講演情報

[15-P-P101-05]家族との関わりを増やし、在宅復帰に至った事例

*中村 みどり1、原野 裕美1、山本 律子1、白崎 潤1、大坪 三保子1、水野 英里1 (1. 愛知県 老人保健施設さざんかの丘)
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家族との関わりを増やし、在宅復帰に至った事例を報告する。A様は入所当初不安が強く、介護拒否や暴力等問題行動が多くみられた。新型コロナ流行以降家族との面会を制限していたが、カンファレンスで精神安定のために家族面会が必要と判断し、家族との面会や話し合いを多く実施した。結果、精神的に安定しADL改善もみられ、入所後六か月で在宅復帰となった。意欲向上や情報共有のためにも家族との連携が在宅復帰に重要とわかった。
【はじめに】
当施設では在宅復帰率向上のための取り組みとして新規入所者に対し多職種カンファレンスを定期的に実施し、在宅復帰に向け課題の進歩状況や問題点の検討を行っている。近年新型コロナウイルスの影響で家族を交えた話し合いや面会機会が少なくなり、カンファレンスを実施して施設内ADLが向上しても家族に現状が伝わらず在宅復帰に至らない事例が多くみられた。今回家族との関わりを重視したことがきっかけでADL改善及び家族の意識改善に繋がり、在宅復帰に至った一事例をカンファレンスの時系列に沿って報告する。
【方法】
今回の対象者A様は80代男性で、市内在住の娘夫婦の支援も受けつつ、当施設通所リハを利用している要支援の妻と二人暮らしをしていた。以前から認知機能低下は若干みられたものの身体面は問題なく、妻を支援してIADLも担当していた。誤嚥性肺炎により緊急搬送され、二週間の入院ののち退院するもその一週間後に再び誤嚥性肺炎で入院し、二度目の入院から一か月半後に退院となったが、入院期間中に認知面やADLの低下が進行し、妻では介護困難なため当施設入所に至った。入所当初の家族の意向は、介護なくADLができるのであれば在宅復帰可能だが、難しければ他施設への入所を検討とのことだった。
カンファレンスは施設ケアマネージャー(以下ケアマネ)、相談員、医師、看護師、介護士、リハビリテーション(以下リハビリ)スタッフを構成員とし、必要に応じて家族も参加した。開催時期は入所前、入所後一週間、二週間、一か月半を基本とし、その他適時実施した。まずはケアマネが作成したケアプランに沿って施設内ADLの問題点や改善点を話し合い、家族が求めているADL能力まで改善がみられた時点で家族にも在宅での不安な点などを聞き取り、より具体的なアプローチを実施した。アプローチ内容としては、精神面の安定や移動手段、トイレ動作の改善、誤嚥再発防止に関する事が主となった。
【結果】
入所当初HDS-R13点、移動は車椅子もしくは両手引き歩行、トイレ動作は可能だが失禁失敗ありで、ADL全般的に軽介助が必要な状態だった。環境変化や認知機能の低下に加え、家族に見放されて入所になったという気持ちから介護拒否が強く、易怒性や意欲低下が強くなっていた。また帰宅願望も強く、出口を探し求めて一人で歩いてしまうことによる転倒未遂や、介護士への暴力行為、リハビリ拒否による介入困難といった問題点があり、入所一週間後にカンファレンスを実施した。介護士・リハビリスタッフからは家族に会えない不安感が精神的不安定に影響しているのではないかとの意見があり、家族との早急な面会が必要と判断したため、相談員が家族面会を設定することとなった。妻・娘との面会では暴力行為や一人での危険な歩行移動を咎められた上で、在宅復帰に向けた激励も受けたことでA様も家族から見放された訳ではない事を認識でき、翌日には温和な性格になって介護を受けた際にお礼を言ったり、リハビリや自主練習にも積極的に取り組まれたりと劇的な変化がみられた。
入所二週間後のカンファレンスでは家族がトイレ自立を希望している事を議題に、自身でのパット交換を目標としたケアプランを作成し、パットの種類変更や安全なトイレ動作を介護士・リハビリスタッフで模索していった。その結果、入所三か月後にはパット管理を含め自身で行えるように改善した。
入所一か月半後のカンファレンスには家族も参加し、失禁時には自身でのパット交換が可能となったこと、シルバーカーにて施設内移動が自立となったことを伝え、在宅復帰可能と伝えたが、家族は暖かくなる春まで入所継続したいとの意向だった。
その後、更に妻の介護負担軽減及び誤嚥再発防止のため看護師や言語聴覚士が主となって服薬やとろみ剤管理を自身できるようアプローチを行った。入所期間中はリハビリ室での運動中に通所リハを利用してる妻と対面できるよう配慮し、入所が長引いているA様に対しモチベーションの維持も図ってきた。運動しながら妻と会話をすることも良い刺激となり、最終的にはHDS-R25点と認知面での改善もみられた。
自宅での動作確認も必要だったため、三回の外出を経て家での過ごし方を家族が確認し、床上動作など問題があった箇所はリハビリで繰り返し練習を行い、家族も安心できる状態となったため、入所から六か月後に自宅退所となった。
【考察】
在宅復帰のためには看護師・介護士から見た問題点をリハビリに反映させる、できるようになったADLを実際の生活に反映させる、相談員やケアマネを通して家族と関わるなど様々な職種が連携して情報共有していく必要がある。しかし職種により勤務時間が異なることもあり、連携が取りにくい場面も多々あった。そのため当施設では定期的にカンファレンスを実施することで目標の確認とアプローチの検討を行い、今回の事例では精神面の安定や移動、トイレ動作、服薬管理の改善を図ることができた。
ADLが向上したにも関わらず在宅復帰に至らなかった事例と比較すると、今回の事例は家族関係が良好で、尚且つ面会や家族を交えたカンファレンスの機会を設けられたことが大きな要因になっていると考えられる。面会に関してはA様の精神的安定に繋がったのはもちろん、妻に対しても改善点をこまめに報告することで自宅での生活を前向きにイメージすることができ、在宅復帰の不安を払拭することができた。一方で面会機会が少ない事例では帰宅に対する熱意が十分に伝わらない、家族に改善点が伝わらずに入所当初の姿をイメージして退所困難と判断される、家族関係が希薄になるといった様子がみられ、在宅復帰が進まない事例も多々あった。今回の事例を通し、カンファレンスは職員間のみで完結するのではなく、家族も構成員として情報共有や意思疎通を図っていくことが在宅復帰を進める上で重要であるとがわかった。