講演情報

[15-O-C008-02]認知症?いえ、それは硬膜下血種です!

*佐藤 健太1 (1. 千葉県 フェルマータ船橋)
PDFダウンロードPDFダウンロード
急激に認知症が進んだような症状がみられ救急搬送し、硬膜下血腫の診断で入院となった症例がある。一見すると認知症の症状が進行したかのように捉えられ、対応が後手にまわるのが硬膜下血腫である。その当時の状況や実際に行ったアセスメントを踏まえて報告する。今回の症例から多職種との連携や情報共有の重要性を実感し、看護師間での学習や知識の共有、アセスメント力の向上も必要であると考えられた。
[はじめに]
硬膜下血腫とは頭蓋骨の下にある硬膜と脳の間に血腫が形成された状態である。硬膜下血腫は急性硬膜下血腫と慢性硬膜下血腫に分類される。急性硬膜下血腫は外傷などで短時間のうちに血腫が形成された疾患である。慢性硬膜下血腫は頭部外傷後、1~2カ月かけてじわじわと血液が溜まって血腫ができる疾患で、血腫が大きくなり脳を圧迫することで、頭痛や物忘れ、認知症によく似た症状(意欲や反応の低下、性格の変化など)、歩きにくさ、手足が動かしにくいなど様々な症状を呈するとされている。どちらも発見が遅れ重症となれば後遺症が残ることもあり、最悪の場合は死に至る疾患である。

[目的]
新規入所者の男性で入所後から入所3日目にかけて、急激に認知症が進んだような症状がみられ救急搬送し、硬膜下血腫の診断で入院となった症例がある。この症例から硬膜下血腫を考慮するにあたり、多職種との連携や情報共有の重要性を実感し、アセスメント力の向上が必要であると考えたため、当時の状況や実際に行ったアセスメントを踏まえて報告する。

[症例紹介]
A氏80代男性 既往歴:左前額部打撲、左肋骨骨折、外傷性頚部症候群、前立腺肥大、逆流性食道炎、鼠径ヘルニア
4月に自転車同士の交通事故でA病院へ救急搬送され左前額部打撲、左肋骨骨折と診断。受傷直後の頭部CTでは出血や骨折など異常はなし。しかし、事故後から徐々に全身脱力感や歩行困難な状態となりB病院受診し外傷性頚部症候群と診断される。その後も症状が続きC病院を受診したが、受傷後のストレスや活動量低下が原因であるとの診断でリハビリを指示され、6月に当施設へリハビリ目的にて短期入所となる。内服は自己管理。入所時のADLは理学療法士が評価しており、移動:車椅子自走促し。起居:時間を要するが自立。移乗:自立で靴を履く動作も自身で行える。食事:食べこぼし無く自力摂取可能。排泄:終日トイレで上げ下ろしはふらつきがあるため見守りが必要な状態であった。

[経過]
入所1日目(受傷から53日目)。杖を使用し居室から出てこられる様子が見られており立位保持、歩行もなんとか可能な状態。声掛けにて笑顔も見られており、食後の口腔ケアなども自身で行えていた。意識レベルはGlasgow Coma Scale(以下GCS)を用いて評価しGCS15(E4V5M6)で意識清明。
入所2日目(受傷から54日目)。車椅子自走促すも困難なため介助にてトイレ誘導するが失禁している。内服持参忘れも続き看護師管理へ移行。意識レベルはGCS14(E4V5M5)。
入所3日目(受傷から55日目)。座位、立位保持困難。失禁が続いている。食事の際、配膳するもお盆を見つめるだけで箸を持とうとしない。10分程様子をみるが食事摂取せず。口腔ケアも自身で行えず閉眼してしまい、臥床も全介助。入所時と比較して表情も乏しい。頭痛や嘔気、明らかな麻痺はなし。意識レベルはGCS13(E3V5M5)。

[結果]
経過から1.入所時と比較すると意識レベルやADLに低下がみられること 2.急激に進行した認知症のような症状がみられること 3.受傷後に再度頭部CTを実施していなかったことを踏まえた上で意識障害の原因(鑑別診断)を考慮し、慢性硬膜下血腫による意識障害及び認知機能、ADLの低下を疑い、当直医師へ報告し診察を依頼。診察をした医師も硬膜下血種の可能性を考慮し、受診適応との判断で救急要請となった。休日ということもあり救急搬送まで1時間30分以上かかったが無事に病院へ搬送された。検査の結果、硬膜下血腫の診断で入院となり緊急手術の適応となった(後日家族からの連絡で「交通事故がきっかけだろう、5日くらい遅ければ亡くなっていたと医師から言われた。」との報告あり)。6月末までには退院され、表情も明るく歩行も可能な状態まで回復し、娘様宅で問題なく生活されているとのこと。

[考察]
意識レベルの評価に用いられる代表的な指標としてはJapan Coma Scale(以下JCS)とGCSが挙げられる。JCSは短時間で簡便に意識レベルの評価を行えるのが特徴で、緊急時に用いるのに適している。GCSは亜急性から慢性期の意識障害患者の身体残存機能や予後など詳細を評価するのに適しているとされているが、開眼、発語、運動機能の3側面の総和で評価するためJCSより複雑とされている。
今回の症例ではGCSを用いて意識レベルの評価を実施した。また、意識障害の原因は少なくとも10個以上あるとされているが、もれなく鑑別を挙げるための方法としてアルファベットの頭文字を並べたAIUEOTIPSがある。A:Alcohol(アルコール)、I:Insulin(低血糖・高血糖)、U:Uremia(尿毒症)、E:Electrolytes(電解質)/Endocrine(内分泌)/Encephalopathy(脳症)、O:Overdose(中毒)/O2(低酸素)、T:Trauma(外傷)/Temperature(低・高体温)、I:Infection(感染症・髄膜炎・敗血症)、P:Psychiatric(精神疾患)、S:Stroke(脳卒中)/Seizure(てんかん)/Shock(ショック)。
検査ができる病院とは異なり全ての項目を正確に評価することは難しいが、施設で把握している情報を基にアセスメントを行うことは可能である。そのためには支援相談員や介護士、理学療法士など利用者に関わる全ての職員が収集した情報が必要であり、多職種との連携や情報共有が重要である。また、看護師間での学習や知識の共有、アセスメント力の向上も必要であると考える。

[まとめ]
高齢化により認知機能が低下したからというだけで認知症と決めつけてはいけない。今回の症例を通して多職種との連携や情報共有の重要性、様々な指標を用いて客観的にアセスメントをすることの大切さを改めて実感した。今後の課題として、看護師間での学習や知識の共有などを行い、アセスメント力の向上を図ることが挙げられる。看護の質を高め、利用者へより良いケアを提供できるよう全ての職員と協力していきたい。