講演情報
[15-O-C007-07]地域初!私達の施設で医療的ケア児・者を受け入れる!
*松下 拓実1 (1. 長野県 介護老人保健施設円会センテナリアン)
私達の住む地域には、医療的ケア児・者の御家族がレスパイトの目的で利用できる『医療型短期入所事業所』がありませんでした。福祉の仕事に携わっている私達は、地域の声に応えるべく空床を利用した医療型短期事業所を開設しました。老健の強みでもある多職種協力により高齢者の生活支援のノウハウを活かし、実現した過程を報告します。
【はじめに(開設の目的)】
医療型短期入所(医療型ショートステイ)とは障害福祉サービスの「医療型短期入所」にあたり「1日~数週間、入浴・排泄・食事のほか必要な医療的ケアや介護を提供するサービス」です。近年、医療の進歩により2005年、9987人だった医療的ケア児者が2021年には20180人に達し、15年で約2倍以上となり、この傾向は今後も続くと予想されている。しかし、長野県における医療的ケア児者の支援体制は地域によって偏りがあり、北部から中部にかけて施設が集中している一方、南信州圏域には受け入れ施設が少なく、飯田下伊那地域においては施設がない。この地域だけで45人(2023年)の方が自宅で生活している。今回施設長から「うちで医療的ケア児者を受け入れられないか。」という一言から全ては始まった。私達は「高齢者介護の中で?」と驚いたが、施設長の医療的ケア児者を取り巻く背景や課題、福祉は高齢者だけでない、困っている方たちの支援をしたいという思いに賛同し、地域貢献のため医療型短期入所事業を開設した過程を報告する。
【開設にむけて】
プロジェクトチームを立ち上げ、施設長、看護部長、各部署の主任、リーダーで構成。医療型短期入所への理解を深めるため、複数の施設、病院を視察し、高齢者ケアとは違う小児ケアの特性を踏まえた生活環境、関り方等について学ぶ。また施設、病院職員とのディスカッションを通して、具体的な利用者像をイメージし、利用までの手順、情報収集方法などを確認する。チームとして不安の大きかったてんかん発作時の対応と呼吸器の扱い方は、県主催の研修会へ参加し、知識を習得した。緊急時の際には、地域の医療機関との連携体制を整えた。
<1> チーム以外への職員への説明と情報共有
施設長より医療的ケア児者を取り巻く背景、老健で開設する目的等を説明。医療型短期入所を初めて知った職員が殆どで、リスクへの対応や扱った事のない機器への不安、医療的ケア児者を受け入れる事による他利用者様の反応等、様々な声があった。不安に対して少しでも軽減できる様、県より提供していただいたてんかん研修会の動画と呼吸器の扱い方法の動画を使って学び、利用者様の申し込みと訪問で得た情報、施設体験時(ご利用者様、ご家族)のケア方法等の動画を使って入所前伝達講習を行った。
<2> 地域、メディアへの情報発信
地域の方々への説明会は、施設長と看護部長が出席し、医療型短期入所事業所開設の報告。地域の方々の声は、「高齢者と比べ充実していない」「限られたサービスの中で生活するしかない」「介護者の時間がない」「介護者の高齢化など顔つなぎとして他圏域(北信等)の入所を利用(長距離)せざるを得ない」等の切実な思いを伺い、開設する意味を改めて痛感した。説明会後、テレビ、新聞で医療型短期入所事業所開設予定を報道。
<3> 利用者様、ご家族様の情報収集
申し込みの際には、家庭での環境、経過(成育歴、病歴等)、介護状況の聞き取りを行う。次に、居宅を訪問し、利用者様との顔合わせ、申し込み内容の確認、生活環境、ご家族による介助方法の動画撮影(職員共有の為)を行う。医療機関を受診する際には、リハビリの職員が同行し、身体、運動機能の特性を学んだ。
【結果】
X年某月、準備が整い最初の利用者様を受け入れた。初回利用時は緊張している様子が伺えたが、繰り返し利用することで表情が穏やかになり、職員の声掛け等への反応も良くなってきた。入所者の方々も当初は戸惑いが見受けられたが、利用を重ねる毎に本人へ声をかけてくれるようになった。ご家族様からは、「本当に受け入れまで実行してくれた事がありがたい」「利用前から、申し込み、訪問等、時間を掛けて丁寧に関わって頂けた」「本人の人生サイクルにセンテナリアンが加わった事で、生活も充実している」「施設のお年寄りが『またおいなんよ』と待ってくれている事が、本人の生きている存在を認められている様で嬉しかった」「子供が寝るまでのリズムを作ることに一生懸命である。1泊でも介護休暇がとれる事がありがたい」「それでも離れてみると今頃何しているか気になる」等のご意見を頂いた。
実際に受け入れを始めてから職員の気持ちに変化がみられた。多くの職員が初めての挑戦に不安を感じていたが、準備から受け入れを経験し、スキルやモチベーションが向上し、新たな気づきや感動を体験した。その反面新たな不安や課題も見えてきた。職員の業務はローテーションで行われるため、利用者様の「いつもと違う」状態に気づけない可能性があること、緊急時の対応ができるのかなどの不安や、一時的な預かり感覚ではなく生活の質をどう高めていくかが課題として浮かび上がった。
【考察】
今回の取り組みは、高齢者施設職員が障がい者福祉にも関わる貴重な経験となった。受け入れが実現できたのは、専門職が様々な視点で考え多職種協働で連携が図れる老健の強みと、ご家族に寄り添い丁寧に関われた事が信頼を得、大切な利用者様を私達に任せてもらう事ができたと考える。
【おわりに】
地域で初めて医療的ケア児者を受け入れる施設としての第一歩を踏み出すことができた。高齢者ケアは穏やかで心豊かに過ごしていただくよう人生の最終章を支援している。医療的ケア児者はこれからの成長過程を支援するため、より一層知識・技術が求められる。老健で働いているからこそ介護=高齢者という固定概念があったが、医療的ケア児者に関わることで自分の介護観の枠が広がり、新たな「介護」分野の可能性を感じた。今後は在宅人工呼吸器の使用者の受け入れも視野に入れ、より多様な地域のニーズに応え、利用者様とそのご家族が住み慣れた地域で安心して生活できる環境を目指していきたい。
医療型短期入所(医療型ショートステイ)とは障害福祉サービスの「医療型短期入所」にあたり「1日~数週間、入浴・排泄・食事のほか必要な医療的ケアや介護を提供するサービス」です。近年、医療の進歩により2005年、9987人だった医療的ケア児者が2021年には20180人に達し、15年で約2倍以上となり、この傾向は今後も続くと予想されている。しかし、長野県における医療的ケア児者の支援体制は地域によって偏りがあり、北部から中部にかけて施設が集中している一方、南信州圏域には受け入れ施設が少なく、飯田下伊那地域においては施設がない。この地域だけで45人(2023年)の方が自宅で生活している。今回施設長から「うちで医療的ケア児者を受け入れられないか。」という一言から全ては始まった。私達は「高齢者介護の中で?」と驚いたが、施設長の医療的ケア児者を取り巻く背景や課題、福祉は高齢者だけでない、困っている方たちの支援をしたいという思いに賛同し、地域貢献のため医療型短期入所事業を開設した過程を報告する。
【開設にむけて】
プロジェクトチームを立ち上げ、施設長、看護部長、各部署の主任、リーダーで構成。医療型短期入所への理解を深めるため、複数の施設、病院を視察し、高齢者ケアとは違う小児ケアの特性を踏まえた生活環境、関り方等について学ぶ。また施設、病院職員とのディスカッションを通して、具体的な利用者像をイメージし、利用までの手順、情報収集方法などを確認する。チームとして不安の大きかったてんかん発作時の対応と呼吸器の扱い方は、県主催の研修会へ参加し、知識を習得した。緊急時の際には、地域の医療機関との連携体制を整えた。
<1> チーム以外への職員への説明と情報共有
施設長より医療的ケア児者を取り巻く背景、老健で開設する目的等を説明。医療型短期入所を初めて知った職員が殆どで、リスクへの対応や扱った事のない機器への不安、医療的ケア児者を受け入れる事による他利用者様の反応等、様々な声があった。不安に対して少しでも軽減できる様、県より提供していただいたてんかん研修会の動画と呼吸器の扱い方法の動画を使って学び、利用者様の申し込みと訪問で得た情報、施設体験時(ご利用者様、ご家族)のケア方法等の動画を使って入所前伝達講習を行った。
<2> 地域、メディアへの情報発信
地域の方々への説明会は、施設長と看護部長が出席し、医療型短期入所事業所開設の報告。地域の方々の声は、「高齢者と比べ充実していない」「限られたサービスの中で生活するしかない」「介護者の時間がない」「介護者の高齢化など顔つなぎとして他圏域(北信等)の入所を利用(長距離)せざるを得ない」等の切実な思いを伺い、開設する意味を改めて痛感した。説明会後、テレビ、新聞で医療型短期入所事業所開設予定を報道。
<3> 利用者様、ご家族様の情報収集
申し込みの際には、家庭での環境、経過(成育歴、病歴等)、介護状況の聞き取りを行う。次に、居宅を訪問し、利用者様との顔合わせ、申し込み内容の確認、生活環境、ご家族による介助方法の動画撮影(職員共有の為)を行う。医療機関を受診する際には、リハビリの職員が同行し、身体、運動機能の特性を学んだ。
【結果】
X年某月、準備が整い最初の利用者様を受け入れた。初回利用時は緊張している様子が伺えたが、繰り返し利用することで表情が穏やかになり、職員の声掛け等への反応も良くなってきた。入所者の方々も当初は戸惑いが見受けられたが、利用を重ねる毎に本人へ声をかけてくれるようになった。ご家族様からは、「本当に受け入れまで実行してくれた事がありがたい」「利用前から、申し込み、訪問等、時間を掛けて丁寧に関わって頂けた」「本人の人生サイクルにセンテナリアンが加わった事で、生活も充実している」「施設のお年寄りが『またおいなんよ』と待ってくれている事が、本人の生きている存在を認められている様で嬉しかった」「子供が寝るまでのリズムを作ることに一生懸命である。1泊でも介護休暇がとれる事がありがたい」「それでも離れてみると今頃何しているか気になる」等のご意見を頂いた。
実際に受け入れを始めてから職員の気持ちに変化がみられた。多くの職員が初めての挑戦に不安を感じていたが、準備から受け入れを経験し、スキルやモチベーションが向上し、新たな気づきや感動を体験した。その反面新たな不安や課題も見えてきた。職員の業務はローテーションで行われるため、利用者様の「いつもと違う」状態に気づけない可能性があること、緊急時の対応ができるのかなどの不安や、一時的な預かり感覚ではなく生活の質をどう高めていくかが課題として浮かび上がった。
【考察】
今回の取り組みは、高齢者施設職員が障がい者福祉にも関わる貴重な経験となった。受け入れが実現できたのは、専門職が様々な視点で考え多職種協働で連携が図れる老健の強みと、ご家族に寄り添い丁寧に関われた事が信頼を得、大切な利用者様を私達に任せてもらう事ができたと考える。
【おわりに】
地域で初めて医療的ケア児者を受け入れる施設としての第一歩を踏み出すことができた。高齢者ケアは穏やかで心豊かに過ごしていただくよう人生の最終章を支援している。医療的ケア児者はこれからの成長過程を支援するため、より一層知識・技術が求められる。老健で働いているからこそ介護=高齢者という固定概念があったが、医療的ケア児者に関わることで自分の介護観の枠が広がり、新たな「介護」分野の可能性を感じた。今後は在宅人工呼吸器の使用者の受け入れも視野に入れ、より多様な地域のニーズに応え、利用者様とそのご家族が住み慣れた地域で安心して生活できる環境を目指していきたい。