さらに感染拡大と重症化の速さを目の当たりにして看護師として高齢者施設でこれ以上なにが出来るのか無力さを感じていた。
今回、クラスター禍の貴重な経験から業務の見直しや感染対策の検討を重ねた結果、3回目のクラスターは業務の混乱も減少し感染拡大を最小限に防止できた為この経過と取組みを報告する。

【野比苑の入所定数】
 2階 49床   3階 51床

【クラスターの概要】
1.令和4年1月22日から44日間、 感染者は3階入所者49名のうち39名(中等症9名、軽症30名)、職員の感染16名中12名。行った医療行為は点滴12名、酸素投与7名、吸引5名、ラゲブリオ投与8名、救急搬送で医療機関に入院7名、救急搬送直後に死亡1名。
2.令和4年8月9日から33日間、2階入所者46名のうち20名(中等症2名、軽症18名)、当施設で死亡が1名。職員16名中3名が感染。行った医療行為は点滴6名、酸素投与1名、吸引2名、ラゲブリオ投与13名、救急搬送により入院1名。
3.令和5年9月6日から16日間、2階入所者8名(軽症)、職員1名が感染。
医療行為は点滴5名、酸素投与なし、吸引なし、ラゲブリオ投与1名、救急搬送なし。

【経過と結果】
1回目のクラスター
日勤看護師は2名体制で1名を感染担当とし、状態観察から必要な医療処置までを行いながらラウンドした。ラウンド中急変があった際まだ状態観察できていない感染者を気遣いながらも急変者の対応に追われた。
感染者が複数人同時に発生した為、医師の指示を受け、家族への連絡や保健所の聞き取り調査等電話対応が度重なっていった。そのため入力した看護記録を基にそれらを相談員が対応を担う事となり現場の負担は軽減した。通常日勤看護師は二つのフロアで業務を行っていたが、ウイルスを他のフロアに持ち込まないよう看護師を固定した。また、当直帯は一人勤務のため、主に感染フロアで業務し他のフロアはオンコールとした。
 隔離対応は認知症の程度やADL等を考慮し居室を変更したが認知症の場合理解に乏しく度々の対応に追われた。感染者、濃厚接触者をわかりやすくするため、ネームボードと居室前に色分けした紙を付けた。職員のモチベーションを保つ為に隔離解除の日付を記した。生活面において、感染のリスクを最小限にする為には配膳一つとっても合理的かつ安全な工夫が必要となった。しかし、食事介助の有無にかかわらず事故防止のために職員は食事中は終始居室内にとどまった。衛生面では、隔離環境や身体状況によりオムツの使用が増えスキントラブルも発生した。収束後介護士より様々な意見があった、毎日変化していく職場、伝言ゲームの様に他の職員から聞いて動く業務、慣れない個人防護具(以下PPE)装着でのオムツ交換や更衣は負担が大きかった。感染者も他の利用者にも制限された環境下で、心身のストレスのケアが十分に出来なかった。

2回目のクラスター
初回とは別のフロアで発生した。看護師は2回目、介護士は初めての経験となった。初回の経験から業務の明確化が重要と考えた。PPE一式、ハザードボックス、体温計等必要物品はセットにして所定の場所に置いた。ガウンを着用するエリアにPPEの脱着のポスター、感染ごみの分別及び破棄方法をゴミ箱の傍に掲示することで初動対応が合理的でスムーズになった。さらに一日のスケジュールや業務分担を、問題が発生する度に話し合いを行って訂正していった。感染対応は習慣化してきたが、一方で汚染したガウンが居室の床に落ちていたり、マスクが正しく着用できていない事もあり感染対策の基本を忘れない様に声を掛け合った。

3回目のクラスター
2回目と同様のフロアで発生した3回目のクラスターは、令和5年9月で感染症の位置付けが5類以降の発生だった。新たに国が示した感染対策を参照したが当施設では変更せず従来通り厳格に行った。

【考察】
 今回の経験から、より細分化したマニュアルが必要である事を実感した。そこに到達するには皮肉にもクラスターの経験が役に立ったといえる。
3回目のクラスターが8名で収束した要因としては、業務の整理をした。居室変更を最小限にした。そして職員の感染も介護士1名で通常とほぼ変わらない人員体制であった事も要因に繋がったと考えられる。さらに現場だけではなく各部署それぞれが“クラスター禍”にシフトし、施設全体で業務を遂行した事により現場の業務も流れていったと考える。
令和6年2月に世間では第10波の流行を迎えたが、これらの経験から作成したマニュアルに基づいて対策をした結果、クラスターの発生を抑える事に成功した。
感染対策を講じるうえで最も重要なことは、ウイルスの特徴をよく知り、科学的根拠に基づいた行動を考え、実施する。これらは看護の基本であることに最後に気付くことになった。

【おわりに】
 当施設では毎年12月に各部署による研究発表会を行っている。令和4年に“コロナ”に特化した発表会を開催した。各部署の専門的な角度から“コロナ”を振り返った。発表を聞いて初めて各部署の工夫や努力が分かり、有意義な発表会となった。
このたびは5類に移行後のクラスターも合わせ、令和6年4月に再び振り返り一連の経験をまとめ、それを発表することで今後の対策に役立てたいと考えた。