講演情報

[15-P-P101-04]2D写真とVirtual Reality画像の在宅情報活用について

*松尾 康宏1、牟田 博行1 (1. 大阪府 介護老人保健施設 竜間之郷)
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在宅復帰において自宅環境の把握は重要と考え、自宅写真から利用者にコメントを取っていたが、今回360度Virtual Reality(以下、VR)カメラを使用し、従来の写真とのコメントの差を比較した。結果は360°VR画像がより多くのコメントが得られた。VRの集中しやすい没入感から多くのコメントが出たのではないかと考える。仮想であっても在宅環境の想起は利用者のリハビリ目標にも寄与が可能であった。
【はじめに】
 介護老人保健施設は、介護を必要とする高齢者に対し様々な支援を行う包括的なケアサービス施設としての機能を有している。もとよりリハビリテーション施設としての機能を持っているが、特に在宅復帰・在宅生活支援という重要な役割を担っている。竜間之郷においても在宅復帰・在宅生活支援を重視し、退所に向けて自宅への早期訪問を行っている。訪問時は玄関や室内の段差・ドア幅等の計測に加え、生活上で利用の多い場所を写真撮影している。しかし、より詳細な情報を得るには通常のカメラで撮影した写真より、より立体的で没入感のある360度Virtual Reality(以下、VR)画像ではさらに住宅の情報が引き出せるのではないかと考えた。そこで今回、早期訪問時に360度カメラにて住宅要所の撮影を行い、入所中にその360度画像をVR機器にて視聴し情報収集を実施した。そして住宅に対するイメージの変化を、従来の一般的な2次元の(2-Dimensions以下2D)写真と比較した。
【目的】
 在宅復帰において自宅の環境調整は非常に重要と考え、訪問時は要所の撮影を行い、写真を訪問指導報告書に掲載し多職種に対し情報の共有を図っている。写真は利用者から自宅情報を聞き出す手段としても使用するが、従来の2D写真であった。今回は360度カメラを使用し、早期訪問時に撮影した2D写真と360度VR画像を利用者が視聴し、両方から得られた住宅情報に差異があるのか、利用者の自宅に対するイメージの変化の差異を比較する。
【対象】
 協力を得られた対象者は在宅復帰を目的とした入所利用者80~90代の女性4名であり、長谷川式簡易知能評価スケールは15~30点の範囲内であった。いずれもデジタル機器には詳しくはなくVR機器の視聴は初めてであったが、装着や使用方法についてはVR機器を目の前に口頭で説明を行い、理解と同意を得ることができた。なお本発表に関連し開示すべきCOI関係にある企業などはない。
【撮影機材】
 VR画像の撮影は,360度カメラとして発売されているRICOH THETA SC(株式会社リコー)を使用した。360度画像の再生は、プレイステーション4(株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント)にVRゴーグルを接続し視聴する。撮影された家屋の画像はVRゴーグルにより視界の前方に広がり、体の向き動き視線を自在に動かして好きな角度で見ることが可能となる。またPlayStation4はTVに接続しているため、VRゴーグル内の画像を外部からモニタリングすることができる。これらはゲーム機器であるがVR画像の視聴に特別なアプリケーションは必要なく、ゲームのみならず他の機器で撮影した360度データも、USBメモリを介しPlayStation4に接続すれば視聴が可能となる。360度画像は、基本アプリ「RICOH THETA」にて2D写真への加工も可能である。360度カメラにUSBケーブルを接続し必要な画像データをWindows PCへ転送し、アプリ実行後に閲覧したい画像をマウスドラッグし、必要なアングルが確保できれば保存し紙面に印刷ができる。
【方法】
 入所日より7日間以内に自宅情報の把握を目的としてリハビリスタッフが訪問し、主要な生活場所や導線上の要所を360度カメラで撮影する。撮影した画像(主に居室等)を2D写真として印刷する。2D写真を提示し、リハスタップが画像内の家具やドアやベッド等の使用方法や生活上の質問を行う。プレイステーション4に接続されたVRゴーグルにて360度VR画像を見る。2D写真と同じように、リハスタップが画像内の家具やドアやベッド等の使用方法や生活上の質問を行う(2D写真と360度VR画像は同じ場所とする)。2D写真と360度VR画像双方を見た時のコメントを比較する。
【結果】
 自宅の環境を、2D写真と360°VR画像双方の在宅イメージの聞き取りでは、コメントの量に差が見られ、360°VR画像を見た場合の方のコメントが多い結果となった。また、「この窓、重いよってに私には無理」「この前に座って、食べてましてん」など調度品にまつわるエピソードが詳しく語られ、上肢を挙げ前方の空間を指差す動作も見られた。さらに見ている対象に向かい体幹の方向を変える動作も見られた。他のコメントとして「ここからトイレまで歩いてましてん」「手すりようさんあるやろ」と移動に関するコメントが得られた。実施後は「はよ帰りたいなあ」「帰れるか心配」などの声も聞かれた。2D写真の場合は「これ私のベッド」「これテレビ」と写真を見るだけと指差し動作があったが、上下肢・体幹の大きな動きはほとんど見られなかった。
【考察】
 VRは仮想現実と訳されており、ゲーム利用のみならず製造や医療等の現場教育にも導入されている。今回、利用者が自宅の情報を、少しでも多く思い出す手がかりになるのではないかと期待を込めてVR機器を使用した。2D写真と360度VR画像を見た結果では、双方同じ撮影場所に関わらず360度VR画像のほうがより多くのコメントが得られた。360度VR画像は、2D写真と比較し画像の情報量が多いことが考えられる。さらに、VR機器の特徴とされる対象に集中しやすい没入感が、あたかも前方に自宅の部屋が広がっているように感じさせ、積極的な意見が出たのではないかと推測できる。
他の比較では、2D写真では見られない大きな身振り手振りで、自宅生活のエピソードを話す様子は在宅復帰を望む意欲としても感じられた。しかし「はよ帰りたいなあ」「帰れるか心配や」という不安を感じとれるコメントもあり在宅への現実感とも捉えられた。また「ここからトイレまで歩いてましてん」「手すりようさんあるやろ」など空間を思わせるコメントには「トイレまで4m歩く練習をしましょう」といった明確な目標の共有ができた。今回、2D写真と比較しVR機器の使用は、より具体的な自宅情報を利用者から聞き出せる可能性として示された。入所中であっても自宅に近い体験を得ることは、物理的な制約を超えるVRの活用となる。