講演情報

[15-P-P201-02]併設病院リハビリ専門職の老健研修について老健リハビリを学んでもらう為に

*平原 奈緒美1 (1. 新潟県 介護老人保健施設悠遊苑)
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併設病院リハビリ専門職が期間限定で老健リハビリを学ぶ研修を2016年度から開始した.研修者の変化に伴い,研修内容を変更してきた.今回,研修内容を振り返り,見えてきた課題を報告する.今後は,(1)公平性のある評価方法とキャリアファイルの活用による個々に合わせた研修計画,(2)病院での様々な疾患の経験,(3)研修自体の評価を通して,患者の生活向上に繋げていきたい.
【病院リハビリ専門職の老健研修開始のきっかけ・背景】
当施設群のリハビリ専門職(以下,療法士)は増員により,経験年数が少ない者の割合が増した.病院では入院期間の短縮を目指し,入院リハビリは身体機能の回復に多くの時間が割かれるようになった.その結果として,退院前家庭訪問の機会や外来リハビリが減少した.また,退院後の患者の様子を知る機会の少なさと介護保険の知識や社会資源の情報不足から,退院後の生活の具体的想定が難しくなってきている.
これらの問題に対処する為,病院療法士が期間限定で,老健で生活期リハビリを学び,入院患者のリハビリに活かす研修「キャリアアッププログラム」(以下,CUP)が2016年度から始められた.
【当施設群リハビリ部の特徴】
回復期リハビリ病棟と一般病棟を持つ病院と老健等から構成される.療法士は総勢84名在籍.老健療法士12名.経験年数の内訳は,10年以上が8割,5~10年が2割である.一方,病院では10年未満が5割以上を占め,経験年数の少ない者が多い.
療法士は入職時,回復期リハビリ病棟に配属され,教育部管理の下,卒後研修を2年間受ける.療法士は,卒後研修やその後の業務経験,自己研鑚等がまとめられた「キャリアファイル」を所有している.老健に関しては,1年目に老健の概要や特徴を簡単に説明.2年目に老健リハビリの実際を知る為に,入所と通所の個別や集団リハビリの見学を1日実施している.その中で,入院中に担当した患者のその後の様子も見学している.
また,普段から病院と老健療法士間で,利用者に関する情報共有をするようにしている.
【CUPについて】
CUP対象者:卒後研修を終えた経験3年目以上の者.
業務:一般入所と通所リハビリの兼務.
担当する利用者:病院でリハビリを担当した方.また,在宅退所や退所前後訪問が想定される方.
流れ:CUP開始前に教育部がCUPの意義や評価方法を,老健療法士が業務についてオリエンテーションを実施.その際,自己で目標設定してもらい,その後は時期に応じ,目標や評価項目の達成度を確認し振り返る.CUP修了後,最終評価を対象者と老健療法士でそれぞれ行い,教育部が統括する.また,報告会をリハビリ部内で行う.
【CUP内容の変化】
開始当初は,内容や進め方は細部まで決められておらず,手探り状態であった.CUP対象者はリハビリ部全体のレベル向上の為に,修了後に病院での後輩育成の役割を期待される者が優先され,経験年数が多い者が続いた.指導内容はリハビリメニューそのものよりも,生活期や終末期リハビリ,書類作成等,老健独自のものが多かった.
近年,CUP対象者は経験年数の少ない者に移り変わってきている.回復期リハビリ病棟では脳血管や整形疾患のリハビリが主となり,当苑利用者に見られる神経難病や認知症,精神疾患,心疾患のリハビリ経験が少ない.また,退院前家庭訪問や集団リハビリ等の経験が乏しい.指導内容は,これまでの老健独自のものに加え,様々な疾患のリハビリメニューや福祉用具,介護保険制度等と多岐に渡るようになり,指導時間は増加傾向にある.
【CUP内容の変更】
(1)CUPの開始前準備
CUP対象者の中には,学生実習のような受身的な者も見受けられるようなってきた.その為,本CUPの目的や意義を理解し,自己で目標設定することで,自分事として捉えられるように開始前にオリエンテーション行うようにした.
(2)CUP期間
期間は当初6か月だった.在宅退所者数や退所前後訪問の機会は,越冬の入所者が退所する春に多く,冬に少ない為,CUPの時期により対象者の経験の偏りが生じていた.
CUP修了者からも,6か月では業務に慣れ始めた頃に修了になり,より深く学ぶには期間が短く,期間延長の希望が多数あった.昨年度から1年間に延長となった.
(3)CUPの進め方
CUP対象者像の変化に伴い,指導方法を「説明・見学→模倣→実践の順」に段階づけたクリニカルクラープシップに変更した.利用者毎に相談しやすく,補助しやすい協業体制にした.
また,老健療法士間で進捗状況の確認と情報共有をした上で,支援方針や内容,方法を検討し,経験の少ない訪問や集団リハビリ業務の追加や業務量調整を行い,支援している.
(4)評価方法
CUP開始時,評価項目は大まかで,評価の判定基準が不明確な為,達成度の判断が難しかった.評価項目を細分化し具体的になるよう,老健療法士から意見や提案を挙げ,修正を行った.
【今後の課題】
(1)CUP対象者が主体的に,自己で目標設定ができるようキャリアファイルを活用し,個々に合わせたCUP計画を予め立てていきたい.それに基づき,段階づけられた評価項目毎に振り返り,達成度の確認を老健療法士や教育部と協業し,新たな目標の設定に繋げていきたい.
(2) 回復期リハビリ病棟では脳血管や整形疾患が主であるが,当苑利用者の疾患は多岐に渡る.その為,未経験な疾患について新たに学ぶ必要性があり,限られた時間では充分に行えない現状にある.
それに対し,予め病院の一般病棟で,様々な疾患のリハビリを経験しておけるようにしたい.
(3)今回,CUP期間を1年に延長したことの成果が,どのように現れているか振り返り,現状に適したものにしていきたい.
また,今後,CUPの成果が,病院のリハビリに波及しているか追っていき,本CUPの目的である患者の生活向上に繋げていきたい.