講演情報

[15-O-C008-04]老健施設における特定看護師の役割

*原田 嘉奈子1 (1. 京都府 介護老人保健施設 やすらぎ苑)
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特定看護師が介護老人保健施設(以下、老健とする)において早期介入の支援構築に寄与することを目指し、脱水兆候のある高齢者に対して行った介入や役割を明らかにすることを目的に、3ヶ月間のデータによる介入事例を分析した結果、脱水の補正15件中、入院に至った症例は0件であった。また、多職種に特定行為に関するアンケート調査を実施した結果、今後医療処置が必要な入所者に対し、特定看護師の役割や重要性が示唆された。
【はじめに】特定行為研修を修了した看護師(以下、特定看護師とする)が、医師の作成した手順書をもとに、その指示の範囲内で診療補助行為を行うことを特定行為という。医師が不在の場合でも、入所者の症状に合わせてタイムリーに処置ができ、病状の悪化を防ぐとともにチーム医療に貢献することが可能である。全国の介護保険施設で働く特定看護師は194人であり全体の3.0%である(厚生労働省より令和6年2月時点)。昨年度、当施設から入院となった症例を調査すると82件あり、うち特定行為の介入が可能な症例が見受けられた。そのうち脱水による状態悪化が最多で8件だった。この状況から老健において医療面での介入の必要性が明らかとなった。短期間ではあるが老健における特定看護師の役割や重要性が示唆されたためここに報告する。
【研究目的】特定看護師が老健で早期介入の支援構築に寄与することを目指し、脱水兆候のある高齢者に対して特定看護師が行っている介入や役割を明らかにすることである。
【方法】3ヶ月間のデータをもとに介入事例分析と当施設で働く多職種に特定行為に関するアンケート調査を実施する。
<倫理的配慮>対象者及び家族に対して症例報告の目的と個人が特定できないよう匿名とすること、自由意思であること、協力しない場合も不利益にならないなどの説明を行い本事例報告に関する同意を得た。
【結果】4月から6月の3ヶ月間、特定行為看護師が介入した脱水の補正は15件、入院に至った症例は0件であった。
<症例>A氏 89歳 女性 既往: 食道裂孔ヘルニア・鉄欠乏性貧血 食事形態:全粥・柔らか刻み食
5月1日 食事が進まず倦怠感・嘔気など症状出現あり。嘔気止めで様子観察。
5月6日 食事量が最近減っていると介護職員から報告あり、栄養士と相談しパン食に変更する。食事量は記録していたが、水分摂取量を把握していなかったため、介護職員に症状の有無の観察とともに水分量の測定を依頼した。その結果、1日量300ml以下であったことが判明した。食事量が5割以下に加え、必要な水分量が十分に取れておらず倦怠感が出現しているとアセスメントした。  
5月11日 家族へ連絡・主治医に手順書作成を依頼する
採血実施、ソルデム1 500ml1本/日を投与した。
採血結果:K4.2mEq/dl Na 142mEq/dl、CRP1.8、Cr0.72mg/dl、BUN29mg/dl
特定行為開始時に多職種参加の入所者カンファレンスで情報共有し、点滴投与を開始する。水分を促し、水分量測定は継続とした。尿量は測定できないため、トイレの回数で確認した。5月13日(月)から5月18日(土)ソルラクトD 500ml 1本/日を投与した。
 その後笑顔が見られ、倦怠感消失。長時間の座位保持が可能となるまでに回復し、食事量も増加した。5日ほどで嘔気は消失し、水分摂取量は500-700ml/日以上を目指すことができた。家族にA氏の好きな食べ物の持参を依頼し、食事5割・水分量500ml/日以上を維持できるようになった。
<アンケート結果>48名中33名が回答し回答率68.7%だった。
 質問内容:
1.特定行為を知っているか・・81.8%が知っていると回答。
2.特定行為を行うようになり施設はどう変わったか・・54.5%が良くなった、36.3%がわからないと回答。
3.利用者にとってどう変わったか・・・60.6%が良くなった、30.3%がわからないと回答
4.職員への意識はどう変わったか・・・48.4%が良くなった、39.3%がわからないと回答
回答者から「受診が減った」、「相談しやすくなった」、「医師不在時でも迅速に対応できる」、「注意して食事量・水分量を見るようになった」などの意見があった。
【考察】症例では、介護職員の食事量減少の報告を受け、特定行為の対象となるか状態把握に努めた。数多くの入所者の中で、介護職員からの貴重な情報をもとに早期介入を行うことで受診まで至らずに済んだケースであった。特定行為を行う上で、医師の協力・理解が得られスムーズな介入ができたこと、また、特定行為の介入開始時および経過についてカンファレンスで情報共有することで多職種の協力・理解を得ることができたと考える。このようにして特定行為は、専門的領域で入所者の状態をアセスメントし、介入の必要性の有無を評価するためには多職種と連携して実施していく必要がある。老健における特定看護師の役割は、多職種との信頼を構築し連携して行動実践していくことで重症化を予防するだけでなく、受診の減少による入所者・家族・職員の負担軽減、チーム連携の強化など多岐にわたると考える。また、職員へのアンケート調査により、特定看護師は職員に安心感を与える存在であり、施設にとっても前向きな影響力を与えているという意見から、職員の意識の向上が看護・介護の質の向上に影響していると考える。老健における看護の質の向上や在宅復帰への強化に貢献できるよう、特定看護師はリーダーシップを発揮していく存在であるとも言える。しかし中には、特定行為について知らない職員もおり、「何をしているのかわからない」といった意見があるため、今後は職員への理解度を上げるための教育や症例の振り返りを通して多職種とのさらなる連携強化が課題である。
【結論】老健における特定看護師の役割は、入所者が安心して過ごせるように専門的知識を持って状態把握に努めること、またリーダーシップを発揮し、看護師をはじめ、多職種へ情報共有を行い、連携しながら実践に繋げていくことが重要である。よって今後、医療処置の必要な入所者のいる老健において、特定看護師の早期介入は必要不可欠であると分析した。そして今後も実践能力を高めて自己の課題を見出し、役割を獲得していく必要がある。